事例1 高度なコンクリート技術でロシアの国家プロジェクトに貢献
會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)
極東ロシアの最大都市ウラジオストクで、平成24年にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催された。本当にここで開催できるのかと危ぶまれる環境下で、急速にインフラ整備が進み、まちの様相は一変する。それを象徴するように架けられた金角湾海上大橋には、會澤高圧コンクリートの功績があった。ロシアの威信をかけた国家プロジェクトを支えた、高い技術力と交渉力に迫る。
国家予算を投じた極東ロシア開発の波に乗る
北海道苫小牧市に拠点を置く會澤高圧コンクリートは、生コンクリートやコンクリート製品のリーディングカンパニーとして道内の業界を牽引(けんいん)し続けている。昭和10年の創業以来、産業の原動力が石炭だったころにいち早く水力による電源開発に着目、ダム建設に不可欠なコンクリートの供給を通じて事業を発展させた。常に革新的なコンクリート製造の技術開発を続ける社風は、平成10年に就任した三代目代表取締役社長の會澤祥弘さんの代で拍車が掛かる。積雪寒冷地で培った高機能・高耐久コンクリートの研究開発を進める一方、業界に先駆けてIT技術を駆使して複数のプラントをネットワーク化し、ミキサー車両の〝動く生コン工場〟化を実現させていく。
そんな同社がロシアに本格的に進出したのは20年、今から8年前のことだ。24年にAPECのウラジオストクでの開催が決定し、ロシア政府は総額1兆円以上を投じて、極東ロシアのインフラ(社会基盤)整備を急速に進めようとしていた。
「北海道出身者としては、ロシアへは複雑な感情があります。ロシアビジネスを心配する周囲の声もありました。しかし、顔が見えない隣国だからこそ会ってみたい。打席に立ってみようと思いました」
同社が経済産業省認可の公益法人ROTOBO(ロシアNIS貿易会)から紹介されたのが、ウラジオストクの有力コンクリートメーカー、ザハール社だ。だが、いきなり会うことはしなかった。
投資も運用資金も人件費も50対50をキープした理由
「仲介者なしで、直接メールでやり取りしました。相手が日本企業と組もうとしている真意を探るとともに、慎重かつ強気で交渉していったのです。相手の土俵に入れば、そこのルールで物事が判断されます。それだけは避けようと、合弁会社をオフショアの香港に設立しようと持ち掛けました」
これが意外にもあっさり承諾される。合弁会社の事業は、常に50対50で負担し合うことを絶対条件とし、例えば工場の土地と建物をザハール社が、コンクリート製造設備一式は會澤高圧コンクリートが等価評価で拠出するというスタンスをとった。20年末に合弁会社「AZCインベストメント」を香港に設立し、翌年1月には同社の全額出資によるロシア現地法人「AZコンクリート」を立ち上げる。
ウラジオストクは大半が複雑な入り江に囲まれた急勾配のすり鉢状の地形で、擁壁工事にも高度な技術力が求められる。そこで、城の石垣の石積みを応用した耐震擁壁の「フリーウォール」の導入を決定、新都市開発の擁壁工法として採用されたのを機に事業を軌道に乗せていく。
そして時を同じく現地法人を通じて交渉を続けたのが、ウラジオストクの中心部に架かる金角湾海上大橋建設への参入だった。総工費1000億円をかけた国家プロジェクトで、元請けの地元ゼネコン会社「TMK」とザハール社には太いコネクション、會澤高圧コンクリートにはロシア企業にない特殊技術がある。当時を振り返り、「金角湾海上大橋のパースを見たとき、やってみたいと思いました。一目惚(ぼ)れです」と會澤さんは笑う。
地元の人が待ちわびた夢の橋の建設に参入
大橋建設の発注元は沿海州道路管理局であり、その局長やTMKの社長と交流を重ねていく。
「ロシア人は友好的でとても気さくです。しかし大変誇り高い民族」。日本側に技術を委ねることを潔しとしない相手の気持ちをくみつつも、會澤さんは生コン供給に100万ドル相当の前渡金を支払うこと、供給数量未達の場合は差額補償をすることなどを提示する。TMKサイドは難色を示すが、橋の建設着工のデッドラインは近づいていた。そんな中、會澤さんは切り札を出す。建設に数カ月かかるコンクリートプラントにわずか14日間で工事現場で組み立てられるモバイル型があり、すぐにでも供給可能であることを伝えたのだ。
そして、橋の建設工事が動き出す。地元の人々が20年以上待ち焦がれた橋が3年後の24年、APEC開催の約1カ月前に開通し、まちは歓喜に沸いた。
「平和条約すら締結していないロシアの国家プロジェクトに参入できたのは本当に運がよかった。寒冷地でのコンクリート供給の実績が認められ、その後、モンゴル政府筋の要請によるウランバートル進出にもつながりました。他の国からの引き合いもあります。しかし単に市場を求めて海外に出ていくつもりはありません」と言い切る。日本企業はよいものをつくるがコストは現地の3倍、スピードは3分の1。まともに行っても勝ち目はないというのだ。
「黒電話からいきなりスマホに移行するような経済のワープ現象が新興国の魅力。成熟した国内では経験できない大規模なプロジェクトに出合えるが、当社の技術が真に必要とされる具体的なプロジェクトに絞って対応しないと道を踏み外す。当社の主戦場はこれからも日本です」
会社データ
社名:會澤高圧コンクリート株式会社
所在地:北海道苫小牧市若草町3丁目1番4号
電話:0144-36-3131
HP:https://www.aizawa-group.co.jp/
代表者:會澤祥弘 代表取締役社長
従業員:450人
※月刊石垣2016年12月号に掲載された記事です。
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