事例4 吉野杉の流通革新で地産地消の家づくり
イムラ(奈良県奈良市)
奈良県奈良市に本拠を置く木造住宅メーカー、イムラは、吉野杉をふんだんに使った家づくりが特徴だ。それも林業家と独自の流通ルートを確立し、銘木をリーズナブルに供給している。平成27年には官民一体型ビジネスモデルを構築し、上質な住まいを提供することで、林業再生、地域活性化に貢献している。
窮地の中で見つけた銘木という付加価値
銘木、吉野杉︱︱その特徴は節が少なく、香りや色艶が良く、緻密な木目も幹の太さも均一という美しさにある。日本三大人工美林の一つで、今から500年ほど前の室町時代に植林されて以来、脈々と受け継がれている日本の産業であり、文化だ。
だが昭和48年のオイルショックを境に、海外からの外材や新建材を取り入れた安くて短期間で建つプレハブ住宅や建売住宅が席巻すると、国産材の需要は激減。林業全体の衰退は一気に進んだ。
「私が家業を継いだ頃には材木業界の価格競争が激化していました。地元の大工や工務店は、仕事は待っていれば来るという従来のやり方を変えられず、廃業するばかり。当時は材木商だったのですが、大工や工務店に木材を提供するのではなく、エンドユーザーである施主との家づくりに、次第に魅力を感じていきました」と家業に入った当時を振り返るのは、三代目の代表取締役社長、井村義嗣さんだ。昭和2年に祖父が材木商として創業し、22年に父の義将さんが継ぐと製材業にも着手して事業は発展する。そして56年、大手住宅メーカーや木材問屋で経験を積んだ後に、三代目になった義嗣さんが住宅事業を始め、時代の変化に挑み続けている。
「『南大和ニュータウン』の事業主から住宅建築の依頼があり、建てた家は即完売。61年には井村木材、平成3年には井村木材ホームと社名変更して、100%住宅会社へとシフトしました」とほほ笑む。注文住宅の受注が本格化し、事業が軌道に乗るかに見えた。だが、暗雲が立ち込める。
「当時は、新建材を使った一般的な家づくりをしていましたが、明確に大手メーカーとの差別化がなかったため、価格競争に陥ってしまった」と当時の状況を語る。そんな渦中に友人の林業家から相談されたことが転機になった。
「村の吉野杉が売れない。イムラの住宅に使ってほしい」
イムラの家づくりの付加価値と、吉野杉との取り組みが始まった瞬間だった。
林業家と住宅会社で山に命を吹き込む
その友人に紹介されたのが、川上産吉野材販売促進協同組合、通称「川上さぷり」だった。吉野林業の中心地である川上村で組織された20数人の山守(山林の所有者に代わり山林を管理する人)による組合で、銘木を育てる知識や技術に長けていたが、木のどの部分が家のどの部材になるかなどの建築知識には詳しくない。そこで、材木商だった経験を生かして井村さんが住宅に適した無駄の出ない木取りを伝えた。こういった努力の末、川上さぷりとの直接取引がスタートし、吉野杉を調達できる独自ルートを築いていった。
「吉野杉をロスが出ないように使い切り、流通に中間マージンがかからない形で、ふんだんに吉野杉を使った家づくりが一般市場よりリーズナブルな価格で実現できます。一方、川上さぷりも売れずに困っていた原木が大量に安定供給でき、長期的展望も描けます。イムラが、林業とエンドユーザーを結ぶ橋渡し役になるわけです」と井村さん。
平成12年にこの革新的な流通ルートは確立したが、飛び越えられた中間業者は面白くない。当初は川上さぷりへの風当たりは強かったそうだが、イムラの「吉野杉の家」は好評を博し、直接取引は順調に拡大していく。川上さぷりとの取引を打ち切った中間業者らが、川上さぷりから仕事を請け負う逆転現象が生じ、対立関係は自然と解消されていった。林業が衰退し、過疎化が進んでいた川上村全体がこうして活気づくと、27年には川上村と川上さぷりを含む林業4団体からなる「吉野かわかみ社中」を結成。さらなる生産、加工、流通、販売の安定供給を図る、官民一体の新システムが誕生した。
木を使うことで山を育み地元を豊かにする
「吉野杉の家」は18年間で約800棟を引き渡す。樹齢100年の吉野杉に換算すると約4万6000本を使ったことになる。川上村の年間出荷量が1万2000㎥で、そのうち3分の1を同社が使用している計算だ。
これを環境破壊と捉えるのは早計で、人工林に人の手が入らなくなると、木はしっかりと根を張れずに土砂災害を引き起こしかねない。伐採し、植林し、育てる。この循環サイクルがあってこそ、人工林は美しく健やかであり続ける。
「イムラでの家づくりに興味を持たれた方を対象に、年一回吉野杉伐採見学ツアーを開催しています。自分の住む家に使われる木が育った環境や育てた人々と交流できるのもイムラならでは。川上村の林業家たちの励みにもなっています」と胸を張る。
さらに、吉野杉の材質だけに頼らず、デザイン性や機能性の向上にも邁進し、24年には関西で初めて木造住宅合理化システム「長期性能タイプ」に国土交通省指定機関より認定される。数々の賞に輝く中で、林業再生事業システム「500年の吉野林業を住まいづくりで守る! 川上村との取り組み」、木製内部建具「GENPEI」、代官屋敷の古民家再生では27年よりグッドデザイン賞を3年連続で受賞。29年には「吉野杉の床」がキッズデザイン賞にも選ばれた。
「専属大工の伝統技術を受け継ぐ若手育成にも力を入れています。奈良県の『大和建て』という建築技法を次世代につなげていくのもイムラの使命です。また、林業再生においても、川上村にある東京ドーム1個分ほどの社有林〝イムラの森〟をもっと活用して、山の大切さ、山仕事の厳しさを知る場を提供したいです。今春には100人規模の植林ツアーも計画中です」と語る井村さん。木を見て森も見る先に、夢を描き続ける。
会社データ
社名:株式会社イムラ
所在地:奈良県奈良市三条大路3丁目2-7-1
電話:0742-36-5515
代表者:井村義嗣 代表取締役社長
従業員:70人
※月刊石垣2018年2月号に掲載された記事です。
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