今号は競争の厳しい業界で後発参入ながら存在価値を発揮している創業事例をご紹介します。
東京都渋谷区にGo's Officeという広告宣伝企画やWebデザインをする企業があります。創業は平成23年、社長の夜陣栄子さんは、もともとは同業他社に勤務し、企画営業担当として活躍していました。ところがある時、勤務先の経営者が高齢を理由にM&Aで会社を売却。投資ファンドから後任社長が派遣されたものの、経営方針がそれまでと全く異なっており、夜陣さんは独立を決意します。当時の広告業界はリーマンショックの影響が残っていた上に、東日本大震災が発生し、広告の自粛ムードが広がるなど完全な向かい風の中での船出でした。
取引先もゼロの状態でしたが、一つのポリシーがありました。それは目の前の一つひとつの仕事へ誠心誠意向き合って、先方の期待値を〝良い意味〟で裏切ること。同業者がやりたがらない、手間の掛かる仕事でも引き受け、面倒な手直し業務も深夜や休日でも厭わずにこなす。また、顧客の先の存在(顧客の顧客)を絶えず意識しました。つまり、広告メッセージを目にするエンドユーザーの視点に立って、コンテンツや表現を組み立てて提案したのでした。
このポリシーの実践は、やがて実を結びます。それは医療系のWebサイト構築にかかる案件でのこと。これらのサイトは一般消費者を対象にするため、「分かりやすさ」が求められます。しかし、専門用語がたくさん出てくるため分かりづらくなってしまうのが難点でした。
これらを分かりやすくするためには、専門用語を一般消費者が理解できるように平易な言葉に置き換えねばならないうえ、薬事法に抵触しないよう表現に細心の注意が求められます。このため、Web製作会社にとって手間の掛かる仕事といえます。
しかし、このときに「求められている以上のものを提案する」という夜陣さんのスタンスが奏功します。前職時代に同分野の仕事を手掛けたこともあり、そのときの経験と人的ネットワークも生きました。難解な医学用語を一般人が読んで分かるレベルへ落とし込む「翻訳力」の高さがフルに発揮されたのです。
結果として、学会レベルの専門知識を必要とするような案件でしたが、分かりやすい解説をベースにしたサイトが完成。消費者からも高く評価されました。現在は、デジタルサイネージ(電子看板)などIT技術を活用しつつ、高度化するクライアントのニーズに対し、多様な手法を組み合わせて最適な提案に注力しています。
手間の掛かる仕事を厭わずに、自社の強みをうまく発揮することで後発であっても事業の展望が開けていくことを示す好事例です。
最新号を紙面で読める!