佐賀県唐津市
船乗りに正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりには客観的なデータが欠かせない。今回は、玄界灘を臨み、佐賀県第2位の都市であると同時に福岡都市圏に属する唐津市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。
唐津らしさの充実
地方創生のポイントは、「生産↓分配↓支出」と流れる経済循環を太く強くすることである。そのためには、まず、どの段階で域外から所得が流入/流出しているかを確認する必要がある。
環境省地域経済循環分析システムで唐津市の循環構造(2015年)を見ると、地方交付税交付金等の財政移転(分配段階)、来訪者の購買活動などによる消費の流入(支出段階)で域外から所得を稼ぐ一方、地域の経常収支に当たる域際収支(支出段階)で域外に所得が大きく流出していることが分かる。地方都市によく見られる構造で、財政移転が地域の所得向上に必ずしも結び付いていない循環となっている。
消費の流入額は、福岡市に近く年間700万人を超える観光入込客もあって、354億円(地域GDPの10・6%)に上り、5年前の10年(222億円、7・4%)と比べても大きく増加している。呼子のいか、唐津焼といった全国的なコンテンツに加え、改めて掘り起こした城下町・唐津というイメージが浸透してきたことにもよるであろう。
加えて、唐津市には食料品という柱となる産業がある。また、電気機械や化学に加え農業も確固たる移輸出産業で、地域自らが付加価値を生み出し、呼び込む産業基盤もある。
他方、こうした呼び込む力を、地域全体の稼ぐ力にまで高められていないのも事実である。域際収支は1000億円を超えるマイナス(地域GDPの4割弱)であり、所得の漏れが大きい、もったいない循環構造となっている。
15年以降も、かかる構造に大きな影響を与える変化はなく、地域のさまざまな資源が十分に活用されているとは言い難い状況が続いているであろう。足元でも、新型コロナで宿泊・飲食産業を中心に大きな打撃を受け、地域経済は厳しい状況が続いている。
ただ、まだ先に光は見えないかもしれないが、必ずトンネルは抜ける。そのとき、これまで通り呼び込むだけに終わるのか、それとも地域住民の所得向上につなげていくのか、考えておく必要がある。また、ウィズコロナへの対応が求められる今、感染症対策を含めた安心安全への取り組みを地域内外に情報発信することは、地域ブランド構築にも貢献するものとなる。
自主地立の取り組みに
ブランドとは顧客との約束であり、求められるイメージを提供することで高い付加価値を得ている。逆にふさわしい対価を得ないことはブランドを毀損(きそん)する行為にもなる。
唐津商工会議所では「新年賀詞交換会」参加者に着物の着用を勧めて城下町・唐津のイメージを体現している。昨年10月に開業した複合施設「KARAE/唐重」は、文字どおり唐津らしさを重ねたデザインで地域のアイコンの一つとなる可能性を秘めている。
このように、地域自らが唐津らしさを育て、そのイメージを提供しようとする動きは進んでいるが、今後は、これらの意義を高めるためにもローカルファーストの視点を組み込み、付加価値を高めようとする自主地立の活動へと展開させていくことが求められる。
JR唐津駅と唐津城の間(徒歩20分)に交流拠点が集まっている。ウォーカブルなまちづくりを進め、道路占有許可緊急措置(11月末迄)で道路を飲食店の一部のように活用し3密を回避しながらにぎわいを創出する仕掛けも考えられるのではないか。また、沼津市の「泊まれる公園 INN THE PARK」も、豊富かつ多様な自然がある唐津ならではの取り組みへと昇華できよう。
目の前の現実は厳しいが、時々は少し目線を高く持つこと、それが「幸価値」な地域づくりの条件がそろった唐津市の課題ではないか。
(DBJ設備投資研究所経営会計研究室長、前日本商工会議所地域振興部主席調査役・鵜殿裕)
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