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テーマ別企業事例 地域一番の“売り”を決めてインバウンドを呼び込め

事例1 ハラル対応商品やメニューの開発でムスリム観光客を誘致

帯広商工会議所(北海道帯広市)

昨年開催した第1回「ムスリムインバウンド体験ツアー」の様子

アジアからのインバウンドにとって、人気の観光地の上位にランクインする北海道。しかし、帯広市は観光地としてのイメージに乏しく、観光入込客数も多いとはいえなかった。そんな状況を打開しようと、帯広商工会議所が中心となり、“食の宝庫”という強みを生かして、ムスリム(イスラム教徒)の誘客に力を注いでいる。

ムスリム国との交流で産業活性化を目指す

ASEANの経済成長などにより、2030年にはムスリム人口がキリスト教徒を抜いて世界一となり、市場規模も急増することが予想されている。そこに着目して、14年からムスリムの誘客に取り組んでいるのが帯広商工会議所だ。

発端は、11年に帯広市が中心となってスタートした「フードバレーとかち」だ。これは十勝地方の基幹産業である農業を推進し、その食材を活用して販路を拡大していこうという取り組みである。それを受けて同所では、地域ブランドとハラル(イスラム教の戒律によって許されたもの)対応による産業活性化を目指した『JICA(国際協力機構)草の根技術協力事業』を開始した。

「人口減少社会の中で地域経済を活性化するには、海外需要の取り込みや新たな市場の開拓が不可欠です。そこで、同様の課題を抱えているマレーシアやタイと交流して、ビジネスチャンスを広げようという取り組みです」と同所産業振興部長の武田光史さんは経緯を説明する。

マレーシアやタイは、生産・加工・販売が連携した十勝型フードシステムを学ぶことで地域ブランド商品を開発し、十勝はハラルに対応することで商品輸出やインバウンドの誘客を実現したいという互いのニーズが一致したのだ。それを機に、企業がマレーシアやタイで開催される食品関連の展示会に出展したり、現地企業を訪問したり、技術指導を行ったりと、交流の場は増えていった。

ムスリムのスタッフの協力を得て事業を推進する

この事業で通訳を務めたのが、マレーシア出身のシティ・アズミラさんだ。アズミラさんは東京の大学に留学し、卒業後はマレーシアやシンガポールの外資系会社で日本のマーケットに関係する仕事に携わっていた。それが縁で、同所に協力することになった。

「ムスリム国との交流において、アズミラさん抜きでは語れません。そこで2016年の第2期草の根事業で、さらにムスリムの誘客に力を入れていくため、すでに東京の企業に就職していたアズミラさんを口説き落とし、国際ビジネス交流員として入所してもらいました」(武田さん)

アズミラさんの役割は多岐にわたる。ムスリムに提供可能なメニューやハラル商品の開発をサポートするほか、ムスリムやハラルの知識を深めるために、ムスリム・インバウンド対応セミナーを開催したり、国内外の展示会に出展したりして観光客へのPR活動なども行っている。

「東南アジアのムスリムにとって日本の四季は大きな魅力です。特に雪が見られる北海道は人気ですが、どうしても札幌や小樽、函館や旭川に目が行ってしまう。帯広に来てもらうには、当時道内ではほとんど取り組まれていなかったハラル対応を進めて、それを発信することが重要だと考えました」とアズミラさんは振り返る。

ちなみに帯広は豚丼の発祥地として有名だが、ムスリムに豚肉はご法度である。牛肉や鶏肉でもイスラム教の戒律で定められた方法で屠畜・加工したものでなければ、口にすることはできない。また、アルコールも禁止のため、アルコールが含まれる調味料もNGだ。そうしたルールを理解した上で、商品やメニューを開発してもらえるように、域内の事業所に働きかけていった。

「最初のころは大変でした。『ムスリムの観光客など来ていないのに、何でハラル対応しなければいけないんだ』と。しかし、『ハラル対応しないと食べるものがないからムスリムは来ない』と説明して回り、賛同してくれる事業主が徐々に増えていきました」(武田さん)

企業や自治体との連携でさらなる誘客へ

取り組み開始から5年目を迎え、さまざまなことが形になってきた。例えば、昨年は「ムスリムフレンドリーとかち推進キャンペーン」を実施し、ムスリムメニューを提供するホテルやレストランを紹介した「ムスリムおもてなしマップ」を発行。それらの情報をスマホアプリ「ハラル グルメ ジャパン」に登録した。また、ムスリム・インバウンド体験ツアーも開催した。

「この取り組みに賛同してくれた市内の観光庭園『紫竹ガーデン』が、お花畑の中にムスリムの礼拝所を設置してくれたんです。体験ツアーの参加者は、この礼拝所と十勝の人々のおもてなしの気持ちに最も感動したと言っていました」(アズミラさん)

今年はムスリムマップをグレードアップして活用した「ムスリムフレンドリースタンプラリー」を開催しているほか、第2回の体験ツアーも実施され、参加者の好評を博した。

こうした地道な活動は着実に数字に表れている。17年度のインバウンド全体の宿泊客数は約13万人を数え、前年度比13・7%増となった。最も多いのは台湾からの観光客だが、ムスリムの多いマレーシアやタイ、シンガポールからの観光客も順調に伸びており、今後の動向が期待される。

「現在、ハラル対応に積極的な札幌や旭川と広域連携して、3カ所を周遊する観光プランの開発の話が持ち上がっています。今後さらに魅力あるメニューや土産品づくりに力を入れて、ムスリムをはじめ多くのインバウンドが訪れる地域になるように知恵を出していきたい」と武田さんは笑顔で語った。

会社データ

名前:帯広商工会議所

所在地:北海道帯広市西3条南9-1

電話:0155-25-7121

HP:http://www.occi.or.jp/

※月刊石垣2018年9月号に掲載された記事です。

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