小島鐵工所
群馬県高崎市
日本の近代化とともに発展
群馬県高崎市で大型油圧プレス機を製造している小島鐵工所は、江戸時代後期の文化6(1809)年に、小林善兵衛が鋳物師(いもじ)の権利を小島家より譲り受け、鍋屋の屋号で鋳物屋を開いたのが始まりだ。以来、200年以上にわたり同地で操業を続けている。同社の十代目で現在は会長を務める児玉正藏さんが、当時の鋳物業についてこう説明する。
「大砲などの兵器もつくれることから、かつて鋳物業は朝廷や幕府の許可を得た一族だけしか営むことができませんでした。全国では108家に限定され、おそらくうちが江戸に一番近いところにあったと思います」
当初は鍋屋の屋号のとおり、なべやかまなどの日用品、鋤(くわ)や鍬(すき)などの農具、寺の釣り鐘などを製造していた。鋳物の型には砂が必要なことから高崎市内を流れる川沿いに工場があり、品物は地元で販売するだけでなく、のちに船に乗せて利根川に出て、そこから江戸や大阪に運んでいくようになった。
明治2(1869)年になると、小島彌平(やへい)が16歳の若さで三代目として跡を継いだ。彌平はのちに家業を農具や日用品の鋳造から機械製造へとシフトし、鍋屋は小島鐵工所となり、日本の近代化とともに大きく発展していく。明治38(1905)年、しょうゆメーカーの依頼でしょうゆ醸造用の水圧機(水圧プレス)国産第1号機を開発すると、これが日本全国のしょうゆ製造業者の間で大ヒット商品となり、大きく業績を伸ばした。
「このしょうゆ圧搾用水圧機が、小島鐵工所が鋳物屋から機械メーカーに変わる第1号機でした」
鋳物業に関しては、小島鐵工所で働いていた人たちがのれん分けのような形で独立し、東京に近い埼玉県川口市で鋳物工場を始めた。川口市は、後に「キューポラのまち」として知られるようになる。
戦時中、業務は拡大したが…
一方で小島鐵工所は、昭和初期の世界的大不況により経営難に陥り、銀行の支配下に入った。そして、小島家と姻戚関係にあった地元資本家の井上保三郎氏が事業を引き継ぎ、合資会社小島鐵工所が設立され、個人会社時代が幕を閉じた。
そこで井上氏は、自身の姪の夫で、新潟の鉄工所に勤務していた児玉安蔵氏を呼び寄せ、小島鐵工所の経営を任せることにした。
「安蔵は仙台高等工業学校、今の東北大学工学部の機械工学科を出ていました。井上さんの会社は建築業で、鉄のことを分かる人がいなかったんです。安蔵は私の父で、それからは児玉家が経営の中心になっていくのですが、会社の名前はそのままにしていました」
その後、日本は日中戦争そして太平洋戦争へと突入していく。小島鐵工所は軍需工場として規模が大きくなっていき、最大で5工場、従業員4000人までになっていた。またその間、安蔵氏の機械工学科時代の同級生や先輩後輩を入社させ、技術水準を高めるとともに、社員教育にも取り組んでいった。これにより技術的にも大きな進歩を遂げていった。
終戦後は連合軍に工場が接収され、朝鮮戦争による特需が起こったときにも操業ができなかった。サンフランシスコ講和条約が発効する昭和27(1952)年まで、次々と工場を売却し、残った社員の給料をまかなっていった。
海外での現地生産・販売へ
「会社も一度解散した形を取り、技術者300人ほどを残して、約2000人いた従業員には辞めてもらいました。ただ、終戦後の電気制御技術の進歩が早く、出遅れて操業を再開したときには、うちの主力製品だった大型工作機械は戦前の当社の制御技術では太刀打ちできなくなっておりました。そこで、油圧プレス機の製造に絞ることにしたのです」
その後は高度経済成長の波に乗り、大型油圧プレス機を重厚長大産業の大手企業に納めていき、会社も大きく発展していった。それ以降も製鉄、造船、鉄鋼、住宅、自動車、航空機、宇宙関連と、時代の流れとともに拡大する業界に油圧プレス機を供給。海外市場にも進出し、リーマンショック前までは、輸出向けと国内向けが半々にまで達していた。
「現在は国内向けと輸出が半々ですが、これからは輸出だけでなく、海外の成長中の国々に進出して、現地で生産して現地で販売していくという、日本から積極的に打って出ることを検討しているところです」と、児玉さんは会社の将来について語る。後継者についても、資本と経営を分けていくために、今回初めて、生え抜き社員で取締役専務執行役員だった櫛渕洋二氏が昨年2月に社長に就任している。
200年以上の歴史がありながらも、変化することをいとわず前に進んでいく。その信念が小島鐵工所のこれからを支えていく。
プロフィール
社名:株式会社小島鐵工所(こじまてっこうじょ)
所在地:群馬県高崎市剣崎町155
電話:027-343-1511
代表者:櫛渕洋二 代表取締役社長
創業:文化6(1809)年
従業員:94人
※月刊石垣2020年7月号に掲載された記事です。
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