Q 当社では、正社員のほか契約社員も雇用していますが、賃金や各種手当に違いがあり、契約社員からは「同じ仕事をしているのに待遇に格差があるのはおかしい」という不満が出ています。会社としては当然の違いであるように思うのですが、同一業務に従事する場合、正社員と契約社員の待遇に差をもうけてはいけないのでしょうか。
A 業務内容のほか、責任の程度の違い、配置転換の有無などを考慮して正社員と契約社員の待遇に差をもうけることは可能であり、その待遇の格差は法令上合理的な範囲でのみ許容されます。しかし、正社員と契約社員が同一業務に従事しているような場合は、待遇の格差が不合理なものとならないよう注意する必要があります。
正社員と契約社員の待遇格差
無期労働者である正社員と有期労働者である契約社員(嘱託社員、非常勤社員、臨時社員などの呼称による他の有期労働者を含む)の労働条件については、雇用期間、業務内容、転勤の有無(契約社員には地域限定があることが少なくない)、昇進・昇格の体系などに相違があり、これに応じて賃金・賞与・退職金、各種手当、福利厚生などの待遇面でも相違があることが通常です。
正社員と契約社員の労働条件は、単純な業務内容以外の点でさまざまな相違があり、業務上要求される職責や職能、教育訓練の程度なども異なるため、同一業務に従事していたからといって、直ちに同一の賃金や手当を支給しなければならないわけではありません。現在、同一労働同一賃金の原則を厳密に規定する法令はなく、職責・職能のほか、転勤の有無なども含めた労働条件の相違により、賃金や各種手当について異なる取り扱いをすることは、事業主の裁量と契約社員との合意の問題として許容されます。
待遇格差の限界
その一方、同一業務に従事している正社員と契約社員の待遇格差は無制限に認められるものではありません。
パートタイム労働法9条は、職務内容などの点で「通常の労働者(正社員)と同視すべきパートタイム労働者」に対する差別的取り扱いを禁じています。また、労働契約法20条は、正社員と契約社員の労働条件について、業務内容、責任の程度、配置変更の範囲やその他の事情を考慮して不合理な格差を禁じることを定めています。
いかなる待遇格差が合理的かという限界判断には困難を伴いますが、給与の待遇格差が争われた裁判例において、正社員と同一業務に従事し、雇用期間も長期であった契約社員につき、正社員の8割以下という賃金格差が違法とされたことが参考となります。また、正社員に支給される作業手当、給食手当などの一部手当の不支給を違法とした裁判例もあり、待遇格差の合理性については、単純な採用区分の相違だけでなく、個別具体的な業務実態を含めて判断されていることに注意が必要です。
なお、契約社員といっても定年後再雇用の場合には、「高年齢雇用継続給付」の支給要件や過去の裁判例などから、正社員であった当時の労働条件につき、ある程度大幅な変更が許容され、必ずしも通常の契約社員と同等の取り扱いを要しないと考えられます。
同一労働同一賃金に向けた動き
正社員と契約社員の待遇格差が合理的な範囲でのみ許容されることは上記のとおりですが、近年、非正規雇用の増加もあり、正社員との待遇格差の是正を求める契約社員の法的請求が増加しています。昨年12月20日、政府からも「同一労働同一賃金ガイドライン案」が公表され、今後、待遇格差の合理性は、より厳格に判断されていく可能性があります。
したがって、形式的な採用区分の相違によって待遇格差を設けている場合には、合理的な格差となるよう是正措置を図るか、業務内容を明確に区分する(同一労働をさせない)などの対応を検討してください。 (弁護士・増澤 雄太)
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