Q 現在、社長を務めている会社の80%の株式を持っています。後継者として入社している長男に、いずれ社長を譲り、遺言で株式全部を相続させようと考えています。私の財産の価値でいえば会社株式が大部分で他の相続人から遺留分減殺請求された場合、長男は遺言で株式を取得できますか。
A その遺言の内容が他の相続人の遺留分を侵害していれば、他の相続人は、相続開始後、その遺言の内容を知ってから1年間は遺留分侵害額請求権を行使することができますが、行使しても、株式全部を遺言通りご長男が取得できます。ただ、ご長男は、遺留分侵害額請求権を行使した相続人に遺留分侵害額相当の金銭を支払わなければなりません。
会社の事業承継と経営承継円滑化法
企業の事業承継が円滑になされるためには、経営者が保有している会社株式が後継者に引き継がれる必要があります。
親から子に会社株式を承継させるには、生前贈与や遺言という手法が考えられますが、せっかく経営者が後継者に贈与や遺言で自分の持っている株式全部を承継させようとしても、遺留分減殺請求がなされるとその株式は一部遺留分権利者に戻り、後継者と遺留分権利者との共有状態になりました。
前述のような事態は、中小企業の事業承継の阻害要因として、これに対処するため、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)が制定されました。同法をうまく使えば、税制面でのメリットもあり、事業承継はスムーズに行われます。ただし、利用するためには、推定相続人と後継者間で贈与または相続で後継者が取得する株式を遺留分算定の基礎となる財産に算入しない合意(除外合意)が必要であり、この合意ができないときには同法の利用ができません。
遺留分制度の改正
2018年に民法のうち相続に関する部分の改正が行われ、遺留分制度も大きく変わりました。 変わった点は、次の二点です。
①遺留分減殺請求権の行使によって生ずる権利を金銭請求権とした
従来、遺留分減殺請求権を行使すると贈与や遺言の対象となった財産の権利は、遺留分の範囲で遺留分権利者に帰属すると解されていたので、遺留分減殺請求権が行使されると対象財産について共有状態が発生し、権利関係が複雑となっていました。
これを改め、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると、その効果としては、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるだけとなりました(新民法1046条1項)。
②遺留分侵害額に相当する金銭を直ちに準備できない受遺者または受贈者のために、裁判所が金銭債務の全部または一部につき相当の期限を与えることができる
前述の通り、遺留分減殺請求権行使の効果としては、金銭請求権となりましたが、受遺者または受贈者の中には、直ちにその金額を支払うことが困難な者もいます。
そこで、この者らの請求によって、裁判所は、金銭債務の全部または一部について、相当の期限を与えることができるようになりました。
この遺留分制度の改正は、19年7月1日から施行されました。
遺留分侵害額請求権について
事例でご紹介しているのは、遺産のうち大きな割合を占める会社株式の全部を遺言により長男に相続させるというものです。その遺言の内容が他の相続人の遺留分を侵害していれば、他の相続人は、相続開始後、その遺言の内容を知ってから1年間遺留分侵害額請求権を行使することができます(新民法1048条)。
他の相続人が遺留分侵害額請求権を行使しても、株式は全て遺言通り長男が取得することができます。ただし、長男は、遺留分侵害額請求権を行使した相続人に遺留分侵害額相当の金銭を支払わなければなりません。 (弁護士・山川 隆久)
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