全国でJA(農業協同組合)の商工会議所への入会が相次いでいる。その数約250。全国515商工会議所の約半数で会員になっている計算だ。同時に地域経済の活性化および農林水産業の成長産業化・生産性向上に向けた連携事業も活発化している。特集では、このほど日本商工会議所が取りまとめた農林水産業分野における商工会議所の経営支援事例を下表のパターンに分類し8件紹介する。
地元名産の枝豆の加工原料を活用した商品開発・販路開拓を支援
大館(秋田県)
パターンA‐Ⅱ
POINT
▼県や市、JAと連携し、地域を挙げて特産の枝豆を商品化、PR
▼市内菓子店の若手経営者が集まり、互いに刺激することで、新たな商品開発が促進
大館市では、秋田県が生産拡大重点品目に位置付ける「えだまめ」の産地拡大を目指し、JA・秋田県・大館市・大館商工会議所による「大館市えだまめ産地育成研究会」を創設。大館産えだまめを活用した六次産業化に向けた各種プロジェクトを展開している。
同所では、こうした動きに連動し、平成27年1月に、同所の会員である市内7店舗の菓子店の若手後継者による「倶楽部スイーツ」を設立した。メンバー同士で、菓子づくりに関する知識や技術を情報交換し、新たなえだまめスイーツの商品開発などに取り組んでいる。また、農商工連携の先進地を視察し、農商工連携や六次産業化支援のノウハウなどを学んだ。 「大館市えだまめ産地育成研究会」が主催して開催した「大館えだまめスイーツコンテスト」の受賞商品を「倶楽部スイーツ」メンバーがアレンジを加えて地域のイベントなどで販売したところ次々と完売。さらなるPR・販路拡大に向け、地元高校生考案のスイーツを商品化してイベントで販売したり、大館市のご当地アイドルとともに、えだまめスイーツを県内外のイベントなどでPRしたりと、さまざまな活動を展開している。
事業承継を契機とした、農商工連携による新たな事業展開を支援
鹿沼(栃木県)
パターンA‐Ⅱ
POINT
▼商工会議所の支援や青年部での活動が、農商工連携の取り組みの後押しに
▼国の認定を取得し先代経営者を説得、事業承継を機に新事業を拡大
鹿沼市の「有限会社黒田養蜂園」は、大正9(1920)年創業の老舗企業。鹿沼商工会議所青年部(鹿沼YEG)のメンバーである同社の後継者が、同所の支援を受け、トマトなどの農作物を栽培する農業者と連携。旬なタイミングで収穫された農作物と、それに最適なはちみつを選定・配合した加工食品の開発に成功した。
本事業内容が、国の「農商工等連携事業計画」の認定を取得し、「お墨付き」を得たことにより、事業拡大を心配していた先代経営者を説得。その後、はちみつの加工食品を用いたカフェやはちみつスイーツ専門店など3店舗を出店するなど、新たな事業を展開させている。
鹿沼YEGでは、地域のブランド梨である「にっこり梨」の規格外品などを使ったゼリーなどの特産品開発に取り組み、平成24年度「地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト」に採択された。現在は、鹿沼YEG事業として、メンバー企業である製造業者に委託し、製造・販売を行っている。
「黒田養蜂園」の取り組みは、商工会議所青年部の活動が、メンバー企業自らにおける農商工連携、事業承継を契機とした新事業展開につながった代表的な例と言える。
農業に参入し、ブドウ生産からワイン製造・レストラン経営まで手掛ける事業者を支援
秩父(埼玉県)
パターンC‐Ⅰ
POINT
▼農業参入、新事業展開におけるさまざまな課題解決を商工会議所が伴走支援
▼自治体や金融機関、農林関係団体など課題に応じた機関と商工会議所が連携
酒屋を経営し、委託生産の形でワインを製造販売する事業者が、「秩父産のブドウのみを使い、世界に通用するワインをつくりたい」との思いから、新たに農業に参入。ブドウの生産、ワイン製造、農家レストランの経営まで一貫して手掛ける新会社「株式会社秩父ファーマーズファクトリー」を設立した。 新会社の設立に当たっては、事業実施の根幹となる事業計画や、資金繰り計画の作成、事業資金の確保、農地(休耕地)の確保、営農知識・技術の習得、マーケティングなど、さまざまな課題があったが、秩父商工会議所が、課題に応じた機関と連携し、解決策を提示・実行していくことで、一つずつクリアしていった。
金融機関からは、担保・保証人に依存しない資金を調達することができたほか、クラウドファンディングも活用。また、ワイナリー建設費の一部に総務省の助成金を活用するなどし、平成27年3月にワイナリーが完成した。ブドウ栽培農園やワイン醸造工場の見学、ワイナリーで作られたワインの購入、レストランでの飲食まで一貫して楽しめる体験型施設がオープンした。
同社のワイナリーは、オープン以来約3万人が来場し、人気を博している。また、地域資源を活用した地域活性化の取り組みとしても、注目を集めている。
メロン栽培装置を開発し、地域ブランド向上に取り組む
町田(東京都)
パターンC‐Ⅱ
POINT
▼地元企業や大学の技術を結集し、画期的な水耕栽培法を開発
▼農工・産学連携に加え管内事業者の協力を得て、新たな地域ブランドに昇華
町田商工会議所は、地域の企業が持つ高い技術を農業分野に応用し、高付加価値商品を作ることで、新たな地域ブランドの構築を目指すプロジェクトチームを、工業部会所属企業を中心に平成21年に組織した。
メンバーにメロン栽培経験者が一人もいないという悪条件ながら、地域の機械メーカーや大学の技術・ノウハウを結集し、22年には従来難しいとされていたメロンの水耕栽培法「町田式新農法」を開発した。
町田式新農法で栽培されたメロンは低農薬でも病気に強く、年間を通じ5毛作での栽培が可能となった。さらに、従来の農法では実現できなかった糖度14度以上のメロンの実現や通常1株から1~4個ほどの収穫量を60個近くに増やすなど、高品質メロンの大量収穫が可能になった。 同所は、町田式新農法で収穫されたメロンを「まちだシルクメロン」として商標登録し、27年には販売を開始した。
また、まちだシルクメロンを使用したスイーツのレシピを市内事業者から募集し、「プレミアムスイーツ」として認定。新たな地域ブランドの構築につなげている。
農業者とのマッチングで中小企業が新産業分野へ参入
浜松(静岡県)
パターンA‐Ⅰ・Ⅱ
POINT
▼農業現場の課題解決に向け、地域のものづくり企業とのマッチングの場を提供
▼売り場責任者を交じえ「売れる商品」を議論し、六次産業化ブランドを開発
浜松商工会議所は、平成17年に「浜松農商工連携研究会」を設立。農業の生産性向上に向けて、地域のものづくり企業と農業者とのマッチングの場を提供し、具体的な農機具などの開発につなげるなどの農商工連携を推進している。同所職員がJAや農業生産法人などの農業現場を訪問し、生産性向上のための機械化ニーズを聞き取り調査。そのニーズを解決できそうな商工業者(会員)を集めた検討会を農業現場で実施し、商工業者から農業者に解決策となる技術を提示してもらい、製品事業化が可能であるかを判断している。
例えば、食品加工機メーカーが、園芸農家が持つ課題に対応して自動土入れ機を開発したことで、園芸農家の鉢植えの土入れ作業が大幅に効率化されたほか、中小企業が持つ高度な加工・開発技術を生かしたことで、新たな産業分野への参入にもつながったという成果をあげている。
また、地元の遠州鉄道グループなどとタイアップして「浜松産の食材でヒット商品を作ろう!プロジェクト委員会」を設立、六次産業化に取り組んでいる。 JAや漁協、小売店、百貨店が参画し、売り場責任者が「売れる商品」のアイデアを議論し開発した商品を「浜松プレミアム」としてブランド化している。
長門市版〝総合商社〟設立から農商工福連携まで側面支援
長門(山口県)
パターンC‐Ⅰ
POINT
▼市の成長戦略のもと、地域商社や加工開発拠点施設を設立
▼販路開拓の伴走支援や「農商工福連携」の実現に向けた調査研究を実施
長門市は、地域の農林水産物やそれらを活用した商品を大都市圏に売り込む「『ながとブランド』産品の全国展開」を成長戦略の一つに掲げている。
平成26年5月には、販路開拓支援や地元産直施設の運営、高付加価値商品の開発などを担う地域商社「ながと物産合同会社」を、市内の3生産者団体との共同出資により設立。28年度には加工開発拠点施設「ながとLab」を新設し、29年度には道の駅の新設を予定するなど、地域を挙げた農商工連携・六次産業化を展開している。
長門商工会議所は、「ながとブランド」産品をはじめとした販路開拓に向けた事業計画の策定・実行を支援しているほか、商工業者と農林漁業者とのマッチング事業を実施している。
また、創業支援のノウハウを生かし、創業計画の策定・実行や創業補助金の申請支援などを通じて、地域の農林水産物の生産、加工、流通・販売を行う会社の設立を伴走支援している。
さらに、28年度には「地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト」の採択を受け、農業、商工業に福祉を加えた「農商工福連携」による地域経済活動の活性化に向けた調査研究を実施している。
農商工連携で「久留米産バニラビーンズ」を地域に展開
久留米(福岡県)
パターンA‐Ⅱ
POINT
▼商工会議所のネットワークを生かし、意欲ある商工業者と農業者をマッチング
▼他機関と連携し、課題解決や販路開拓まで地域全体の活性化にも伴走支援
久留米商工会議所は、平成21年、市場が縮小傾向にあった観葉植物のリース・レンタル事業者から相談を受け、既存事業の強みを生かした新事業転換を検討するようアドバイス。事業者は、自社が特に強みを持つ分野であるラン科植物の栽培ノウハウをうまく生かせる新事業として、洋菓子などの原材料に使われる「国産初のバニラビーンズ」の生産、加工・販売に取り組むことを決意した。
同所は、事業者の思いを実現するため、経営革新計画の策定・承認を支援するとともに、バニラビーンズの栽培を担う生産者の発掘にも尽力。同所がこれまでに経営革新を支援した農園事業者に声をかけたところ、イチゴ栽培の裏作による収益増を目指す農園が関心を示し、バニラビーンズの栽培に参入、量産化に取り組んだ。
さらに同所は、両者の連携を推進するため、農商工等連携事業計画の策定・認定や農商工連携における法的課題の解決、加工技術の特許出願などについても、専門機関などと連携し支援した。
また地域全体の活性化に向け、「バニラのまち久留米・バニラの福岡県南部地域」を目指し、近隣地域の事業者によるバニラビーンズ商品の開発を支援。こうした動きが広まり、PRや販路開拓、栽培農家の増加の面などで行政やJAとの連携・協力を得ており、また、多くのメディアで取り上げられている。
接点が少なかった農林畜産業者への伴走型支援で六次産業化を実現
都城(宮崎県)
パターンB
POINT
▼補助金の申請を機に、畜産業者の直売所開店まで伴走型で一貫支援
▼事業計画の作成経験が少ない畜産業者の六次産業化を経営支援で後押し
都城商工会議所は、地域の農林畜産業者や市、JA、大学などで構成される「はばたけ都城六次産業化推進協議会」(平成25年7月設立)に参画している。同協議会は、六次産業化に向けて地域力を発揮することを目的に設立されたもので、26年度は14商品、27年度は8商品を発表している。
地域の畜産業者が同協議会を通じて「はばたけ都城六次産業化総合対策事業補助金」の情報を得て、同補助金を活用した新商品開発を考案。申請手続きのために市を訪問したところ、市は必要書類の作成などに係る相談先として同所を紹介。同所では畜産業者に対し、申請書類の作成のほか、事業計画の策定や実施について支援を行った。
畜産業者は同補助金の採択を受けて新商品を開発し、自らの店舗で販売するために創業を計画。同所の創業塾に通塾しサポートを受けた結果、28年4月に豚肉生産直売所「福ちゃんポーク」を開店した。開店後には、同所に会員加入した。
同所は、これまで接点が少なかった畜産業者が六次産業化に取り組むことを契機に、事業計画などの経営支援や補助金活用、商品開発、創業までを一貫して支援し、加えて会員獲得に結び付けた。
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