事例4 歴代の教えと「服部フィロソフィ」で社員の幸せを追求し、地域貢献を実践
服部興業(岡山県岡山市)
1818年創業の服部興業は、建材、石油、木材、不動産と幅広いフィールドで活躍する商社だ。三代目服部平九郎がまとめた家法を基に、堅実、実直な経営で創業200年の歴史を歩んできた。だが、歴史あればこそ舵(かじ)取りは容易ではない。現社長の就任もまた、リーマン・ショックという嵐を乗り越え、人材活用を模索した。
100年以上前の家法が経営の礎として今に生きる
岡山駅から車で約20分の距離に服部興業の本社がある。硝子(ガラス)部やサッシ部、外壁部やセメント部など8部門を有し、関連会社を3社持つ。建材、石油、木材、不動産を中心に多角的に経営を展開しているが、1818年に材木商を営んだことから歴史が始まる。当時の拠点は日本のエーゲ海と称される瀬戸内市牛窓町で、港町として栄えていたことから木造船の資材供給をしていたという。
「初代の服部平兵衛信高は、身近な人を助けたいという思いから事業を始めたと聞いています。そして、明治になって三代目の平九郎が1903年に家法を制定し、それが今日まで大切に受け継がれてきました」
そう言って、八代目で代表取締役社長の服部俊也さんは壁に掛かる家法を見上げた。100年以上前に定められた家法は、経営方針の礎となっており、その中には人材育成に関しても明記されている。
「誠忠功の者優待すべし。友愛信義という精神論から、雇人等級は一等より九等。雇人昇級は四月七日に定むべしなど、雇用形態まで具体的に記されていて、驚きました。今の時代にも、いえ今の時代だからこそ必要な教えもたくさん書かれていて、時折読み返して気付かされることも多々あります」と服部さんは語る。
また、経営信条として七代目の服部弘平さんが掲げた「三つの満足」を経営指針としており、顧客、社員、そして会社の満足の三つを満たすことが会社の発展をもたらすという姿勢を貫く。歴史ある企業だからこそ歴代の名言、格言は数多いが、社長業は七代目から学んだことが大きいという。出社して毎朝1時間対話し続け、社長としてのあるべき姿勢をたたき込まれた。
「私は婿養子で、家業を継ぐという話も、突然舞い込んだ想定外の出来事だったんです」
服部さんの就任時はリーマン・ショックと時期が重なり、いきなり経営手腕が試されたと当時を振り返って苦笑する。
低迷する事業を立て直し社員との信頼関係を深める
2004年4月に土地勘のない岡山での生活が始まる。3年後に社長に就任すると、業績の振るわないセルフうどんのチェーン店の閉店やガソリンスタンド数の削減に踏み切る。この決断は社員の反感を買うかに見えたが、ほとんどの社員は穏やかに受け入れた。
「歴史を振り返れば、ターニングポイントはいくつもあります。1924年に牛窓から岡山へ拠点を移し、造船から建設資材へと商材をシフトしたこと、31年にセメント販売を始め、60年には板ガラスの販売にも着手しています。ですが、私が就任してまず取り掛かったのは事業の立て直しです。それでも社員は、会社が変わることを期待してついてきてくれました。ガソリンスタンドは9店舗を4店舗に縮小しましたが、交通量の多い場所への移転、セルフスタンドやコンビニを併設したことで、客数、販売数量の増加に成功しました」と語る。服部さんの入社から社長就任を経た現在までの働きぶりや人柄、結果を出す経営手腕が社員の信頼を育んでいったといえそうだ。
事業の立て直しという難題を切り抜け、業績は緩やかに伸びて服部さんの社長就任当初は約47億円だった売り上げを、12年で約64億円へと伸ばしている。
顧客、社員、会社そして社会の満足に応える
「経営者として思い悩んだ時、京セラの創業者、稲盛和夫さんの講演や著書に何度も救われてきました。稲盛さんがまとめた京セラフィロソフィになぞらえて、創業200周年の節目に服部フィロソフィを作成し、今はこれを人材育成に活用しています」
全社員の幸福を実現すること。それは社員の家族も含まれており、社員の誕生日や子どもの入学祝いにプレゼントを贈り、家族の会社見学はいつでも可能にしている。
「会社見学に来られる家族に、ご主人を主役にした動画を作成してご覧いただいているのですが、とても好評です」と笑う。
また、社員や社会保険労務士と一緒に社員評価シートを作成し、賃金の明確化、資格取得による給与アップなど、社員を正当に評価するシステムを確立。月1回グループ全体で勉強会を開き、各部門から1人ずつ成功事例を発表する場を設けた。部門を越えて互いを知り、学び、協力し合える関係性が生まれ、取引先の紹介や他部門の商材も複合営業できるなど、風通しの良い社内体制を整えている。
さらに5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)やCSR(企業の社会的責任)に全社挙げて取り組んでおり、SDGs(持続可能な開発目標)にも積極的だ。
「他社がまねできない表からは見えにくい理念や文化、立ち振る舞いなどの部分に磨きをかけ、先に述べた三つの満足という経営信条に社会の満足を加えて地域を盛り上げていきたいですね。誇れる企業風土・文化を形成して、各部門で岡山一の売り上げ、販売数量を目指します。実践あるのみです」と向かう先を見据えて、服部さんは言い切った。
会社データ
社名:服部興業株式会社(はっとりこうぎょう)
所在地:岡山県岡山市北区平野620
電話:086-293-2111
代表者:服部俊也 代表取締役社長
創業:文政元(1818)年
従業員:139人(グループ計)
HP:http://www.hattori-k.co.jp/
※月刊石垣2019年5月号に掲載された記事です。
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