事例3 脱・通過都市を目指し泉州の7商工会議所が結集
泉州地域広域観光連携協議会 阪南7商工会議所
大阪府南西部に位置する泉州地域は、関西国際空港のお膝元という好立地にある。だが、国内外の観光客は大阪市内や京都へ向かい、素通りされているのが現状だ。同地域の歴史、文化、特産品などの豊富な観光資源を生かしてインバウンドを誘致しようと、阪南7商工会議所が立ち上がった。
共通の危機感から実現した広域連携
2018年1月、堺、高石、泉大津、和泉、岸和田、貝塚、泉佐野の阪南7商工会議所が「泉州地域広域観光連携協議会」を立ち上げた。13市町からなる泉州地域にある七つの商工会議所が名を連ねた広域連携だ。そこには、ある共通の危機感があった。関西国際空港(以下、関空)からのアクセスがよいにもかかわらず、観光客は大阪市内や京都の有名観光スポットへと向かい、素通りしてしまう。近年、インバウンドの影響で来阪外客数は増加の一途で、14年の376万人に対し、17年は1110万人という最高記録を更新している(JNTO、観光庁調べ)。それに比例して関空の航空旅客数も16年で2523万人、17年は2798万人と10・9%の増加傾向だ。にもかかわらず、泉州地域は16年の延べ宿泊者数が前年比でマイナスとなり、上昇気運に乗り切れていない。従来通り、市町村が個々に情報を発信するのでは太刀打ちできない事実を、否が応でも突きつけられている。この状況に手をこまねいているわけにはいかない。7商工会議所の深刻な課題として意見が一致した。
「少子化による今後の経済規模の縮小を考えると、インバウンド誘致は有効です。泉州地域には恵まれた自然や歴史、文化があります。認知度不足を克服し、広く泉州の魅力を発信して集客に結びつけることが急務と感じています」
同協議会の会長を務める岸和田商工会議所の会頭、中井秀樹さんは熱く語る。岸和田市は古くは岸和田藩の城下町として栄え、今も「城とだんじりのまち」として知られる。NHK連続テレビ小説『カーネーション』の舞台になったことも記憶に新しい。毎年9月に開催されるだんじり祭は、悪天候でなければ観光客数は50万人台にもなり、インバウンド誘致にも積極的だ。だが、だからこそ岸和田市だけでは課題解決に至らないことを痛感しているといえる。
インバウンドの経済効果に期待が募る
大阪観光局の調べでは、17年に大阪を訪れたインバウンドの消費額は1兆1838億円で、全国のインバウンド消費の約4分の1を占める。一人当たりの総支出平均を算出すると10万6645円(航空運賃を除く)と、経済効果は大きい。その内訳をみると、50%を占めるのが買い物で、時計やアクセサリーなどの高級ブランド品への支出が断トツで多い。だが、中井さんはこのデータを冷静に受け止めてこう語る。
「爆買いと言われるように、日本の高級ブランドを買い占めるインバウンドの流れはあります。しかし、この先もそうかというと疑問です。モノからコトへ、日本独自の料理を楽しみ、自然や文化に触れたいというニーズが高まっているように思います。泉州ならではの地域資源を掘り起こし、泉州に行って買う、食べる、体験するという周遊促進の視点が、これからのインバウンド誘致には必要です」
泉州の地域資源に目を向けると、多彩かつ豊富なことが分かる。堺市にある百舌鳥(もず)古墳群や高石市の日本屈指の工場夜景、貝塚市の奥水間温泉や、関空に隣接する泉佐野市の生活創造都市りんくうタウン、和泉市と泉大津市とにまたがる弥生時代の大規模遺跡、池上曽根遺跡など、泉州には新旧の名所が点在している。
また、シラスやシャコなどの海産物から、水ナスや泉州黄玉ねぎ、包近(かねちか)の桃などの農産物、地酒や和菓子などのグルメのバリエーションも豊富だ。
「確かに地域資源は豊かです。しかし、これらをアピールし切れていない。インバウンドに何がウケるのか、情報をきちんと整理し、分析することが大切です」
地域の魅力を再発見し若手育成にも貢献
泉州地域広域観光連携協議会では、今年1年かけて泉州の魅力を効果的に提案できる地域ブランドやモデル観光ルートの調査研究を進めている。岸和田商工会議所の専務理事、原宗久さんは言う。
「自転車のまち堺をはじめ、泉州地域の事業者の参画をいただき、自転車で気軽に巡れるルートができないか模索しているところです。NTTの協力によるビッグデータの解析によると、堺市は泉州の中でも宿泊者数が多いという結果が出ましたが、データありきではなく、実際に宿泊者がどこに向かうかなど、その数値が打ち出された背景を理解することができるのかが問われます。堺市に宿泊された方が、自転車でまちを周遊したくなる。そんな魅力を打ち出せていければと思います」
また、行政を中心としたインバウンド誘致の取り組みも動き出している。泉州9市4町と参画事業者による「KIX泉州ツーリズムビューロー」だ。観光庁の「日本版DMO」(観光地域づくりのかじ取り役を担う法人)の候補に登録され、20年にはインバウンドの延べ宿泊者数を137万人、消費額を1021億円に増やす目標を掲げている。
「今後、さらに連携することもあるでしょう。われわれ産業界が観光振興に取り組む最終的な目的は、地元の若手の育成です。集客できれば雇用も生まれます。その機運が多角的に醸成され始めたところです」と中井さん。産業として根づく観光の〝仕込み〟は着々と進んでいる。
会社データ
名前:泉州地域広域観光連携協議会 岸和田商工会議所(事務局)
構成:堺商工会議所、高石商工会議所、泉大津商工会議所、和泉商工会議所、貝塚商工会議所、泉佐野商工会議所
※月刊石垣2018年9月号に掲載された記事です。
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