事例3 港の有効活用に着目し遠い国から近い国へ
エル・アイ・ビー(島根県浜田市)
中古車販売・修理業を行うエル・アイ・ビーは、国際貿易港である島根県・浜田港の有効活用を目指して、ロシアへの中古車輸出に乗り出した。以降、建具や食品、子ども用品……と輸出品目を拡大し、ロシアとの貿易における独自の仕組みを確立する。現在では、ロシアビジネスを開拓したい企業の支援にも力を注いでいる。
地元の国際貿易港を活用し中古車を輸出する
平成9年6月、島根県浜田港に40人のバイヤーを乗せたロシア貨客船が初入港し、80台の中古車を乗せて出港した。この事業を扱ったのが浜田市にあるエル・アイ・ビーだ。同社は昭和60年に中古車販売・修理業で創業し、当時の社名はチューブといった。社長の高橋克弘さんは、ロシア貿易に乗り出した経緯をこう説明する。
「もともと着目したのは浜田港なんです。島根県唯一の国際貿易港ですが、有効活用されているとはいえず、地域経済の損失と思っていました。それで浜田商工会議所内に海外取引研究会を立ち上げて、貿易について勉強を始めた矢先、韓国の友人から『もし嫌でなければ、ロシアの船を紹介するよ』と言われ、やってみる気になったんです」
ロシアについて調べると、極東の都市ウラジオストクと浜田は同じ経度上にあり、距離にして900㎞、直行便で36時間という近さにあった。高橋さんは地元の同業者に声を掛け、ロシアに向けた中古車販売に乗り出し、冒頭に述べた通り無事に初輸出を果たす。その後波はあったものの、事業は少しずつ軌道に乗っていった。18年には、ウラジオストクに現地事務所を開設するとともに、エル・アイ・ビーを設立してチューブの貿易事業を継承し、さらなる輸出を目指した。
「ピーク時には、年間144隻のロシア船が浜田にやってきました。車をびっしり積んでもまだ余裕があったため、隙間に木製室内ドアを積み込んで一緒に輸出したんです。それが好評で、次に生鮮食品やインスタントラーメン、紙おむつや日用品……と、輸出品目が増えていきました」
ロシアビジネスの仕組みを構築して企業をサポート
それと並行し、同社は通関業務も開始する。また、県や市、商工会議所、浜田港振興会などで構成する「浜田港ロシア貿易発展プロジェクト」に参加し、ロシア貿易の日本側窓口を同社内に、ロシア側窓口を同社のウラジオストク事務所内に設置する。こうして事業拡大に取り組みつつ、ロシア貿易を検討する企業の支援体制も整えていった。
「そうした中で、『ロシアに自社製品を売りたい』『自社製品の販売を打診されたがどうすればいいか』といった相談が寄せられてきました。しかし、ロシア市場に魅力を感じながら、リスクを心配する声も多い。そこで単なる助言で終わらせず、一緒にロシア貿易を行うビジネスモデルを考えました」
その仕組みとはまず、ロシア貿易を検討している企業の相談を受け、製品づくりのアドバイスなどをしたうえで、製品をいったん同社が買い取る。そのうえで商談や輸出手続き、輸送までを同社が一貫して行うというものだ。これによりロシア貿易に乗り出す企業が増えれば、浜田港の活用にもつながると考えたわけだ。
「ロシア貿易に躊躇(ちゅうちょ)するのは、ロシアという国のイメージが影響しているのでしょう。確かに政治的にはいろいろありますが、経済面ではむしろ友好的です。ロシア人にとって日本は憧れの国であり、日本製品は安全、清潔、確実だと絶大な信頼を寄せています。それを念頭に取り組めば、ロシアはまたとない市場といえるのです」
輸送日数を19日短縮してモスクワの市場も開拓
こうしてウラジオストクを基点とする東ロシアへの貿易体制を確立した。次の課題は、首都モスクワを中心とする西ロシア市場への販路拡大である。そこで同社は、国土交通省が実施したモスクワへのトライアル輸送事業に参加。地元の特産品の石州瓦や外壁材を浜田港からウラジオストクへ運び、シベリア鉄道に積み替えてモスクワまで輸送するルートの実験だ。
「従来のルートは、浜田港を出たらスエズ運河を経由してヨーロッパに抜け、ロシアの西の玄関口であるサンクトペテルブルクからモスクワに輸送するのが一般的で、約45日間かかります。しかし、シベリア鉄道を使えば最短26日で輸送できることが実証されました。この新ルートの開拓によりモスクワへの輸出量は増えており、今では現地の百貨店やショッピングモールなどに日本製品が多数並んでいます」
同社がロシアビジネスを始めて約20年。実績を上げてきたが、危機もあった。ルーブルの通貨価値の低下、リーマンショックによる世界経済の低迷、ウクライナ問題などが起こったときは、取引がストップして回復の見通しが立たず、最悪の状況も頭をよぎったという。政治が影響して経済が不安定なことが、ロシアビジネスの大きなデメリットといえる。しかし、それで諦めるのはもったいないと高橋さんは力説する。
「リスクを頭の片隅に置いて付き合えば、ロシアはいいビジネスパートナーになります。日本人より日本的なところがあるので、互いに腹を割って話し、意気投合すれば、話がまとまる確率は極めて高い。もしロシアに興味があるなら、パートナー探しは私たちがサポートできます。今後は一緒にロシア貿易ができる会社を増やし、ロシアとの絆を深めて、さらにビジネスを発展させたいですね」と意気込みを語った。
会社データ
社名:株式会社エル・アイ・ビー
所在地:島根県浜田市熱田町2135-8
電話:0855-27-3434
代表者:高橋克弘 代表取締役
従業員:28人
※月刊石垣2016年12月号に掲載された記事です。
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