1000年の歴史を誇る備前焼
赤レンガの煙突から煙が立ち昇る窯元で、1000年もの歴史と伝統を受け継ぐ備前焼。備前のまちには現在も400人余りの作家たちが窯を構え、作品を生み出している。まちの窯から煙が昇らない日は一日もないという。
「岡山県の東の玄関口にある備前市は、古くから交通の要所にある宿場町として栄えました」と語る備前商工会議所の長﨑信行会頭は、海沿いを散歩するのが気持ち良いと話す。瀬戸内海の新鮮な海の幸も豊富で、カキやアナゴ、しゃこなどを使った料理が楽しめる。
「備前市は、5人の人間国宝を輩出している、文化の香りが高いまちでもあります」と長﨑会頭。瀬戸、常滑、丹波、信楽、越前とともに日本を代表する六古窯の一つに数えられ、その中でも最も古い歴史を持つ備前焼は、5世紀ごろに須恵器をつくっていた職人たちが、平安時代から鎌倉時代初期にかけて、実用的で耐久性のある生活用器を生産したのが始まりと言われている。
備前焼のビアマグで飲めばビールの美味しさが倍増!?
備前焼の食器にはさまざまな特徴がある。内部の組織が緻密で保温力が非常に強いため、飲み物の温度を長時間保つことができるのだ。また、微細な凹凸により発泡能力が高められ、泡がきめ細かく、ビールの味わいがアップ。さらに微細な気孔と若干の通気性があり、水を長時間フレッシュな状態に保てるので花瓶に生けた植物は長持ちするという。
毎年10月には、多くの窯元がある備前焼の里・伊部で、まちの一大イベント「備前焼まつり」が開催される。昨年で31回目を迎え、2日間で約15万人が来訪。会場となる伊部駅周辺は歩行者天国となり、お店の軒先や特設テントに花瓶や大皿、ビアマグ、つぼなど約40万点もの備前焼の作品が並ぶ。さらに、ろくろの土ひねり体験や作家による実演、お楽しみ抽選会などさまざまなイベントが開催され、備前焼陶友会員の作品は通常の2割引で販売される。
昨年の備前焼まつりで、同所青年部は「備前焼カップ入り新触感アイスクリーム」を販売した。
「メンバーの間で特産品を開発しようという話になり、企画しました。作家に特注した特製の備前焼カップと、特産品の一つであるイチジクを使用したアイスクリームが珍しいと来場者に注目されました」(同所中小企業振興部課長の宮本武史さん)
秋の夜を彩る日本最古の学校建築物
備前の歴史を語る上で欠かせないのが、江戸時代に建てられた日本で最初の庶民教育のための学校・旧閑谷学校だ。建物が現存する学校建築物としては日本最古と言われている。
旧閑谷学校は、岡山藩主・池田光政により寛文10(1670)年に創建され、元禄14(1701)年に現在の姿が完成した。備前焼の赤い瓦で覆われた講堂は国宝に指定され、聖廟をはじめほとんどの建造物が国の重要文化財に指定されている。
また、100年近い樹齢を数え、日本一美しいと評される2本の楷の木は、11月上旬の紅葉シーズンに合わせ、LED照明を使用して講堂とともにライトアップ。毎年、多くの人が観賞に訪れている。
「ライトアップの期間中は、周辺道路は大渋滞になります。特に初日は、普段は5分で移動できるところが2時間くらいかかることもあります」(同所の内田敏喬専務理事)
会場では、備前市と近隣の和気町、上郡町(兵庫県)、赤穂市(同)、さらに旧閑谷学校顕彰保存会、岡山県備前県民局が分担し、地元名産品の販売や軽食コーナーを出店。備前市の担当日は、同所の会員事業所が海産物や備前焼といった特産品や、うどんなどの軽食を販売している。
また、旧閑谷学校では毎月1回、日曜日の朝に市民を対象とした「日曜論語」を開催している。
「通常は入ることができない国宝の講堂で、参加者が論語の一章を朗読しています」(同所総務企画部主任の西中友基さん)
国宝で楽しむ論語のかるた
この講堂を会場に、同所が平成24年1月に初めて開催したのが「全日本論語かるた選手権大会」だ。小学生低学年の部・小学生高学年の部・中学生の部・一般の部(高校生以上)の各部門で実施した。
大会では、旧閑谷学校で行われていた儒学教育にちなみ、同所が作製した「論語かるた」を使用。かるたは「巧言令色鮮し仁」や「徳を以て徳に報ゆ」などの50句を選定し、絵札は倉敷芸術科学大学日本画コースの学生が花鳥風月をモチーフにデザイン。6人の学生が句からイメージを膨らませ、岩絵の具や金箔、胡粉などで絵を描いた。
「論語のテーマをかるたの読み手に連想してもらうために、絵札として具象化するのは難しかったと思います」と長﨑会頭。さらに同所は、旧閑谷学校の世界遺産登録を目指し、論語の普及に力を入れている。
「備前片上駅の正面広場にある看板など、多くの人の目に触れる所に論語を表示し、『論語のまち』をPRしていきます」(長﨑会頭)
スウィーツとカレーで旬の食材を満喫
食でまちに人を呼び込もうという取り組みも盛んだ。備前市内の8店が参加する「備前甘味の会」は、地元の食材を使用し、創意工夫を凝らしたオリジナルスウィーツを備前焼の器で提供している。加盟店の中には備前焼の窯元やギャラリーを構えている店舗もあり、スウィーツだけでなく備前焼を鑑賞したり、購入したりすることができる。その一つ、備前焼ギャラリーの山麓窯が提供する「季節のスウィーツセット」は、旬の果物をふんだんに使った絶品だ。
また、山麓窯の小松知子さんが中心となり、「華麗備前会」を設立。地元で育てられた野菜や備前牛、備前米などを使用した「備前カレー」を、加入する8店で楽しむことができる。
「備前ならではの味を家族や友達と気軽に食べてほしいですね」と話す小松さんは、今年、備前カレーの誕生5周年を記念した「春の謎解きツアー」を企画した。 「加盟店で備前カレーを食べてクイズに答えるとスタンプがもらえ、5店のスタンプを集めると備前焼ビアマグがもれなくプレゼントされます」
地元の桃を使い極上のお土産を開発
果物の宝庫でもある備前。数年前から同所女性会が桃を使ったお土産物の開発に取り組み、商品化したのが「白壽備前」だ。
上質な岡山県産の白ささげ豆を使った羊かんと、白桃とレモンをふんだんに使ったコンフィチュール(フランス語でジャムの意味)、備前焼の容器の3つがセットになった白壽備前は、市内で収穫される桃を使って何かできないかというメンバーの声がきっかけで開発をスタート。試行錯誤を繰り返し、甘さ控えめの羊かんにコンフィチュールをかけて食べるスタイルを考案した。
備前らしさを出すための工夫も加えた。コンフィチュールを入れる備前焼の容器をセットにすることにしたのだ。
「容器にもこだわり、食べ終わった後も、さまざまな用途でお使いいただけます」(同所の西角友彰理事)
たくさんある優良企業を知ってもらう
歴史や地産品だけでなく、地場産業を多くの人に知ってもらおうと実施しているのが産業観光ツアーだ。主催する同所の「楷の木倶楽部」は、市内の出先企業が中心となって設立した。
春休み中の3月27日に開催したツアーは、岡山県在住の小学生とその保護者を対象に、市内にたくさんある「ものづくり優良企業」の現場を訪れ、最新の技術やそこで働く人の姿を見るだけでなく、ものづくりの楽しさ、働くことの大切さを学んでもらおうと企画。備前市の基幹産業である耐火煉瓦を製造している品川リフラクトリーズ岡山工場、「愛情一本!!」でおなじみのチオビタ・ドリンクを製造している大鵬薬品工業岡山工場、ヤシ殻が原料となる活性炭を製造しているクラレケミカル鶴海工場、備前焼の窯元・一陽窯を訪問した。
ツアーの訪問先の一つで、1日に100万本のチオビタ・ドリンクを製造している大鵬薬品工業岡山工場は、高品質な製品づくりだけでなく、自然環境への配慮にも力を入れている。
「工場排水として発生する洗浄水と冷却水は最高40度にもなり、そのまま排水すると、きれいすぎて生態系に大きな影響を与えてしまいます。そこで、工場から出る1日約100tの水をビオトープに放流し、自然環境に近い池や水路を経由し、プランクトンに富んだ水に変えて海域に放出しています」と紹介するのは、工場総務部岡山総務課長の阿部信行さん。阿部さんが中心となって設計・建設した総面積2300㎡のビオトープには、メダカ・金魚・鯉といった淡水魚が泳いでいる。
「工場は吉井川の伏流水(地下水)を使用しています。豊かな自然だけでなく、きれいな水があることも備前の魅力の一つです」と話す阿部さんは、備前商工会議所産業振興委員会の委員長を務め、地元産業の活性化にも尽力している。
皆で協力してにぎわいのあるまちへ
「備前には高い技術を誇る全国有数の企業があります。楷の木倶楽部を立ち上げたのを機に、そうした企業の持つノウハウを地域に還元してもらう機会を設けてきました」と長﨑会頭。徳島に研究所のある大鵬薬品工業とのつながりがきっかけで阿波おどりを教えてもらい、「備前阿波おどり」としてイベントなどで有志が披露する機会も多いという。
地元の優れた企業の存在や郷土の魅力を子どもたちに知ってもらおうと、同所は職員が講師を務める出前授業を小学校で実施。さらに青年部は、フルーツパークびぜんや旧閑谷学校などで婚活パーティーを開催するなど、地域資源をPRするだけでなく、若者が集まることで生まれる活気づくりに力を入れている。こうした活動を通じて目指すのは、地域の人たちが助け合い、皆で取り組んでいく、にぎわいのあるまちだ。
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