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テーマ別企業事例 地域一番の“売り”を決めてインバウンドを呼び込め

来年開催のラグビーワールドカップ日本大会、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、訪日外国人(インバウンド)は、年々増加し、17年は2869万人となった。しかし、インバウンドの訪問は、まだ一部地域に偏っているのが現状だ。そこで、地域活性化のために、地域の特色を生かした“売り”を決めて、インバウンドを呼び込もうと奮闘している各地域の取り組みを追った。

総論

坪井 泰博/株式会社JTB 取締役 訪日インバウンドビジネス推進部長

坪井 泰博(つぼい・やすひろ) 株式会社JTB 取締役 訪日インバウンドビジネス推進部長 1981年、株式会社日本交通公社(現・株式会社JTB)に入社。上海錦江国際JTBの社長、株式会社JTB関東の代表取締役社長、JTBアジア・パシフィックの取締役社長などを歴任し、2016年4月より現職。410万人の訪日外国人を取り扱うJTBの司令塔で、大学の客員教授やインバウンド関連団体の役員も多数兼任している

訪日外国人(インバウンド)の日本観光といえば、東京・富士山・京都・大阪を巡る“ゴールデンルート”が主流だった。ところが、何度も日本を訪れるリピーターの増加に伴い、地方にも足を伸ばす外国人が増えている。そうした外国人に自分たちのまちに来てもらうにはどうしたらいいのか。株式会社JTBの取締役で訪日インバウンドビジネス推進部長も務める坪井泰博さんに、戦略について話を伺った。

旅行者の出身国によって日本観光に求めるものが違う

─日本へのインバウンドの数が順調に伸びています。この要因をどのように分析されていますか。

坪井泰博さん(以下、坪井) 日本に素晴らしい観光素材が数多くあることに加え、私はそこに3プラス1の要因があると考えています。一つ目は訪日観光ビザの緩和。二つ目はアジア各国の所得水準が上がり、海外旅行に出掛けられる層が増えてきたこと。三つ目がLCC(格安航空会社)の台頭です。それに加えて、政府やさまざまな機関のプロモーションによる後押しも挙げられます。それらの要因により現在のような状況になったと見ています。

─日本に来る外国人観光客は、日本のどういうところに素晴らしさを感じているのでしょう。

坪井 それは国によって異なります。大ざっぱに言うと、日本食や自然景勝地は全ての国の人に非常に人気があります。歴史や文化については、欧米の人は非常に興味を持っていますが、アジアの人は重視していない。逆にショッピングは、アジアの人は非常に好きですが、欧米の人は二の次となっています。温泉についても、アジアの人たちの期待度は高いですが、欧米の人たちはそれほど期待していません。また、アジアの国々は雪が降らない地域が多いですから、雪を目当てに来る人も多い。特にマレーシアの人たちの一番人気は北海道です。このように、国によって日本観光に求めるものは違っています。

─かつてはゴールデンルートが人気でしたが、なぜ今は地方に行く人も増えているのでしょうか。

坪井 リピーターが増え、彼らはそれまで行ったことがない地域に行く傾向があるからです。香港からの観光客などは、20回以上来ている人が10%近くを占めているという統計もあります。また、飛行機の新しい路線ができた地域も訪問客数が伸びています。

外国メディアを招待して地域の良さを紹介してもらう

─2019年のラグビーワールドカップ日本大会(W杯)と20年の東京オリンピック・パラリンピックがインバウンド増加につながることが期待されています。

坪井 統計を見ると、過去の五輪開催国は、大会後に観光客数が順調に伸びています。例えば12年のロンドン五輪では、英国側が世界各国のメディア向けにさまざまなプロモーション活動を行い、各国メディアは中継の合間にロンドンのまち並みを映したり、観光地や文化、芸術を紹介したりと、大量の情報を発信しました。そのおかげで、大会前の英国は観光客数が伸び悩んでいたのに、五輪を機にぐっと伸びました。そこで東京五輪の際にも、各国メディアに日本を宣伝してもらい、大会終了後に観光客に来てもらうよう活動していくべきでしょう。

─ラグビーW杯においても、試合開催地やキャンプ地が、インバウンド増加に期待していますが、これはどうでしょう。

坪井 キャンプ地をインバウンドに結びつけるのは難しい。例えば02年のサッカーW杯日韓大会でのキャンプ地など、ほとんど忘れられています。その一方で大会そのものは、自国チームが出場するヨーロッパやオセアニアの人たちは熱心で、開催中はずっと日本に滞在する人が多いと思われます。ラグビーは試合と試合の間隔が長いので、その間に自分たちの地域に観光客を呼び込むことを考えた方がいいと思います。

─では、宣伝のために海外メディアに地域の撮影に来てもらうにはどうしたらいいでしょうか。

坪井 メディアの人たちは大会が始まると他地域に行く時間はありません。大会前に彼らを招待して、地域を紹介する映像を撮ってもらい、試合前や合間にその映像を流してもらうよう働きかけるのがいいでしょう。一番効果的なのは、自分たちで外国(出場国)に行って、「招待するのでぜひ撮影に来てください」と、メディアに直接交渉することだと思います。

地域の魅力を見つけアピールしていくためには

─インバウンドを呼び込むためには外国人にアピールできるものが必要になりますが、それを見つけるにはどうしたらいいでしょう。

坪井 地域の魅力に地元の人が気付かないケースはよくあります。そういった場合は外部からの意見を求めるのも有効です。一例を挙げると、私が以前新潟を管轄していたころ、新潟駅から月岡温泉に行く途中の田んぼに、秋になると白鳥が来ることに気付きました。湖に白鳥は当たり前ですが、田んぼに白鳥は珍しい。素晴らしい光景でしたが、地元の人たちはそれに気付いていませんでした。

─地域の魅力をインバウンド増加に結びつけるにはどうしたらいいでしょうか。

坪井 自分たちの地域の魅力を見つけたら、次に、その魅力を好きになってくれるのはどこの国の人なのかを考える必要があります。最初にも言いましたが、国によって日本の旅行に求めるものが違っているからです。そうやってターゲットを絞ったら、アピールする方法はいろいろあります。それらの国で開催される旅行博などに出展して現地の旅行会社にアピールしたり、フェイスブックやツイッターなどのSNSで情報を発信したり、地域の魅力を紹介する他言語版ホームページをつくったりする方法などもあります。ただし、SNSが必ずしも効果的というわけでもなく、例えばベトナム人はテレビ番組やCMで日本の情報を得ていたり、フィリピン人は旅行口コミサイトだったりと、さまざまです。こういうことも事前に分析して、その国に効果的に情報を発信できる媒体は何かも調べる必要があります。

すぐに結果は出ないが継続して活動していくべき

─外国語の表示やコミュニケーションなど、受け入れ体制を整えることは大変そうですが、これについてはどうでしょうか。

坪井 これをそれほど心配する必要はありません。外国人観光客へのアンケートの「日本で何に困ったか」という質問では、「困ったことはなかった」という答えが一番増えているのです。例えば言葉にしても、今は国の機関が研究してつくっている音声翻訳アプリがあり、無料で使えて翻訳もとても正確です。あとは外国人に対する苦手意識を持たず、積極的に受け入れる姿勢を示すことです。まずはそこから始めて、あとは徐々にいろいろなところを改善していけばいいと思います。

─インバウンドを呼び込みたいのなら、少しでもいいからまず動き出すべきなんですね。

坪井 そうですね。ただ、インバウンドに関して一つ強調しておきたいのは、今、地方で多くの外国人観光客が訪れている地域に共通しているのは、以前から時間をかけてインバウンドの呼び込みに取り組んでいるということです。今取り組みを始めればすぐに結果が出るわけではなく、継続していくことが重要です。もう一つは、まち全体で取り組んでいるということ。ホテルや土産品店などの観光業者だけが一生懸命にやってもうまくいきません。まちに観光客がたくさん来てくれれば、観光業者だけでなく、まち全体が潤うのだということを多くの人に知らせていく必要があります。

─そのためには、まち全体を一つにまとめあげていく必要がありますね。

坪井 はい。地域によっては行政と観光協会、民間業者がバラバラにやっているところもありますが、これでは効率が悪い。商工会議所であれば、行政と民間の間に立って全体をまとめていきやすいと思います。また、私どものようなインバウンド推進に長年の経験がある旅行会社にご相談いただくのも一つの方法です。地域を活性化させるためにも、ぜひ取り組んでみてください。

INFORMATION

JTB訪日インバウンドビジネス推進部では、インバウンドに関するトレンド分析や最新事例を紹介する「JTBインバウンドニュース」をメールで配信している(無料)。https://www.jtb.co.jp/inbound/mail/ また、インバウンドに関する講演の依頼も受け付けている。詳しくは山根(m_yamane559@jtb.com)まで

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