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まちの視点 考える商人を育てる

各店自慢の逸品を紹介する「逸品お店回りツアー」は毎回好評だ

「特にうちは電器店ですので、立ち位置を完全に見失っていました。量販店に行けば商品は何でもそろっている。私たちの店、もう要らないのではないの? 本当にそう思っていました」。こう振り返るのは、青森市新町商店街で電器店を営む伊香佳子さん。店がお客に自信を持ってお勧めできる商品、すなわち「逸品」を扱うことで店の活性化を図る「一店逸品運動」に、同商店街が取り組み始めたのは11年前のことだった。

お客にとって必要な店に

同商店街は、これまでさまざまな商店街活性化事業に取り組み、ハード面での対策は進んでいた。しかし、そこにあるそれぞれの店に買いたい商品があり、行きたいところでなくては商店街活性化にはならない。店がお客にとって必要とされる存在となる─一店逸品運動とは、店主の思い込みや押しつけではなく、逸品を通じてお客に選ばれる店になっていくための活動である。

一店主として参加した伊香さんが考えに考え、絞り出した逸品が「圧力沸騰炊飯ジャー」だった。炊き上がりのご飯のおいしさが寿司店からも絶賛という評判の品で、価格はかなりの高額商品だったが他にはない特徴を持っていた。その価値を、自信を持ってお客さまにお薦めでき、予想を超えるヒット商品となった。

そうした商品は量販店にもあるし、ネット通販でも扱われている。しかし、逸品にはその店のこだわりや、何をお客に訴求したいのかがある。「逸品の後ろには店主の顔が見えるんです」と伊香さん。その思いが専門店としての価値として、お客に伝わるのだ。

それまでの同店は高額商品は外販が主体で、店頭で売れるのは電球など小物商品ばかり。店のあり方を見失っていた伊香さんだったが、この成功は専門店としての存在意義に希望が見える体験だった。外販主体で在庫置き場のような店が、これをきっかけにお客が買いやすく、訪れやすい店へと変わっていった。一つの逸品が売場を変え、店を変え、何より店主の意識を変えていった。

商いの原点への回帰

平成23年3月11日、東日本大震災が発生すると、伊香さんの店にも懐中電灯やラジオ、電池を求める人が殺到した。在庫はすぐに尽きたが、来店客は後を絶たない。「皆さん必死の思いで来店される。地域店として、それに応える方法は本当にないのか」と考えた。

そのとき、長年の逸品運動で身に付いたことが状況打開の突破口となった。それは「考える」ことだ。毎年新たな逸品を選ぶのは大変だったが、仕入れをはじめ、さまざまなことを考える訓練になっていた。

懐中電灯や石油ストーブの点火など肝心な場所で用いられる単1電池は、普段あまり使わないだけにいったん在庫がなくなるとなかなか再入荷できなかった。通常のルートが駄目なら、他のルートは本当にないのかと、伊香さんは電池を使っているものを考えた。

「壁掛け時計だ!」同店は創業80年を超える老舗。古い取引先の中には時計問屋があることを思い出し、連絡を取ると在庫があり、譲ってもらうことができた。 「(電池を)お渡しできたときのお客さまの喜びようは、想像以上でした。震災のショックに加え、たった2個の電池のためにあちこち歩き回り、断られ続け、心身疲れ果てていたのですよね」。この経験で伊香さんは、まちの電器店としての存在意義に自信を取り戻していった。

本当に役に立つ商品、本当に求められる商品を探し出し、顧客に提案する。それは商店のそもそもの役割だろう。専門店としての目利きを発揮できれば、顧客の店への信頼はさらに増す。一店逸品運動とは、商いの原点に立ち返る運動だ。そして、そうした店が増えることが本当の商店街活性化につながる。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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