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平成29年度中小企業・地域活性化施策に関する意見・要望(概要) 地域経済の底上げを IT・創業、予算拡充求める

日本商工会議所は7月21日、「平成29年度中小企業・地域活性化施策に関する意見・要望」を取りまとめ、公表した。要望では、人口減少による人手不足や地域経済の疲弊をわが国の構造的な課題として捉え、その克服のためには国全体で生産性の向上、地方創生に取り組むことの必要性を指摘。併せて農林水産業・観光関連産業などの育成や地域経済をけん引する中堅企業の成長・強化など地域経済の底上げと好循環の確立を求めている。特集では、要望の概要を紹介する。(1面参照)

基本的考え方

◆わが国経済の構造的な課題は、人口減少による人手不足、地域経済の疲弊。国全体で、生産性向上、地方創生に取り組むことが必要。また世界経済の情勢変化への対応も必要。

◆中小企業が人手不足を克服し、販路開拓・付加価値向上に取り組むには、ITの導入・活用が不可欠。また創業・事業承継などを加速し、優れた技術・サービスの創出・発展の促進を。

◆地方創生の切り札である農林水産業・観光関連産業などの育成、地域経済をけん引する中堅企業の成長・強化などにより、地域経済の底上げと好循環の確立を。

◆熊本地震により被災した、地域経済・雇用を支える中小企業の早期復旧・復興に向けた支援、東日本大震災からの本格復興と福島再生に向けた継続的な支援を。 

Ⅰ.中小・小規模企業の生産性向上・経営力強化

[重点要望1]中小・小規模企業(製造業・サービス業)の業務効率化や販路開拓に向けたITなどの活用促進

人口減少・労働力人口減少を背景とする人手不足、既存商圏の需要縮小を克服するため、中小・小規模企業においても、ITを導入・活用し、業務の効率化や新たな販路開拓に取り組み、生産性を向上させることが必要である。しかし、中小・小規模企業では、社内のIT人材の不足、導入効果の判断の困難さ、コストなどがネックとなり、導入・活用が進んでいない。

これまでITになじみの薄かった中小・小規模企業がITを導入・活用するには、自らITによる生産性向上の効果に気付き、実感する機会が必要である。IT導入の効果やコストの目安が分かる手引き・冊子、事例集などによる周知・啓発や、ITセミナー・相談会などの開催、IT導入・活用を促す支援策の拡充などが有効である。加えて、情報セキュリティ対策の推進も重要である。また、中小ものづくり企業の現場におけるカイゼン・5S(品質・生産管理)などの経営支援と一体となってロボット・IoTなどの導入を支援する「スマートものづくり応援隊」の取り組みを推進すべきである。

さらに、中小企業が低事務負担・低費用負担で金融決済の高度化(XML電文移行)を利用できる環境を整備することも、中小企業のIT化促進に対して大変効果的である。(参考1)

[要望項目]

◎中小企業が、ITの効果・必要性を実感できる機会の創出と導入・活用に向けた支援【冊子や事例集の作成・配布、IT機器・サービスを体験できるセミナーなどの実施、クラウドサービス(会計、決済など)の推進、インターネットモールなどによる販路開拓の支援、専門家派遣の拡充、経営支援人材のITリテラシー向上】、情報セキュリティ対策の啓発強化

◎5S・カイゼンなど経営支援と一体でIT・IoT、ロボットなどの導入を支援する拠点の全国展開

○「ものづくり補助金」「サポイン事業」「小規模事業者持続化補助金」の継続・拡充、ITなどの設備投資・技術開発、活用に対する重点的な支援

◎金融決済の高度化(XML電文移行)を低事務負担・低費用負担で利用できる環境整備 

[重点要望2] 創業、事業承継・引継ぎ、再生などによる優れた技術・サービスの創出・発展

創業者・ベンチャー企業は、新たな技術・サービスを生み出す源泉であり、わが国の成長に不可欠な存在である。政府は、「日本再興戦略」のKPIとして「開業率%台」を掲げているが、その実現のためには、予算を大幅に拡充し、創業支援策を継続的に充実させるとともに、開業数・開業率を正確に把握することが必要である。

また、現在、わが国の経営者の平均年齢は約60歳であり、特に個人経営事業主(自営業主)では70代以上が最も多く、約80万人に上る(2016年小規模企業白書より)。こうした企業が事業承継できずに廃業に追い込まれれば、雇用はもとより、優れた技術・サービスやノウハウが失われ、わが国経済にとって大きな損失である。後継者あるいはM&Aなどにより円滑に承継・引継ぎができるよう支援するとともに、経営者が早めに自社の経営を見直すよう促し、必要に応じ経営改善や事業再生につなげることが重要である。また、廃業を選択する経営者に対する円滑な廃業の支援も必要である。

特に、事業承継後の企業や、経営者が若い企業ほど、IT導入・活用などの新たな取り組みや、事業拡大・発展に向けた取り組みを行っていることから、事業承継の促進はわが国全体の生産性向上および付加価値向上に寄与することが期待される。(参考2)

[要望項目]

○「開業率10%台」実現に向けた創業・ベンチャー支援の継続的な充実、正確な開業数の把握など

◎事業承継・引継ぎ支援の充実(事業引継ぎ支援センターの機能強化、自治体・支援機関・金融機関の連携、「後継者バンク」の全国展開、「第二創業補助金」の拡充など)

◎経営改善・事業再生の促進(金融機関との対話や「ローカルベンチマーク」活用へのインセンティブ付与、中小企業再生支援協議会の機能拡充)、円滑な廃業の支援など

○新事業展開などを促す金融支援、セーフティネット機能の拡充と金融仲介機能の一層の強化(「経営者保証ガイドライン」の推進、資金繰りの万全な対策、信用補完制度見直しの悪影響回避)

[重点要望3]消費税率引き上げ延期を受けての課題

[要望項目]

○平成31年10月の消費税10%への引き上げを確実に実施できる経済環境の整備

○今般の消費税引き上げ延期を受けた、軽減税率制度の導入再検討

◎適格請求書など保存方式(インボイス制度)は、十分な期間を設け、廃止を含め、慎重に検討すべき

[その他要望項目]

⑴中小企業のTPP・EPA活用など、海外展開支援の強化

◎TPP協定の早期承認・発効、中小企業が輸出しやすい制度の整備(原産地規則の統一、自己証明・第三者証明の併用、支援機関への専門家派遣)、ODA事業への参入機会拡大など

⑵中小企業の高付加価値化に向けた、研究開発促進、知的財産権取得・活用・保護の支援

○小口の研究開発予算枠の設定(SIP、ImPAGT)、特許料金減免制度の大幅拡充など

⑶中小企業の人材確保、わが国の労働力不足への対応

○最低賃金引き上げの慎重な判断、インターンシップの活用促進、ジョブ・カード制度の普及促進、女性の就労拡大(社会保険見直し)、雇用関係助成金の活用促進、「同一労働同一賃金」の慎重な検討

⑷小規模企業の経営力強化を促す経営支援体制などの強化

○小規模事業者持続化補助金・経営発達支援計画への補助などの継続・拡充

◎マル経融資制度の利用拡大に対応した予算枠の大幅拡充(適用利率の上昇抑制)など

⑸生産性向上を妨げる過大な企業負担の軽減

◎定量目標の設定による、行政手続きの計画的な効率化、規制改革の推進

○電力コストの軽減(安全が確認された原子力発電の運転再開、省エネ支援拡充など)など

⑹中小企業の取引適正化、官公需受注機会の確保 

Ⅱ.地方創生に向けた地域経済の底上げ・好循環の確立

[重点要望1]農林水産業の成長産業化に向けた連携の促進など 

政府は、「日本再興戦略」において、「農林水産業の成長産業化」を掲げ、生産現場の強化に向けた農業界と産業界との連携強化を図ることとしている。中小企業などの知見や技術・ノウハウを、農林水産業の生産性向上に活かし、地域経済全体を底上げするには、農商工連携、特に、「農工連携」を重点的に支援し、農林水産業者と商工業者との連携・マッチングを促す取り組みを、全国に広げていくことが重要である。

また、TPPの発効などを見据えた農林水産物・食品などの輸出促進に向け、農林水産物・食品などの付加価値向上や海外販路開拓への支援も重要である。(参考3)

[要望項目]

◎「農工連携」による、農林水産業者の作業効率・生産性向上に資する機械化などの取り組みへの支援(「農商工など連携事業計画」の認定事業者が取り組む「農工連携」への重点支援)、農林水産業者と商工業者との連携促進に向けた支援

◎農林水産物・食品などの輸出促進に向けた支援(JAPANブランド育成支援事業の拡充など)

○林業・水産業の振興に対する支援

[重点要望2]地域経済を牽引する中堅企業の強化

「中小企業など経営強化法」(平成28年7月1日施行)において、「資本金10億円以下」または「従業員数2000人以下」の企業が「中堅企業」として支援対象に位置付けられた。

東京商工会議所の「中堅企業の経営の現状に関するアンケート」(平成27年5月実施)によれば、中堅企業が成長する大きな要因の一つは「新技術や新製品・新サービスの開発」である。しかし研究開発には莫大な費用が必要である一方、確実に利益につながると言えないことから、中堅企業においても後押しが必要である。また、優良な中堅企業であっても、大企業に比べると知名度が低く、「人材の確保」などは重要な経営課題となっていることから、人材確保・育成・定着の支援策を充実させることが必要である。

さらに、大規模災害・経済危機など非常事態発生時における中堅企業向けの措置について、平成28年度熊本地震復旧など予備費の「中小企業等グループ補助金」において、「資本金10億円未満」の企業が補助対象とされたが、こうした措置が、非常事態発生時に迅速に実施されるよう、予め規定することが重要である。

[要望項目]

◎「中小企業等経営強化法」の対象とされた「中堅企業」の研究開発などへの重点的な支援、中堅企業向けSBIRの創設など

◎人材確保・育成・定着に資する雇用関係助成金における中小企業並みの助成

○大規模災害・経済危機など非常事態発生時における金融措置・補助施策などを、中堅企業まで含めた幅広い企業を支援対象として迅速に実施できる規定・仕組みの構築

[その他要望項目]

◎⑴東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした経済効果の全国的な波及

▼「中小企業世界発信プロジェクト」強化による全国中小企業などの受注機会拡大、事前キャンプ。誘致情報発信、特産品・観光商品など地域・文化資源の積極的活用など

○⑵インバウンドの誘客力強化・国内観光の促進

▼全国各地域へのインバウンドの需要の呼び込み(クルーズ船受け入れ拡大や広域観光促進のためのインフラ整備、宿泊施設改修支援、海外へのプロモーション強化)など

◎⑶地域資源を活用した事業の創出・育成への支援

▼「地域産業資源活用事業計画」の認定促進(特に観光資源活用の促進)など

○⑷地域中核企業のイノベーションを後押しする産業集積・産学官金連携の促進

▼地域の中堅・中小企業グループが連携して取り組む、航空・医療など成長分野参入への支援(大学、高専、研究機関、公設試などのシーズを活用した新製品・サービス開発、販路開拓)など

○⑸地方創生の基盤となる「まち」の再生・活性化に向けた仕組みの再構築

▼空き地空き店舗などの利活用促進への助成と制度の見直しなど

○⑹ストック効果を重視した社会資本整備の推進、地域公共交通の維持・再生

▼高規格幹線道路のミッシングリンク解消、整備新幹線・リニア中央新幹線などの早期完成など 

Ⅲ.熊本地震からの復旧・復興、東日本大震災からの本格復興・福島再生に向けた継続的支援

[要望項目]

◎1.熊本地震からの復旧・復興

▼特別法の制定などによる復旧・復興対策の十分な予算確保(復旧・復興事業に取り組む自治体に対する特別交付税の措置)、避難者の住宅確保、幹線道路・鉄道の復旧など

▼九州全域の風評被害を防ぐための安全性などに関する情報発信、観光資源の早期復旧

○2.東日本大震災からの本格復興と福島の復旧・復興の加速に向けた継続的支援

▼インフラの着実な復旧・整備の促進、観光振興など交流人口拡大に向けた支援策の拡充▼国際競争力を備えた農林水産業の再生、被災企業の事業再開、販路回復・開拓を通じた自立促進への支援

▼国の主導による、福島の復旧・復興の加速(迅速な除染の完全実施など)

(本記事中の◎印は新規の要望内容を含む事項、○印は継続要望事項を表す)