知恵と連携で魅力発信 8地域・1グループを表彰
日本商工会議所はこのほど、平成28年度「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」に長崎商工会議所を選定した。同所青年部の提言を官民連携でサポートし、市民も巻き込んだオール長崎で活動を展開した点が評価された。また、従来からの各賞に加えて、複数の商工会議所間の連携による観光振興の取り組みを顕彰する「広域連携特別賞」を今回から新設。「東北六魂祭」などを実施している仙台・青森・盛岡・秋田・山形・福島の6商工会議所(1グループ)が受賞した。表彰式は、7月11日に京都市で開催される「全国商工会議所観光振興大会2016㏌京都」で行う。特集では、受賞商工会議所の取り組み概要を紹介する。
大賞
長崎(長崎県)
―世界一の夜景都市をめざして~青年部の提言を地域一帯で実現―
長崎商工会議所は、かつて「日本三大夜景」と呼ばれた長崎の夜景を、同市を訪れる観光客の8割が見ていないという長崎市の調査結果に着目。平成24年度から、夜景観光の復活に取り組んでいる。同年「夜景サミット2012㏌長崎」で、長崎市が香港・モナコとともに「世界新三大夜景都市」に認定される中、当所青年部の「世界一の夜景都市長崎を目指す!」という提言が当所をはじめ市民・企業、さらに行政からも賛同を得、25年に官民連携組織「長崎夜景プロモーション実行委員会」が発足。早速「ひかりのおもてなしプロジェクト」として、全国高校総合文化祭に参加する各地の高校生を、長崎港周辺の事業所や住宅などがカーテンを開け、一層輝きを増した夜景で歓迎した。この様子はSNS(写真付)により国内外に拡散され、大きな反響を呼んだ。また「音楽による夜景のブランド化」を目指し、世界的バイオリニストの葉加瀬太郎氏が、夜景テーマ曲「長崎夜曲」を制作。市内各所でBGMとして流れ、動画サイトの再生回数は6万回を超えた。
26年と27年には、見上げる夜景として「稲佐山電波塔ライトアップ」を実施。長崎市出身のアーティスト福山雅治氏の稲佐山コンサートとコラボレーションし好評を得た。
こうした取り組みで、27年度の観光客数は過去最多の669万人を記録。宿泊客数、観光消費額も増加し、宿泊滞在型観光の推進に貢献した。このほかにも市民と観光客が参加できる様々な夜景の楽しみ方の創造に取り組んでいる。
観光立“地域”特別賞
岐阜(岐阜県)
―清流長良川に育まれた長良川流域文化に基づく「岐阜ブランド」の確立―
岐阜商工会議所は、観光振興を地方創生の起爆剤と位置づけ、「岐阜ブランド」の確立に向け様々な事業に取り組んでいる。
「鮎菓子のまち・岐阜プロジェクト」では、平成24年度から地元の代表的な和菓子店5社が連携し、鮎菓子を一箱に収めた「ぎふ長良川銘菓 鮎めぐり」を企画、販売を開始。28年3月には鮎菓子をテーマとした「鮎菓子たべよー博」を開催し、市内30の鮎菓子製造業者が出店。約7500名が来場した。
「繊維のまち・岐阜シャツプロジェクト」は、24年度から若手経営者5名が連携。「繊維のまち・岐阜」の復権を目指した「岐阜シャツ」を企画から生産まで一貫して手掛け、「feel NIPPON 春 2016」に出展。4月にはクラウドファンディングにより販売し、2日間で目標金額を達成し完売した。
また、「信長公のまち・岐阜プロジェクト」では、半世紀以上の歴史を誇る「ぎふ信長まつり」の一環として、24年に開催の「信長ゆかりの地をめぐる旅」で、織田信長が要人を饗応した「信長おもてなし御膳」を提供。体験型ツアーとして好評を得た。
振興賞
結城(茨城県)
―〝結い〟で繋がる広がる結城の心―
結城商工会議所は、屋根の葺き替えや田植えなどの共同作業である「結い」をキーワードに、平成22年に「結いプロジェクト」を結成。人とモノの縁を結ぶ活動を展開している。
22年より、ものづくりをテーマにした芸術祭「結い市」を開催。城下町のなごりで歴史的な街並みを舞台に、神社の境内や蔵などのさまざまな空間を活用し、全国の芸術家からの作品展示やさまざまな音楽家のライブなどを楽しむことができる。第1回の来場者は、500人程度であったが、27年の第6回には、3万人にまで来場者が増加。地元商店街や出展関係者にも多大な経済効果が見込まれるイベントに成長した。
また、25年からは音楽祭「結いのおと」を開催。当地にコンサートホールやライブハウスがないことを逆手にとり、明治時代から続く老舗の紬問屋やこだわりのカフェといった情緒あふれる空間で演奏を楽しむことができる。近年では、街なか音楽フェス(通称・街フェス)のモデル的なイベントとしても業界や全国の音楽ファンから注目を集めており、観光誘客の期待が高まっている。
振興賞
日光(栃木県)
―中心市街地を日光・鬼怒川へのゲートタウンに―
栃木県日光市は、四季を通じ国内外から多くの観光客が訪れる観光都市だが、東日本大震災直後には放射能汚染問題などによる風評被害で観光客数が激減。その後、積極的な誘客対策の効果もあり、現在は回復基調であるが、奥日光・奥鬼怒地区では未だ回復に至っていない。
日光商工会議所では、地域間の連携と日光ブランドを主体とした統一感のあるイメージ戦略を打ち出すため、平成19年12月に中心市街地活性化協議会を設置。中心市街地を日光・鬼怒川へのゲートタウンとする構想を提案した。
27年4月、観光色の弱い旧今市市域に道の駅「日光街道ニコニコ本陣」がオープン。日光・鬼怒川方面へ向かう観光客が立ち寄る流れが生まれた。また、同施設には、市内の高校を卒業し地元と縁の深い著名な作曲家・船村徹氏の記念館も併設されている。
当所では、27年には郷土の偉人である二宮尊徳翁没後160年にちなんだ観光交流プログラムを開発。28年には訪日客向けの指さし会話シートの開発などホスピタリティにも力を入れ、にぎわいを取り戻す取り組みを続けている。
観光立“地域”特別賞
一宮(愛知県)
―地元繊維産業が育んだ、おもてなし文化「一宮モーニング」の魅力を発信―
愛知県一宮市は、戦後、洋服地を中心とした毛織物の一大産地として急成長。昭和30年代前半に喫茶店を商談場所として、朝から一日に何度も利用する経営者に対し、コーヒーにサービスとしてゆで卵とピーナツを付けたのが「モーニングサービス」の始まりと言われ、その量とバラエティの多さで、近年全国から注目を集めている。
一宮商工会議所では、平成21年度に「一宮モーニング協議会」を発足させ、「モーニングサービス」を地域資源とし、一宮市の地域活性化に取り組んできた。
公式ホームページ(年間20万人が訪問)や「一宮モーニングマップ」(毎年5万冊発行)を通じた情報発信、27年度の「一宮モーニング博覧会」(初回は19年)では、大手食品メーカー「ケロッグ」とコラボレーションし、創作メニューづくりや大学生、高校生に就業体験の場を提供。
また、大学との連携教養講座「朝学」でも利用し、一宮市の交流人口の拡大に寄与している。こうした取り組みは、毎年多くのメディアに取り上げられ、28年2月には、これまでの10年間の取り組みが認められ「一宮モーニング」が地域団体商標の認定を受けた。
奨励賞(3カ所)
天童(山形県)
―天童織田藩をテーマとした統一観光プロジェクト事業ODA―
天童商工会議所は、幕末に当地を治めた天童織田藩を観光に活かす取り組みを進めている。「食」「まち歩き」「土産品」の要素を「織田(ODA)」でつなぐ事業を構想した。
「O=Oishii おいしい」では、天童織田藩のご当地食である「寒中挽き抜きそば」を江戸時代末期の製法を忠実に再現し、市内飲食店で提供。平成16年から始めたそば賞味会はチケットが一日で完売する人気イベントである。
「D=Deai出会い」では、天童織田藩をテーマにしたまち歩き観光ルートを開拓し、27年3月に宮城県の旅行業者15社にプロモーションを行った。
「A=Artアート」では、26年から天童織田藩や天童の技術を活用した将棋の駒をつかったアクセサリー、日本一の生産量を誇るラ・フランス(洋梨)を使った金平糖などの開発・販売を行っている。この「織田のまちづくり」を積極的に推進しているのが、天童商工会議所女性職員が呼びかけて結成された「天童観光女士会」。観光客の多くが女性であることから、女性目線で観光振興に取り組んでいる。
西宮(兵庫県)
―酒ぐら地帯を中心とした産業と歴史を結びつけた産業観光の振興―
兵庫県西宮市は、大阪市と神戸市の中間に位置することから宿泊施設が少なく、観光入込客数の99%が日帰り客で、観光消費額が比較的小さいという課題を抱えている。
そこで、西宮商工会議所では、地場産業である日本酒に着目。西宮の酒蔵地帯・西宮の酒のブランド化することで、インバウンドを含めた他地域からの来客数が増加し、観光消費額が高まることをねらっている。
具体的には、阪神・淡路大震災からの酒蔵地帯の復興を願い、平成9年から「西宮酒ぐらルネサンスと食フェア」を開催。27年には13万人が来場し、西宮市最大のお祭りになった。25年から日本酒蔵元が中心となったワークショップ「西宮日本酒学校」を開催し、コアな日本酒ファンの育成・情報発信を行っている。24年からは、文教都市としての特徴を活かし、関西学院大学のゼミと日本酒蔵元、西宮商工会議所が連携した新商品「宮モヒート」を開発。日本酒を若者にも浸透させるため、若者のアイデアを本酒開発に採用する機会を提供している。
岡山(岡山県)
―昭和レトロの町並みを活かしたマルシェ事業を中心とする観光振興―
岡山市西大寺地区は、日本三大奇祭の1つである「西大寺会陽」(通称「はだか祭り」)」で知られているが、昭和初期の「看板建築」の町並みが改築されず手つかずで残っており、映画、テレビドラマの撮影地としても注目されている。
岡山商工会議所は、平成26年から看板建築の保存状態の良い地区で昭和レトロをテーマにした「西大寺五福通りレトロマルシェ」を開催している。建物の調査を行った地元大学生の案内によるレトロ建築ツアーやコマ回し、けん玉、射的などの昭和レトロの遊びを子供に教えるイベントなどが行われている。
また、出店者や来場者が昭和レトロファッションに扮して参加する工夫もしている。開催にあたっては、地域住民向け説明会を複数回開催するなど、住民の理解と協力をベースとしており、来場者数・出店者数は回を重ねるごとに増加。今後は新規創業者の掘り起こしと空き店舗の解消も期待されている。
【新設】 広域連携特別賞(1ヵ所)
仙台(宮城県)、青森(青森県)、盛岡(岩手県)、秋田(秋田県)、山形(山形県)、福島(福島県)
―東北六魂祭―
東日本大震災による風評被害や自粛ムードのなか、東北各地は観光客の激減に苦しんでいた。仙台、青森、盛岡、秋田、山形、福 島の6商工会議所は、平成23年2月に、青森市で開催された全国商工会議所観光振興大会を機に結成された「東北夏祭りネットワーク」を中心として、今までなしえなかった東北6市の行政、民間、祭り団体と連携・協力した東北六魂祭実行委員会を設置。23年7月に第1回東北六魂祭が仙台市で開催され37万人が来場した。24年以降は、盛岡市、福島市、山形市、秋田市と会場を順に移し、28年6月には青森市で開催され、東北六県を一巡した。
東北六魂祭実行委員会は、祭りの開催という一過性のイベントに終らせず、関係機関と連携し、27年7月にはミラノ万博のジャパンデーにおいて東北復興祭りパレードを実施。27年8月にはアメリカ国内で観光PRと物産販売を目的とした海外展開事業を行うなど、東北全体の観光振興、地域産品の販路拡大に戦略的に取り組んでいる。
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