商店街の店の店主や店員が講師となって、その知識や経験を地域の消費者に向けて無料講座として披露する「得する街のゼミナール」、通称「まちゼミ」が全国へ急速に広がっている。岡崎まちゼミの会の代表であり、まちゼミの普及・育成に努める松井洋一郎さんによると、計画中も含めると現在その数は170を超えるという。
「顧客」「店」「地域」の〝三方よし〟を実現する活性化事業として愛知県岡崎市で誕生したのが平成15年1月。今や全国各地に根付いたまちゼミの現場を取材した。
小さなまちでも大きなまちでも
新潟県上越市吉川区は人口4300人あまり。全国の地方同様、ここでも人口減少と高齢化は激しく、昼間は近隣の大きなまちへ働きに出るため、まちなかを歩く人の姿はまばらだ。
そんな小さなまちでまちゼミが始められたのが平成25年11月。わずか11店舗12講座ながら、82人の受講者を集めた。その成果を、衣料品「しんち屋」の荻谷孝行さんはこう語る。
「これまでお客さまが(地区外へ)流出することはあっても、その逆はありませんでした。それが、まちゼミには多くのお客さまがお越しくださり、その後リピートしてくださった。また、講座を通じてもう一度勉強し直し、それをお客さまに伝える場を得たことで、自店の役割について見直すことができました」 この11月には2回目が開催され、まちゼミの効果をさらに感じられたという。
こうした効果は、大きなまちでも変わらない。人口30万人、福岡県第3の都市、久留米市でも、昨年11月にまちゼミが始まった。その特徴は、新規事業者の積極的な参加にある。
「消費者の方に気軽に店に来ていただけるきっかけになりますし、セールスしなくてもいいというところも、無理なく自分の店を知ってもらえると思いました」と話すのは、アロマトリートメントサロン「あいのわ」を営む寺崎都さん。
寺崎さんは久留米商工会議所の創業者支援プログラムを利用して開業した。従来はブログなどを通じて情報発信していたが、それでは集客に限界がある。地域全体にあまねく広報できるまちゼミにより、これまでになかった年代の顧客を獲得することができるようになったという。新規事業者にとっても、まちゼミは効果の高い事業といえる。
三方よしから四方よしへ
まちゼミの導入・継続に当たって忘れてはならないのが、商工会議所など地域事業者を支援する存在だ。長野県松本市でまちゼミが始められたのは25年2月。53店舗が計61講座を開き、なんと1000人以上の受講者を集めた。
「一つひとつの商店の方たちは本当によく考えていますし、商売のレベルも高い。でも、それをどうやって発信すれば良いのか、そこが悩みでした。その答えをまちゼミで見つけました」と話すのは、松本商工会議所の経営指導員・羽田野賢二さん。商業者のみならず、自身をはじめ支援者への効用も実感したという。
「まちゼミを通じて、店主の方々と向き合い、膝を突き合わせて話をしました。何度も何度も通ううちにすっかり顔なじみになり、普段、通りがかったときも、『今日はどうです?』と気軽に声を掛けたり、ちょっとした情報交換ができたり、店主の方との距離がものすごく近くなりました」(羽田野さん)
店よし、お客よし、地域よしの〝三方よし〟に加え、支援者よしを加えて〝四方よし〟を実感できるまちゼミが広がる理由の一つがここにある。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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