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まちの解体新書 産業と観光による 交流のまちを目指す

大水槽と日本海の水面が一体となった水族博物館「うみがたり」

「三つの城」と偉人を多数輩出する地

戦国最強といわれた義の武将・上杉謙信公のふるさととして知られる上越市。市内には、上杉謙信ゆかりの名所・旧跡が数多く残る。

1911年1月、当時のオーストリア・ハンガリー帝国の軍人テオドール・エドラー・フォン・レルヒ少佐が日本で初めてスキーの指導を行った地でもある。これが日本のスキーの始まりといわれている。

上越市は、新潟県の南西部、北信越地域の中央に位置し、新潟県内第3位となる19万人の人口を擁する。東京23区の1・5倍もの広さを持ち、四季折々の美しい自然がある。エネルギー港湾としての直江津港、日本三大夜桜の高田公園など、産業と観光を併せ持つ複眼都市である。

そして、上越市を語る上で欠かせないのが「三つの城」。越後の国を治めるシンボルとして築かれてきた。上杉謙信が越後統一の拠点としたのが山城「春日山城」だ。上杉景勝が会津へ移封された後、堀秀治によって築かれ、後に徳川家康の六男、松平忠輝が入城した「福島城」。1614年に、徳川家康の命で「高田城」が築城された。忠輝は初代城主となり、その後御三家に次ぐ家格の松平光長へと続く。城とともに栄えた直江津と高田のまち。そして豊かな海山の恵みをもたらす周辺部の地域が現在の上越市となっている。

また、長い歴史と固有の気候風土の中で、人々が知恵を重ね合わせ、培ってきた個性的な文化が多くある。豊かな農水産物と湿度の高い気候を生かした多彩な発酵食品がその一例で、産業や食文化として現代に継承されている。こうした風土と歴史を背景に、近代日本の礎を築いた人材も多数輩出している。日本画壇の最高峰・小林古径や郵便制度を創設した前島密、応用微生物学研究の坂口謹一郎、本格的国産ワインづくりの先駆者・川上善兵衛ら偉大な先人の業績は今もなお色あせない。

上越商工会議所 会頭 髙橋 信雄 氏

ストック効果の高いインフラの整備

古くから交通の要衝として栄えてきた上越市には、直江津港をはじめ、陸路として北陸自動車道、上信越自動車道がある。

そして、2015年3月には北陸新幹線長野~金沢間の開業により上越妙高駅が誕生した。東京と上越妙高駅が最速1時間52分で結ばれたほか、長野まで18分、富山まで39分、金沢まで62分と首都圏や関西方面へのアクセス時間が大幅に短縮され、ビジネスや観光などに利用されている。22年度末に福井県敦賀市まで延伸することも決定し、大阪への利便性が高まり、交流可能圏域がより一層広がることが期待されている。

利便性の向上に伴い、上越市の魅力アップにつながる施設が続々オープンしている。市民の暮らしに潤いをもたらすとともに、多くの観光客を呼び込むコンテンツになっている。 一つが飼育数世界一のマゼランペンギン、新潟県内初のシロイルカ、日本海をバックに躍動するバンドウイルカのエリアなどが見どころの「うみがたり」。上越市における80年を超える水族館の歴史を受け継ぎ、新たに生まれ変わった。

もう一つが「上越市立歴史博物館」。地域の歴史に焦点を当てて再スタートした。歴史の舞台となった場所で、上越市の歩みを知ることができるスポットだ。常設展では、越後の都をテーマにした安土桃山時代以降の地域の発展の様子を紹介している。

19年12月には、スポーツコンベンションの拠点となる「謙信公武道館」が竣工予定だ。 上越商工会議所の髙橋信雄会頭は「悲願の北陸新幹線・上越妙高駅の開業によってビジネスや観光の視点が変化しました。新幹線一本で結ばれるのは強みです。誘客・交流や、交通拠点としての優位性を生かした新たな企業誘致にも力を入れていきたい。ストック効果の高いインフラをビジネスや観光にいかに活用していけるかにかかっていると考えています」と語る。

直江津港と小木港を結ぶ高速カーフェリー「あかね」

物流拠点とエネルギー基地の役割を担う直江津エリア

直江津港は、本州日本海側のほぼ中央に位置し、アジアのハブ港である韓国・釜山港との国際定期コンテナ航路が開設されている重要港湾だ。1万tを超えるコンテナ船に対応できる耐震強化岸壁と広く使いやすいコンテナヤードが整い、混雑の無い速やかな貿易手続きなどの利点から、物流の取り扱いが年々増加しているという。

また、北陸自動車道と上信越自動車道の結節点に近く、上越魚沼地域振興快速道路の整備も計画されるなど、内陸物流にも欠くことのできない高速交通網が整っている。 さらに、11年には国のLNG(液化天然ガス)拠点部門の日本海側拠点港に選定され、日本のエネルギー拠点としても大きな変貌を遂げようとしている。10万tを超えるLNG船が世界各地から入港し、火力発電所に供給するとともに、LNG基地からは首都圏を中心に1都8県に送っている。

首都圏や中部圏への電力、ガスの供給を支える直江津港は、エネルギー港湾として重要な役割を担うだけでなく、太平洋側で大規模な災害が発生した際の物流やライフラインをバックアップする拠点としての機能も有している。

直江津港は観光面においても佐渡市の小木港と定期カーフェリーで結ぶ海の玄関口であり、多くの観光客でにぎわっている。高速カーフェリー「あかね」の就航により、上越市を中心に佐渡市、新潟市などを範囲とする県内周遊型広域観光の要となっている。 一方、近年、国の調査で、日本海上越沖の海底に次世代資源といわれているメタンハイドレートの存在が確認されている。近い将来、新たな海洋資源としての開発が進んで商業化が現実のものとなれば、上越沖海域に最も近い場所に位置する直江津港はさまざまな役割を果たすことになる。

全国有数の積雪地帯としても知られる

歴史と文化が薫る城下町の高田エリア

現役で営業している日本最古級の映画館で、そのノスタルジックな雰囲気が多くの人を魅了している「高田世界館」、築年数・営業年数が百年以上の全国の料亭がスクラムを組んだ百年料亭ネットワークの中心的存在の「宇喜世」、創業200余年を数え自慢の浮き糀味噌が「メイド・イン・上越」にも認定されている「杉田味噌醸造場」など、歴史と文化が色濃く残る高田エリア。

高田エリアは駅や商店街、学校、行政機関などの都市機能に加え中心市街地があり、高田城の城下として栄えた歴史や文化、建築物が残る城下町だ。

その高田のまちなみを代表する雁木は、町家の軒や庇を張り出してつくられた屋根付きの通路で、雪国において冬季の通路を確保するために生まれた江戸時代から続く文化だ。雁木の敷地は個人の所有であり、町家の所有者がそれぞれ通路を提供することで、総延長日本一の雁木通りが形成されている。

「雪国である上越市には雁木のように『お互いさま』という考えが根付いています。この地だからこそ、盲目の女芸人、高田瞽女の文化が育まれたのだと思います。この文化を知ることで相互扶助の社会システムをつくったふるさとに誇りを持つことにつながります」と、きものの小川店主で、NPO法人高田瞽女の文化を保存・発信する会事務局長の小川善司さんは言う。

NPO法人街なか映画館再生委員会委員長の岸田國昭さんは「古いものを残していくことは捨てるより手間がかかるが、地域のためにはなくてはならないもの」と「高田世界館」のために奔走する。

「上越でしかつくれない味にこだわり、発酵文化を伝えていきたい。伝統を守りながら新しい分野にも挑戦していく」と話すのは、杉田味噌醸造場専務取締役の杉田貴子さん。 「宇喜世は経営が厳しくなり、倒産しています。料亭の文化も建物もなくなってしまうことを危惧し、当社が経営を引き継ぎました。料亭は飲食の場のみならず、地域の文化や経済の象徴でもあります」(宇喜世営業・総務部営業部長の布施一彦さん)。百年料亭ネットワーク事務局次長の山口宗夫さんによれば、「全国にある百年料亭のネットワークを生かし、訪日外国人をターゲットにした誘客策にも力を入れている」という。

高田エリアの人々と同様に、上越のために尽力する人たちに共通するのは、「今あるものをどう生かすか」に知恵を絞っている点ではないか。地域を本当に好きなこと、先人たちが残してくれた大切な歴史や地域に息づく文化を後世に伝えたいという気持ちともいえる。それゆえ、百年以上続く長寿企業が多いのも納得がいく。

日本のスキー発祥の地・上越市をPRするために建設された「日本スキー発祥記念館」

「販路開拓」「創業支援」に重点的に取り組む

髙橋会頭は、少子高齢化による人口減少、それに伴う人手不足および買い手不足を上越市の課題として挙げつつも、「商工会議所としては、地方創生に向けて2018年に中期行動計画を策定しました。地域づくり、産業づくり、基盤づくりを掲げています。その中でも、『販路開拓』『創業支援』に重点的に取り組んでいるところです」と積極的な姿勢を示す。商工会議所が開催する創業塾が、中小企業庁による全国の創業スクールの中から、地域に根差した取り組みでかつ受講者満足度でも高い評価を得た団体として「創業スクール10選」に選定されるなど、成果も出てきている。

また、新幹線開業による市場規模拡大に伴い、上越市の認証制度「メイド・イン上越」の活用に力を注いでいる。中でも、良質な水とうまい米に恵まれた日本酒や、1890年創業の岩の原ワインなど特産品を携え全国の商談会に参加するなど支援を拡充している。 まちにどんな未来を描いているのだろうか。

「北陸新幹線と東海道新幹線をつなぐと本州の大きな環状線となるように、ビジネスも観光も大きな視野で日本を俯瞰する必要があります。新潟県の玄関口としての魅力を発信していきたい」と髙橋会頭は意気込む。

「進学などで首都圏に行った若者が地元に戻り、学んだことを地域に還元する風潮を生み出してほしい。販路開拓の面では、中小零細企業も当たり前のように首都圏や海外に打って出られる環境にしたいと考えています。創業に関しては、創業率が全国でも低い新潟県ですが、上越だと商工会議所がバックアップしてくれるから創業しやすいと評価されるようなまちにしたい」(髙橋会頭)

古くて新しいまち、上越。住民も訪れる人も決して飽きることはないだろう。

写真提供:MAプランニング/NEXCO東日本

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