2017年、世界のスマートフォンの出荷台数が初めて前年実績を下回った。スマートフォンの登場は、それまでの携帯電話の“常識”を覆し、今までにはなかった新しい“需要”を生み出す重要なイノベーションだった。07年に登場した「iPhone」は、携帯電話の常識を大きく変えた。必要に応じてアプリケーションをダウンロードし、それをクラウド・コンピューティング・システムで管理する発想が新しい“常識”になった。また、世界各国で高速通信網の整備が、従来以上に重視され始めたともいえる。「iPhone」の登場によって、ネットワーク空間と人々がより密接につながり始めたのである。それだけでなく、スマートフォンで写真や動画を撮影しSNSで友人とシェアするなど、スマートフォンの普及が新しいサービスの創造にもつながった。それは既存のテクノロジー(技術)に新しい発想を結合し、付加価値の高いモノや、人気のある商品を生み出す“イノベーション”だ。
リーマンショック後の世界経済は、こうしたITハイテク企業のイノベーションに支えられてきた部分が大きい。スマートフォンの登場は、産業構造にも大きな変化をもたらした。フェイスブックなどIT企業の急成長はスマートフォンの普及なしに考えられない。それによって、ネットワーク上に人々の思考などに関するデータが蓄積され、“ビッグデータ”の重要性も高まった。企業経営、日常生活の至るところで10年前にはなかった発想が当たり前になっている。
しかし、輝かしいイノベーションの寿命は永久には続かない。ここへ来て、スマートフォンへの需要が減少し始めたということは、こうした成長のトレンドが維持しづらくなっていることを意味する。重要なポイントは、スマートフォンの次のイノベーションを作り出すことだ。スマートフォンに続くイノベーションの一つの候補が、電気自動車(EV)だろう。環境保護のために、欧州各国や中国では、ハイブリッドカーも含めて化石燃料を用いたエンジンを搭載した自動車の販売停止が計画され、EVの普及が重視されている。このインパクトは大きい。ガソリン車の使用が禁じられれば、EVへの買い替え需要が生まれる。同時に、生産プロセスにも大きな変化が起きる。内燃機関を搭載する自動車に使われる部品の数は、3万~5万点ともいわれる。数多くの部品をすり合わせ、振動や騒音をカットする技術が問われたからこそ、日独の自動車メーカーが競争力を発揮してきた。それに対し、EVでは部品数が半分程度で済むと考えられる。すり合わせ技術が競争を左右する要因ではなくなるだろう。英ダイソンなどの参入にもあるように、自動車はユニットの組み立てによるエレクトロニクス・デバイスとしての性格をますます強めるだろう。
さらに、EVにセンサーや人工知能(AI)を搭載し、ネットワーク空間に接続してデータの送受信を行う“コネクテッド・カー”の開発も目指されている。自動車に搭載されるAIを含め、アマゾン、グーグルなどが次世代の自動車開発に力を入れている。走行距離の延長やバッテリー充電施設などのインフラ整備への取り組みが進むとともに、EVの普及が想像以上に加速することもあるだろう。それほど、次世代の自動車の開発を巡る企業の取り組みは強化されている。加えて、この変化は、自動車メーカーなどの製造業、IT企業などの非製造業というように、従来の産業のカテゴリーとは関係なく、世界全体で進んでいる。その結果、より便利な自動車が生み出され、新しい需要が創出される可能性がある。その変化に乗り遅れると、企業としての存在意義が低下することもあるだろう。「強い者が生き残るのではなく、賢い者が生き残るのでもない、環境の変化に順応できたものが生き残る」。生物の進化論を唱えた、イギリスの自然科学者であるダーウインの言葉だ。スマートフォン関連の需要によって業績を伸ばしてきた企業が、これからの変化にどう対応するか適応力が問われる時代を迎えようとしている。
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