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新年特別寄稿・日本経済の行方

信州大学経済学部教授 真壁 昭夫氏

昨年はTPPの大筋合意や訪日外国人客の増加など明るい話題もあった。こうした中、識者は2016年をどう見ているのか。信州大学経済学部教授の真壁昭夫氏に「日本経済」を、月刊『商業界』編集長の笹井清範氏に「流通業」の行方を聞いた。

リスク要因が潜む2016年の世界経済/信州大学経済学部教授 真壁 昭夫氏

一時的に景況感は回復局面に

2015年の日本経済を総括すると、おそらく〝足踏み〟という表現が最も適切だろう。日銀の積極的な金融緩和策は一段と円安を加速させ、輸出部門中心に大手企業業績は大きく改善した。それに伴い、株価が堅調な展開になったことで人々の心理状況は改善し、一時期、景況感はかなり回復する兆しを見せた。

しかし、その恩恵は主に都市部の景況感を回復させたが、地方まで波及していない。また、非正規雇用者の増加などもあり、家計部門が受け取る賃金水準は期待されたほど上がらなかった。その一方で食料品の値上げペースが速く、人々の生活実感は思ったほど上昇せず、個人消費も盛り上がらなかった。

また、中国経済の減速が顕在化するなど不安定な海外要因もあり、企業の設備投資もやや低迷する展開が続いた。今後の展開は、秋口以降に在庫調整が一服していることや、政府の補正予算もあり16年年初から景気はやや持ち直すとみられるものの、わが国経済の先行きには、海外要因など無視できないリスクが潜んでいる。

安倍首相は15年の景気足踏みから踏み出すべく、名目ベースのGDPを600兆円まで持ち上げることなどを柱とした新三本の矢を提唱した。背景には、経済の回復が期待されたほど進んでいないことがある。また、16年半ばには参院選を控えている。安倍首相は、景気回復を明確にして参院選までに良好な流れをつくりたいはずだ。

その手始めに早期に補正予算を組み、年初以降、速やかに財政面から景気の下支えを図ると考えられる。15年の秋口までに多くの企業が在庫調整に目途を付けており、財政出動は経済を持ち上げる効果を持つだろう。年初以降、日本経済には一時的に明るさが戻ると予想する。

ただ、補正予算の執行状況などにもよるが、その効果が一年を通して続くとは考えにくい。日本の労働市場はここへ来てかなり構造変化し、非正規雇用者が給与所得者全体の4割弱を占めている。春闘で賃上げが実現しても、その恩恵は主に大企業従業員に限られ、家計部門全般に与えるプラスの影響は限定的だ。

一方、為替市場で円安傾向が続き食料品などの値上げが続くと、家計部門の景況感の大幅な改善は見込めない。15年の年央以降、景気ウォッチャー調査の景況感はやや悪化の兆しを示している。GDPの約6割を占める消費が盛り上がらないと、経済の回復ペースは加速しない。景気回復に勢いがつかないと、企業の設備投資が大きく盛り上がることは考え難い。

不透明な米中経済

海外経済には無視できない不透明要因が山積している。まず、減速感が鮮明化している中国経済だ。一人っ子政策による人口構成の歪みや、企業の過剰生産能力・過剰債務の問題などを抱える中国経済は、既に高成長期を経て安定成長期に入ったと見られる。かつてのような二桁成長は難しい。中国経済が安定した足取りを取り戻すには、従来の輸出・設備投資依存型から国内の消費主体の経済構造にモデルチェンジができるか否かだ。13億人の人口を抱え、国民の間に大きな経済格差が存在する中国で、経済構造を変えることは容易ではない。変革のプロセスにはかなりの抵抗もあるはずで相当な時間を要するだろう。

多くの企業が過剰設備・過剰債務を抱える中国経済の減速が一段と鮮明化すると、原油や鉄鋼石などの資源価格の低迷が加速する可能性が高い。中国経済の足踏みが続くと、中国向け輸出比率の高い新興国にも大きな痛手が及ぶ。それは、世界経済の足を引っ張る。

また、米国経済の先行きにも不安要素がある。米国経済は09年夏場から本格的な回復を続けてきた。既に6年以上景気回復が続いている。いかに米国でも、景気回復が永久に続くことはない。どこかでピークを打って下落に転じる。今まで米国経済の下支え役を果たしてきた、金融政策にはこれ以上頼ることができない。けん引役の米国経済に影が差すようなことになると、世界経済の先行きにも暗雲が漂う。米国に代わる世界経済のけん引役が見当たらないからだ。

米国経済が落ち込むと、世界的に株式や為替などの金融市場の動向は不安定化しやすい。そのマイナスの影響も無視できない。金融緩和策を続ける欧州諸国は、依然として不動産バブルの後始末や、ギリシャなどの財政状況の悪化懸念がくすぶっている。そうした海外の不透明要素が16年のわが国経済の足を引っ張る懸念は拭えない。

ダウントレンドに入る懸念も

16年の最も重要な要因は海外経済の動向だ。中でも米国経済の動きを注視する必要がある。景気循環の観点から見ると、米国経済はピークを迎えてもおかしくない。15年末にかけての米国経済指標を見ると、企業業績には頭打ち感が顕在化している。それに伴い、企業経営者の景況感にもやや陰りが見える。年初以降、金利の上昇が鮮明化すると、消費者がローンを使って住宅や自動車の購入に慎重になることも考えられる。その懸念が顕在化すると、米国経済は勢いを失うことになる。

また、金融市場では、「世界経済や金融市場は、7年程度の周期で混乱する」との見方がある。その周期説が現実になると、米国をはじめ世界の主要国の経済がダウントレンドに入る懸念もある。米国の金融政策の変更を機に世界的に株式や為替など金融市場が不安定化すると、実体経済も大きなマイナスとして作用する。

一方、プラスのシナリオとして米国の堅調な展開が予想以上に続き、中国など海外の不透明要因が顕在化しないケースが想定される。そうした海外要因の安定に加え、日本政府が、17年4月の消費税率の再引き上げ対策として再び財政出動をする場合、日本経済は相応の成長率を維持することが可能になる。

ただ、このシナリオが現実になるには、世界経済はかなり狭い経路を上手く通り抜ける必要がある。少しでもそのシナリオから外れると、わが国をはじめとする世界経済は不安定な展開になる可能性が高い。16年は、そうしたリスクを頭に入れておいた方がよさそうだ。

進むべき道を求めて足元を見直すとき/月刊『商業界』編集長 笹井 清範氏

自らの足元を見直すとき、視野を閉ざす霧は晴れ、目の前に進むべき道が見えてくる。本稿では、2015年に日本商業が経験した事象・出来事を確認しつつ、そこに2016年の動向を探ってみたい。

訪日客の勢いは止まらない

主に中国人観光客が大量に商品を購入するさまを表現した「爆買い」。恩恵を受けようと、至る所で中国語表記が目立つようになった。

訪日外国人客数増加の勢いが止まらない。15年は年間1900万人を超えたとみられ、20年目標の2000万人も目前となり、3000万人超へと引き上げられる勢いだ。

増えているのは客数だけでない。観光庁「訪日外国人消費動向調査」の平成27年7―9月期の調査結果(速報)によると、同期間の訪日外国人の旅行消費額は1兆9億円。前年同期比で81・8%増、1四半期で初めて1兆円を突破し、7期連続で過去最高値を記録した(図表①)。また1人当たりの旅行支出でも、前年同期比18・3%増(18 7165円)となっている。

こうした変化を前にセブン‐イレブン・ジャパンでは、昨年7月に免税サービスを展開。年度内に3000店舗展開を掲げている。

訪日外国人客が訪れる地域か否か、爆買いの対象となる商品・サービスを扱っているか否か──その前提はあるが、特徴的な事象が社会経済にどのような影響を及ぼすかを考えるべきだろう。

GMSの閉店計画相次ぐ

昨年は、新興勢力であるネット通販の伸長と、それにとって代わられつつあるGMS(総合スーパー)の低迷がさらに際立った年でもあった。

日本通信販売協会発表の通販市場売上高調査によると、14年度は前年比4.9%増の6兆1500億円となり、金額ベースでは前年に比べ2900億円増加となった。16年連続して増加が続き、この10年で市場規模は倍増している(図表②)。

要因としては楽天、アマゾン、スタートトゥデイといったプラットフォーム系企業が市場をけん引していることに加え、セブン&アイ・ホールディングスがグループ各社の店舗とネットをミックスしたサービス「オムニ7」など店舗系のネット通販の伸びが挙げられる。

一方、豊富な品ぞろえ、一カ所で買物ができる利便性、バイイングパワーを背景にした安さといった強みを全てネット通販に凌駕されたGMSでは閉店の計画を告げるニュースが相次いだ。ユニーグループ・ホールディングスが数十店舗の閉鎖を検討しており、セブン&アイ・ホールディングスは傘下のイトーヨーカ堂の約2割に当たる40店程度を20年2月までに閉鎖する方針を発表した。

その背景には、14年4月の消費増税による大幅な営業利益減の経験を踏まえ、17年4月に計画される消費税の再増税に対する危機感がある。

顧客の中にヒントがある

こうした傾向は今年も続く。自社・自店は何をすべきか。 一つには社会経済の動向を俯瞰的に見る目を持ち、自分ごとと捉えて対策を立てることである。そして、それ以上に大切なのは、自社・自店を現在利用してくれる顧客をもう一度見直すことだ。

多くの会社・店が存在する中、なぜ顧客はあなたの会社・店を利用してくれるのか。そこには必ず理由がある。2016年の社会経済の動向に左右されない経営は、実は足元の顧客の中にこそヒントがある。