事例3 2代目社長の〝前のめり経営〟で事業拡大
司ゴム電材(埼玉県蕨市)
司ゴム電材は、ゴムや樹脂製品の製造・販売、金属加工などを手掛ける。バブル崩壊による不景気で業績が悪化していた平成6年、2代目となる小泉徹洋さんが入社。持ち前のバイタリティーにより、営業力と開発力を強化して業績を回復させた。社長就任後はM&Aにも乗り出し、経営不振に悩む中小企業とノウハウを共有しながら、売上アップとものづくりの活性化に意欲を燃やしている。
営業力の強化で全事業部の黒字化を目指す
工業用機械に使用されるゴム製品の販売会社として、昭和34年に創業した司ゴム電材。その後、金属製品の製造にも乗り出し、高度成長の波に乗って業績を伸ばした。もとは商社としての割合が高かったが、2代目で現社長の小泉徹洋さんが入社後、エレベーター関連事業の強化に踏み切ったことでメーカーの顔が大きくなっていく。現在では、販売、製造、技術開発、改善、調達力など、大企業にも負けないノウハウを築き上げるまでになった。
小泉さんが入社したのは、平成6年。バブル崩壊後の不景気により業績が悪化し、売上が30億円から25億円を切るまでに落ち込んだ苦しい時期だったという。小泉さんは「早くから父に後を継ぐよう言われていたので、私もそのつもりで技術系の大学に行き、修業の意味で藤倉ゴム工業に就職しました。しかし、当社の経営状態が芳しくないため4年で家業に戻り、営業を担当することに。当時、全部で6つあった事業部のうち5つが赤字で、一事業部の利益でなんとか食いつないでいる状態でした。私は全事業部の黒字化を目指して営業力の強化に乗り出しました」と当時を振り返る。
そこで営業担当社員を積極的に採用し、技術営業のノウハウをマンツーマンで指導。客先でミニ展示会を行う独特の手法も展開し始めた。また、それまで売上に占める割合がわずか数%だったエレベーター関連事業を「これから成長の見込める市場」と注目。エレベーター機能部品を自社工場でつくるため、金属加工分野に大型の設備投資を行い、製造力の強化を図った。その結果、売上は3~4年で30億円までV字回復した。
エレベーター部品の新商品開発で拡大路線へ
小泉さんがこのように手腕を発揮できたのは、先代社長の政雄さんが事業承継に向けた準備を早くから進めていたことが大きい。
「父は人情に厚く、従業員を大切にする人。会社の幹部をよく家に招いて、私も小さいころから遊んでもらっていたので、家業に入ることに抵抗はありませんでした。社長の息子が入ってくるのをよく思わない人もいたようですが、父が話をして理解を求めたり、納得できない人は辞めていったりと、お膳立てしておいてくれたので、すんなり仕事に集中することができました」
小泉さんが営業で心掛けたのは、相手の考えの2~3歩先を読んで行動すること。常に頭を働かせて、他社が10軒しか回らないところを100軒回る。そうしてタイミングを逃さぬようにすれば運も味方し、仕事に結びつくのだ。この方法で小泉さんに鍛えられた営業マンたちはメキメキと力をつけ、今では同社の役員や営業トップに成長している。
ところが、売上は30億円から伸びない時期がしばらく続いた。そこで打った次なる手は、技術開発力の強化だ。取引のあったエレベーター会社から技術者を招き、新しい商品の設計開発に着手。「リミットスイッチ」を生み出した。これはエレベーター用制御装置で、従来は大型金属製だったものを、樹脂製にして小型化したもの。特許も取得し、今では同社の主力商品の一つとなっている。この開発を機に展示会に出展するようになり、拡大路線を突き進んだことで、売上35億円を達成した。これで機は熟した。平成20年に小泉さんは社長に就任した。
従業員を幸せにするM&Aで新しいステージに進む
23年、同社に転機が訪れる。M&Aの話が舞い込んできたのだ。
「M&Aなんて大手企業のやることだと思っていましたが、思い切ってやってみたらうまくいったんです。赤字続きの板金製造会社で、譲渡時には売上8億円ほどでしたが、3年目には18億円になりました。おかげでなかなか伸びなかった当社の売上がグンと伸び、50億円を軽く超えたんです。『これだ!』と思いましたね」
小泉さんの考えるM&Aは、「技術はあるが業績不振」とか、「後継者がいなくて困っている」といった会社を買収し、同社のノウハウを使って互いの飛躍を目指すというものだ。単に利益を追求するのではなく、付加価値を高めてお金を残し、従業員の生活を向上させるのが目的だと語る。実際、買収した板金製造会社の従業員を一人もリストラせず、初年度から賞与を支給。2年目からは昇給も実現した。小泉さんは「その方が、士気が上がるから」と理由を語る。
経営者として、従業員の幸せを念頭に采配を振るうところは、先代社長の「人情に厚く、従業員を大切にする」という方針をしっかり受け継いでいるといえる。一方、経営面は決まった顧客を相手に手堅くやってきた先代時代とは違い、新規の顧客を開拓しながら前へ前へと突き進むやり方へと変わった。「仕事の方針をめぐって父とはよくケンカしたものです。それでも私が数字を上げるのを見てきたので、最終的にはバックアップしてくれました。親子とはいえ、考えが一致するとは限らない。言いたいことは言って、その都度お互いの考えをぶつけてきたのは、結果的によかったと思います」
今後は海外市場も視野に、売上の約40%を占めるまでになったエレベーター関連事業にさらに力を入れつつ、積極的にM&Aも進めて、売上100億円を目指すという。長い二人三脚の時間を経てスムーズに事業承継を成し遂げた同社は、新しいステージへ進もうとしている。
会社データ
社名:司ゴム電材株式会社
住所:埼玉県蕨市塚越2-19-21
電話:048-445-7532
代表者:小泉徹洋 代表取締役社長
従業員:140人
※月刊石垣2015年11月号に掲載された記事です。
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