日本商工会議所は17日、「平成27年度税制改革に関する意見」を取りまとめ、公表した。今後、安倍晋三首相、麻生太郎財務相、小渕優子経産相はじめ、政府・与党など関係各方面に意見書を提出して、その実現を目指す。意見書では、法人税改革の断行を迫るとともに、代替財源の議論で浮上している外形標準課税の中小企業への適用拡大については、地域経済に甚大な悪影響を及ぼすことから「断固反対」を表明。消費税率再引き上げに伴う課題については、社会保障・税一体改革の着実な実行を強く求めるとともに、国民・事業者に過大な負担を強いる複数税率導入には反対の姿勢を鮮明にしている。
平成27年度税制改正に関する意見(概要)
平成26年9月17日 日本商工会議所
Ⅰ 中小・中堅企業の成長を喚起・後押しする法人税改革
1.法人実効税率は海外主要国並み20%台へ引き下げるべき
・わが国経済の持続的な成長を実現するためには、高い技術力を保有し、世界的に高い市場シェアを有するなど、海外市場で競争する中小・中堅企業の競争力強化や、地域の中小企業を支え、高い雇用吸収力を有する地域の中核企業の成長の喚起が必要である。
・グローバル競争が進展する中、諸外国が法人実効税率を引き下げており、わが国の法人実効税率(約35・6%)は国際的に見ていまだ高い水準。企業の国際競争力の強化や、対日投資を拡大するため、諸外国との競争条件のイコールフッティングの実現は急務である。
・「企業・人が最も仕事をしやすい国」の実現に向け、法人実効税率を海外主要国並みの20%台へ引き下げるべきである。
・法人所得800万円以下の中小企業は50万社に達し、海外製品・サービスとの競争にさらされていることから、海外との競争に打ち勝てる水準まで中小法人の軽減税率を引き下げるべきである。
2.代替財源、課税ベースの拡大については、さまざまな視点から慎重に検討すべき
・法人実効税率引き下げの代替財源は、単年度の法人課税の税収中立ではなく、徹底した歳出削減に取り組むことはもとより、予算全体の中での財源確保や、複数年度における経済成長の果実を活用すべきである。
・課税ベースの拡大については、単なる財源確保といった観点での検討は適切でない。地域を含めた経済への影響、国際的な整合性、企業の成長への後押し、中小企業の経営への影響、制度の簡素化や公平性などのさまざまな視点から慎重に検討すべきである。
(1)中小企業は、雇用を通じて地域と財政に大きく貢献。地方税も応分負担
(2)外形標準課税の中小企業への適用拡大は、地域経済に甚大な影響を及ぼし、ひいてはわが国経済・社会の発展を阻害することから断固反対
・外形標準課税(法人事業税の付加価値割)は、「賃金への課税」が中心であり、人を雇用するほど税負担が増すことから、雇用の維持、創出に悪影響をもたらす。政府の賃金引き上げの政策にも逆行し、経済の好循環の実現を阻害する。
・とりわけ、労働分配率が8割にも達する中小企業への適用拡大は、赤字法人177万社が増税になるなど、地域の雇用を支えている中小企業に与える影響は甚大であり、地域経済の崩壊につながる。
・諸外国でも賃金課税はまれな税制であり、近年は廃止している国が多い。
(3)中小企業の欠損金繰越控除は制限すべきではない
・欠損金の繰越控除制度は、法人税負担の平準化を図るために設けられている制度である。国際的にも、多くの国では中小企業の欠損金繰越控除を制限しておらず、損益分岐点比率が9割と、景気変動の影響を大きく受ける中小企業の経営の安定性を著しく阻害する制度変更は行うべきでない。
(4)中小企業の成長を後押しする租税特別措置などは制限すべきではない
・設備投資や研究開発など中小企業の成長を後押しする税制は、所得額でその適用を制限すべきでない
・中小企業は毎年同規模の所得を得ているわけではなく、利益の額は変動する。単年度所得で租特などの利用制限を行うことは、中長期での税制適用の見通しを不確実なものとし、予見可能性が損なわれる。
(5)減価償却方法の見直しは中小企業の設備投資の実態を踏まえて慎重に検討すべき
・中小企業は、大多数が定率法を選択している。減価償却方法が定額法に統一された場合、キャッシュフローが減少し再投資が困難になる、返済余力が縮小し金融機関からの借り入れ枠が減少するなど、中小企業の経営に与える影響は大きい。
(6)中小企業の成長の基盤となる資本の蓄積を阻害する留保金課税の拡大には反対
・企業の成長にとって、投資の源泉となる利益の蓄積と自己資本の充実による財務基盤の強化は極めて重要であり、留保金課税の拡大には断固反対であり、むしろ廃止すべきである。
(7)地方税の損金不算入措置については、課税所得の少ない中小企業に負担が偏らないように、中小法人の軽減税率の引き下げとあわせて議論すべき
3.赤字法人の多い理由が、法人成りした小規模企業であるとの指摘は不適切である
Ⅱ 消費税引き上げに伴う課題
1.社会保障・税一体改革の着実な実行
・社会保障給付の重点化・効率化の徹底を図り、消費税率10%の範囲内で一定期間は持続可能となる全体をパッケージとした改革断行が必要不可欠である。
・消費税率10%の範囲内で最大限持続可能な制度に近付けるよう、引き続き「重点化・効率化」を軸とした年金、医療、介護などの各制度の改革推進が必要である。
2.消費税率10%への引き上げの判断にあたり、経済の環境整備に万全を期すべきである
・経済状況の推移や価格転嫁の実現状況を慎重に検討し、経済の環境整備に万全を期すべきである。
・引き上げに当たっては、円滑な価格転嫁に向けた取り組みの着実な継続、成長戦略の実行による企業の競争力強化、引き上げ後の景気の下振れをカバーする景気・経済対策の実施が必要である。
3.複数税率の導入は、社会保障財源が大きく失われ、国民に別の形で負担を強いることから断固反対
(1)複数税率は社会保障制度の持続可能性を損なう
・複数税率は高所得者ほど恩恵が大きく逆進性対策として非効率な一方で、社会保障財源の大幅な減収を招き、社会保障制度の持続可能性を損なう。低所得者対策としては、きめ細かな給付措置で対応すべきである。
(2)対象品目の線引きが不明確で、国民・事業者に大きな混乱を招く
(3)新たな区分経理の事務が発生するだけでなく、インボイス導入は、企業に極めて重い事務負担を強いる
4.円滑な価格転嫁の実現
・8%への引き上げは6割が全て転嫁できた一方で、BtoC取引や売上が小さい事業者ほど転嫁が難しいとの結果が出ている。
・政府は引き続き、徹底的な広報や価格転嫁対策特別措置法に基づく実効性の高い転嫁対策を実施すべきである。
・価格転嫁に効果の高い外税表示選択の恒久化をすべきである。
5.二重課税の見直し・消費税と、印紙税、揮発油税、自動車取得税、酒税などとの二重課税の解消を図るべきである
6.国境を超えた役務の提供などについては、国内取引と同様に消費税を課税すべきである
Ⅲ 円滑な事業承継に向けた抜本的な見直し
(基本的考え方)
・わが国の経済成長の実現のためには、雇用を支え地域経済の中核となっている中小企業が事業を継続し、保有する経営資源を次代に円滑につなぎ、大きく成長していくことが必要不可欠である。
・経営者の経営努力で企業を成長させればさせるほど、非上場株式の評価が高くなり、中小企業の事業承継を困難にしている。
・中小企業の実態やニーズを踏まえ、事業承継税制の抜本的な見直しが必要である。
・中長期的には、事業者が事業用資産を損なうことなく十分な形で次世代に事業を承継できるよう、事業用資産の承継に係る非課税措置の実現が必要である。
1.事業承継税制の抜本的な見直し
・相続時に実質的に売却困難である2/3を超える非上場株式の相続税負担は円滑な事業承継を阻害するため、猶予株式2/3要件を100%へ拡充すべきである。
・猶予株式2/3制限かつ80%の納税猶予では、結果として猶予効果が約半分にとどまることとなり、効果が薄く利用が進まないことから、猶予割合を100%へ引き上げるべき。
・人材が限られる中小企業では兄弟などで経営している場合も少なくないことから、兄弟など複数人での承継を納税猶予の対象に加えることを認めるべきである。
2.分散した株式の集中化を阻害する税制措置の見直し
・分散した株式の集中化を図る場合、株式評価額が高いため、後継者の買い戻しが極めて困難。会社へ譲渡した株主にかかるみなし配当課税の見直しなど、分散した株式の集中化を阻害する税制措置を見直すべき。
3.取引相場のない株式の評価方法の見直し
・取引相場のない株式は、経営努力により企業価値を向上させるほど評価額が高くなり、相続税負担が重くなるという弊害が生じている。後継者が価値ある企業の経営資源を円滑に承継し、雇用や投資を通じて企業の成長を図る観点から、配当還元方式やDCFなどのさまざまな評価方式を検討し、事業の継続を前提とした取引相場のない株式の評価方法を抜本的に見直すべきである。
4.事業承継税制の活用に向けた改善
(1)贈与税猶予制度の見直し
・先代経営者から事業を引き継いだ2代目後継者が高齢化した場合に、3代目への譲渡を実現し、次世代に円滑に事業を継承していく観点から、贈与税の納税猶予の3代目への引き継ぎを可能とすべきである。
5.担保提供している個人の事業用資産の評価方法の見直し
6.相続時精算課税制度の見直し
7.個人事業主の事業用建物などにかかる相続税を軽減する特例の創設
Ⅳ 中小・中堅企業の活力強化に資する税制
1.企業の成長を後押しする税制の拡充・本則化
(1)商業・サービス業活性化税制の拡充・本則化
(2)中小企業などの貸倒引当金の特例の延長
2.新規創業促進ならびにベンチャーを後押しする税制
(1)創業後5年間の法人税・社会保険料の減免措置
(2)創業者の親族などから贈与された創業資金に係る贈与税非課税枠(1000万円)の創設
(3)エンジェル税制の利用促進に向けた運用改善・適用要件の拡充
3.研究開発投資促進税制の拡充・本則化
4.企業の前向きな投資を阻害する償却資産に係る固定資産税、事業所税の廃止
5.中小企業の国際化を支援する税制措置の拡充
6.人材投資を促進する税制措置
7.企業の活力強化を促す税制
(1)会社法の見直しにおける監査役設置会社の登記に関する登録免許税の非課税措置を
(2)地球温暖化対策税の見直し
・エネルギーコスト高騰による国民・事業者の負担軽減に向け、地球温暖化対策税のさらなる税率の引き上げ、森林吸収源対策への使途拡大には反対、むしろ税率を引き下げるべきである
8.事業再生・再編を支援する税制措置の拡充
9.中小企業や地域を牽引する中核企業の成長を後押しする税制措置
(1)中小企業基本法を念頭に税法の基準の拡大(資本金1億円以下↓3億円以下)
(2)中堅企業(資本金3億円超10億円以下)の成長を喚起する税制措置
(3)欠損金繰戻還付制度の適用対象の拡大
(4)資本金1億円超の同族会社に対する留保金課税の廃止
Ⅴ 内需拡大・地域活性化に資する税制措置(略)
Ⅵ 納税環境整備の充実(略)
経済活動・国民生活に資する税制(略)
基本的な考え方―4つの課題
成長戦略の担い手である企業の競争力強化による持続的な経済成長の実現
・わが国経済は回復の道筋をたどりつつあるが、電力・ガス料金、仕入れなどのコスト増や、人手不足による人件費上昇などの厳しい経営環境に直面しており、中小企業における景況感の回復は力強さを欠いている。
・成長の主役は企業。企業の競争力強化を実現するため、法人税改革などの成長戦略の着実な実行が不可欠である。
わが国経済における中小・中堅企業の役割、重要性とその活力の強化
・海外と競争する成長志向型企業や高い雇用吸収力を持つ地域の中核企業、地域の暮らしやコミュニティを支える小規模企業など、多様な中小企業の活力がわが国経済の基盤であり、日本経済の成長につながる。
・中小企業は、中小企業基本法の基本理念である日本経済の活力維持・強化に重要な使命・役割を果たしている。
・中小企業は、雇用や投資活動を通じて、地域経済や国民生活と財政に大きく貢献している。
地域経済の活性化とにぎわいあるまちづくりの推進
・地域経済の再生なくして持続的な日本経済の成長は望めない。
・女性や高齢者が活躍できる働き方の改革、地域資源の利活用やコンパクトなまちづくりなど、新たな成長・発展モデルの構築が必要である。
持続可能な社会保障制度の確立ならびに「人口急減・超高齢社会」の克服
・持続可能な社会保障制度確立のため、社会保障の重点化・効率化を徹底するとともに、行財政改革の断行など、歳出面での改革推進が必要不可欠である。
・今後の「人口急減・超高齢社会」を克服するため、抜本的な少子化対策に着手する時期にある。
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