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まちの視点 小さくとも偉大な会社

20種類以上あるオリジナルブレンドティーのそれぞれにストーリーがある

企業の目的は利潤や拡大ではなく、人を幸せにすることだという経営哲学が世界で広がっている。

米国では、ビジネスジャーナリスト、ボー・バーリンガムの著作『スモール・ジャイアンツ』が反響を呼んでいる。同氏は、大きくなることではなく偉大になることを追求するビジネス論を提唱、「人の全てを大事にする」という考えを実践する小・中規模企業のための異業種連携団体が、全米のみならず南米諸国や欧州諸国にまで広がりを見せている。

日本においては、経営学者であり法政大学大学院の坂本光司教授が提唱・推進する「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」選考が4回を数えている。同賞では、従業員とその家族、社外従業員(外注先・仕入先)とその家族、顧客、地域住民、そして株主の優先順位を守った正しい経営を実践する会社を表彰。また経済産業省でも、①社員の意欲と能力を最大限に引き出し、②地域・社会との関わりを大切にしながら、③顧客に対して高付加価値・差別化サービスを提供する経営、を「おもてなし経営」と称し、目指すべきビジネスモデルとして推奨している。

これらに共通する「人を幸せにする経営」とは何か。この春、「第2回おもてなし経営企業選」の一つに選ばれた小さな店を取材した。

5000個から選んだ商材

栃木県宇都宮市のオリオン通りは、東武宇都宮駅に近い中心商店街。多くの中心商店街と同様に郊外の大型ショッピングセンターに客足を奪われ、かつてのにぎわいはない。そこにあるのがワイズティーネットワーク(根本泰昌社長)の紅茶専門店「Y‘s tea(ワイズティー)」である。

大学卒業後、東京の大手製薬会社に勤務していた根本さんはある日、地下鉄の駅で通勤途中の人たちを見て、薬や健康食品では癒すことができない人が多くいると感じた。また、地元の宇都宮へ帰るたびにオリオン通りがかつてのにぎわいを失っていく姿を見て、「なんとかしなければ」と思っていた。郷土愛、癒やし、人とのコミュニケーション……。「この3つの社会問題を同時に解決できるものを見つけたい」と起業を決意した。

では、何で起業するのか。根本さんは大きな紙に5000に及ぶキーワードを書き出し、「持続可能」「人々が笑顔になる」「地元がカッコよくなる」「老若男女誰もが楽しめる」「副作用がない」「癒される」など20の条件で精査。それらを全て満たし、唯一残ったのが「紅茶」だった。

「とんでもなく難しいものを選んでしまった……」と根本さんは思ったという。平成19年創業当時、宇都宮市の紅茶の消費量は全国第43位。どの不動産業者を訪れても、「紅茶ですか……」と言われた。紅茶専門店というだけで、すぐにつぶれるのではないかと思われていたのだ。しかし、根本さんは初志を貫き、オリオン通りの2階に紅茶専門店を創業した。

小学校に日本初の紅茶部誕生

同社の業務はティールーム運営と紅茶販売の他に、紅茶教室、講演活動、ティーセラピー、オリジナルブレンド紅茶のプロデュースと多岐にわたる。その取り組みは地元から広がりを見せ、いまや宇都宮市は全国有数の紅茶消費量を誇るまでになった。

地元の小学校には日本初の紅茶部が誕生。目的はマナー講座ではなく、栃木を愛する郷土愛と、紅茶を淹れてあげるというおもてなしの心を学ぶためだ。「子どもたちが紅茶をいれるという光景が当たり前になったことがうれしい」と根本さんは目を細める。

また、根本さんは全国各地の自治体や団体から依頼を受け、オリジナルブレンドの「ご当地紅茶」もプロデュースしている。例えば北海道砂川市では、市の木であるナナカマドの赤色をイメージしたローズレッドなどを茶葉に加え、ラズベリーがほんのり香るご当地紅茶を作った。

「一杯の紅茶を通じて、地域・福祉・医療・スポーツ・教育・食育など幅広いジャンルの人・モノ・コトを元気にしていきたい」と根本さん。今は商店街にある小さな一店だが、全国各地に多くのファンを育んでいる。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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