つい最近まで、ハローワークに職を求めに行く人の数が企業の求人数よりも多かった。ところが、労働市場の需給に変化が目立ち始めた。2月の統計では既に求人数が求職者数を上回り、失業率も3・6%まで下落している。それに伴い大学新卒者の採用人数も拡大し、一部のアンケート調査によると、来年は前年比で16%程度増える見込みだという。
多くの企業が人手不足に直面しつつある。昨年まで、企業側はその不足人員を中途採用することで埋め合わせる傾向が見られた。その結果、過去数年は中途採用人数が前年比で増加傾向となった。今年はさらに顕著になると見られ、足元のアンケート調査では前年比で7%以上増える見込みだ。
労働市場全体でも大きな変化が起きており、新卒者の採用を積極的に増やす企業が目立ち始めている。特に、流通や建設などの分野では目を見張るものがある。
例えば、某有力スーパーのグループでは昨年実績の1750人から2200人程度の採用を目指しており、別の衣料系の流通企業も昨年の約420人から倍以上の950人採用を検討している。また、現場技術者の人手不足が深刻化しつつある大手建設企業や自動車メーカー、および部品メーカーなども採用増を予定している。
この背景には、単なる人手不足の他に、技術者育成の要請があると見られる。生き残るために人員を削減して人件費を削ってきた結果、多くの企業は世代交代推進により、技術継承者まで失ってしまった。
昨年までは、それを中途採用者で賄ってきたが、今年からは中・長期的な人員育成のための新卒者で対応する方向に少しずつ変化している。その変化の意味は大きい。
大学の就職担当者などによると、「今年は新卒者にとって〝売り手市場〟になりつつある」という。数年前までの就職氷河期は徐々に氷解しつつあると見るべきだろう。
問題は、人手不足で経済全体の成長に支障をきたす可能性があることだ。わが国の人口減少・少子高齢化の状況を考えると、今後は必要な労働力を確保することが次第に難しくなるだろう。既に建設や流通などの一部の産業分野で、労働力の問題がボトルネックになり始めている。
政府は労働力を確保するために、シニア層の労働力化、育児制度などの改善による女性の労働力化に取り組んでいる。そうした施策に加え、さらに海外の研修者の滞在期間を延長するなどの政策も実施しようとしているが、現在その効果は限定的と言わざるを得ない。
そして、もう一つ注意しなくてはならないのは、現在の若年層に対する職業訓練教育などの拡充問題である。企業側が求める人材と求職者の間には、技術や仕事のノウハウなどに齟齬が生じているとの指摘がある。そうしたミスマッチが拡大すると、産業界が求める人材の確保が一段と難しくなる。
それを防ぐためにも、技能訓練やビジネスに役立つ教育の拡充が求められる。そうした施策を迅速に実施しなければ、いずれわが国経済の重要な制約条件になる懸念がある。
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