事例1 函館唯一の鮮魚輸出会社の挑戦
サンフーズ(北海道函館市)
函館近海で水揚げされた鮮魚を活用したワンランク上の店をやりたい――。そんな思いで、平成17年にサンフーズを設立した小林真実社長。店で提供する食材を仕入れに自ら魚市場に通ううち、卸売業務も扱うようになり、急速に事業が拡大。現在では輸出にも乗り出し、海外市場を開拓して地域経済に貢献している。
コスト削減のため自らが仕入れに行く
「イカのまち」としても有名な函館市の水産物地方卸売市場には、旬を迎えたスルメイカをはじめ、さまざまな鮮魚が集まってくる。その仕入れに毎朝足を運んでいるのが、サンフーズ社長の小林真実さんだ。目当ては自身の経営する和食店で提供する食材。同時に日本各地から注文の来た鮮魚を買い付け、その場で発送する卸売業務もこなす。近年ではアジアからの引き合いが急増しているのを受け、市内の財団法人や研究機関などと連携し鮮度を保持する技術を確立。海外輸出にも力を入れている。
会社を設立して今年でちょうど10年。目を見張る躍進ぶりだが、小林さんはもとから〝魚のプロ〟だったわけではない。
「私は20代のころ、函館の観光名所・五稜郭タワーにある和食店で店長を務めていたんです。ところがバブルが弾けて客足が減り、売上も激減。打開策として、料理に使っていた冷凍食品を鮮魚に切り替え、本格和食店へとシフトしました。その際、少しでも単価を抑えるため、素人の私が直接魚市場に仕入れに行くようになったのがことの始まりです」と当時を振り返る。
店は「おいしい」と評判になり、売上は8年間にわたって前年比増を達成するまでになった。ところが五稜郭タワーの建て替えに伴い、飲食部門が別会社化された。それを機に自分の店の構想を温め、2年後に独立。同社を立ち上げて、本格海鮮和食店「旬花」をオープンした。
お客のニーズに応えるうちに海外にまで事業が拡大
小林さんが目指したのは、地元客向けのワンランク上を狙った店だ。地元の人が認める味を提供できれば、おのずと観光客もやってくると考えたのだ。もくろみは当たり、開店当初からほぼ満席に近い状態が続く。やがてお客のニーズに応えて仕出し料理や弁当もつくるようになった。こうなってくると、とても1人では回せなくなったため、新たにサンフレッシュサービスを設立。飲食店運営は新会社へ移行。サンフーズは仕入れ会社としてすみ分けた。
「魚市場から直接仕入れをする店として雑誌に取り上げられたとき、『全国の飲食店の皆さんにも函館の味を伝えたい』とコメントしたら、東京の居酒屋チェーンの社長から『本当に生きのいいイカを送ってくれるのか?』と連絡があって(笑)。そこから卸もやるようになりました」
魚屋が飲食店をやるのはよくあるものの、飲食店が魚屋をやるのは極めてレアケースといえる。しかし、元来好奇心が旺盛で人のやらないことを面白がってやるタイプを自認する小林さんは、卸業を通じて全国各地にネットワークを広げていく。ついには名古屋に住む知り合いが、タイで卸売業を営む夫婦とともに視察に訪れる。
「今バンコクでは日本食が大ブームなので、函館の鮮魚を送ってほしい」
そこで、かねてよりアジア地域に道産食材の販路開拓を模索していた北海道食品開発流通地興などと連携。輸出に向けた取り組みをスタートさせた。
「鮮魚の味を保つには常温流通が基本です。高温多湿なアジア地域への輸出となれば、長時間鮮度を維持する技術が必要になります。そこで、北海道立工業技術センターの協力を得て何度も実験を繰り返した結果、シャーベット氷に行きついたんです」
シャーベット氷は粒が小さいため接触する面積が広く、魚を傷つけずに素早く温度を下げるので、生け締め状態で輸送することができる。しかし塩分を含んで通常の氷より重く、その分航空運賃が高くなってしまう。そのため、極力水分を抜いて軽量化することにした。小林さんはこうしたノウハウをもとに、国際衛生基準を満たす加工施設を今年3月に完成させ、海外の販路拡大に向けて忙しい日々を送っている。
飲食と卸の中間という立ち位置が新事業を誘引
現在、函館市内で鮮魚の海外輸出を扱っているのは同社だけのようだ。輸出には、現地とのやりとりや貿易書類の作成、荷造りや空港までの運搬など煩雑な手続きがある上に、注文通りのサイズの魚が揃わなかったり、天候によって水揚げされないこともある。それらに柔軟に対応してくれる現地のパートナー企業の存在も不可欠だ。こうした手間とコストを考えると、同業他社が安易に参入できないのもうなずける。
「私の本業はあくまでも飲食店の経営です。それでも海外輸出まで扱えるようになったのは、私自身が飲食と卸の中間にいるからなのかもしれません。鮮魚をはじめ、道南のおいしい食材を多くの人に食べてほしいという思いが人を呼び、その人たちの声に応えているうちにこうなりました。今後は人材の育成に力を入れて、事業の拡大を図りながら、函館産のブランド力向上や国内外の需要拡大に取り組み、水産業と地域の活性化のお手伝いが少しでもできればうれしいですね」
すでにアジア以外の新規販路として、米国ロサンゼルスへの試験販売にも乗り出しており、今年度の海外出荷額は1億5000万円を目標に据えているという小林さん。次の新たな10年がどうなっていくのか興味は尽きない。
会社データ
社名:有限会社サンフーズ
住所:北海道函館市亀田町1-10
電話:0138‐43‐5677
代表者:小林真実 代表取締役
従業員:8人
※月刊石垣2015年8月号に掲載された記事です。
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