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テーマ別企業事例 ココが違う 女性経営者の会社操縦術

事例2 社員のモチベーション維持が鍵ルールで縛らず自発性を尊重する

田嶋(兵庫県神戸市)

「女性だから困ったということはありませんが、本音で心地良くビジネスができる相手かどうか、慎重に見極めます」と伊藤紀美子社長

先代の他界後に、四代目として代表取締役に就任した田嶋の伊藤紀美子さんは、帝王学を学んだことも、就職した経験もない。だが、時代のニーズを直感的につかんで業績を上げるとともに、2016年11月より神戸商工会議所の副会頭を務める。その実績の背景には、社員や取引先との関係性を良好に保つ審美眼的ともいえる、人を見抜く力があった。

社会人経験ゼロでいきなり社長へ

「川の流れのように業態を変えていく。その歴史を積み重ねて今日に至ります」

そう穏やかに語るのは兵庫県神戸市にある田嶋の代表取締役社長、伊藤紀美子さんだ。田嶋の創業は1899年で、今年4月で120周年を迎えた。創業時は繊維輸出やゴム原料の輸入、ゴム製品輸出などの貿易業を主な事業としていた。その後は貿易事業者をサポートするべく、自社ビルでのテナント業に移行していった。

「私が就任したのが1995年です。そのころは不動産管理業が主な事業でした。先代である父は、当初、嫁いだ娘2人に会社を継がせる気はなかったようですが、晩年になって子どもを後継ぎにという思いが強くなっていったようです。長女である私が継ぐという自然な成り行きで、子育てが落ち着いたタイミングで就任しました」

この事業承継で社内に波風は立たなかったというが、伊藤さんは大学卒業後すぐに結婚し、4人の子育てに専念して社会人経験はない。就任前に経理の勉強をした程度で、会社経営の知識も経験も皆無だった。しかも先代が他界後の就任で手探りの会社操縦となった。

「それをサポートしてくれたのが叔父でした」と伊藤さん。商社からメーカーへと転身して成功を収めた、アシックス商事の元社長、故田嶋弘吉さんだ。同社の役員として関わり、経営者としての在り方、堅実経営と他社にない強みを持つ必要性をたたき込まれたという。

だが、教えを忠実に再現できれば誰も苦労はしない。伊藤さんも例外ではなかった。

独自のルールで社員の信頼を得る

就任して4年目、伊藤さんは「他社にない強み」をつくろうと、不動産事業に加え、輸入雑貨や服飾の仕入れ事業を新たに始めた。

「ベトナム製のビーズサンダルを1000足買い付けて失敗して『見込みの高売りはダメだ』と不良在庫を抱えるリスクを強く指摘されました」と苦笑する。

次に日本のものづくり、特に染めや織りの技術を取り入れ、自社の強み、存在意義のある事業をしたいと、京都の一流の友禅染めと丹後の織元とのコラボ企画によるオリジナルのフォーマルドレスの製作に着手する。高品質を追求して莫大な投資をするが、肝心の利益がついてこなかった。

そうした試行錯誤の経営についてきたのが社員たちだ。未経験の女性社長の就任にも、主要事業の転換にも、反対の声は上がらなかった。そこには独自の会社操縦術の秘訣があった。 「社員をルールで縛らない」

これを貫いた。ノルマを課さず、個々にコミュニケーションをとって、自発的に仕事ができる環境をつくっていった。4人の子育て、その間のチャリティー団体のボランティア活動の経験が生きているのかもしれない。社員それぞれの性格に応じて、伝え方や接し方を工夫し、信頼関係を築いていった。

「大きな企業でしたら社則や就労規定など細かいルールが必要かもしれませんが、当社は社員一人一人に目が行き届く小規模企業です。自分がされて嫌なことは社員にもしない。どんな問題も前向きに取り組めば解決できる、が信条です」と笑顔で語る。その成果は、社員の勤続年数の長さにも表れ、意思疎通がスムーズな少数精鋭の企業として成長していく。

本物を見極める感性が成功への道を開く

人の目利き力に加え、モノの目利きと金銭感覚も経験を通して学び、経営センスに磨きをかけていった。迷ったときは、社員や関わる全ての人の幸せに即した事業かを自身に問うた。そして、次第に同社の事業が好転していく。一大転機は、北海道で良質な水の掘削事業に取り組む一人の社長との出会いだった。

「健康と美容をテーマにしたものづくりができないかと模索していたころでした。でも、業界の構造が複雑かつ競合他社が多いので、参入できるジャンルではないと思っていました」

しかし、フォーマルドレス事業から撤退し、水と化粧品の企画開発事業に舵を切る。水の品質もさることながら、決め手となったのは、社長の人柄や会社の雰囲気、〝儲けありき〟ではない経営方針だ。すでに水の評判を聞きつけた企業から引く手あまたの状態だったが、プライベートブランドとして水の販売契約を結べたことからも、伊藤さんの熱意と経営手腕がうかがえる。2010年には水とスキンケアのブランド「プラスイ」の開発、販売がスタートした。本物志向のホテルやレストランの中からコンセプトに共感したところと取引し、一般向けには主に自社サイトで販売する。〝堅実〟な営業展開で地道に販売網を広げた。その結果、プラスイは化粧水だけで販売累計6万2000本を超え、愛用者の約半数が有名高級ブランドからの乗り換えという成果を上げた。社員らの自信も士気も高まった。

そんな中、神戸商工会議所から副会頭への打診を受ける。

「不安もありましたが、清水の舞台から飛び降りる気持ちでお引き受けしました」と笑う。また、公益財団法人神戸市民文化振興財団の理事も務め、17年には同財団内に神戸文化マザーポートクラブを設け、地元の芸術文化の振興にも尽力している。

「本物を見極める感性が、経営にも文化にも大切」と語る伊藤さんの持ち前の明るさと、幸せを循環させる経営センスが求められる機会は、ますます広がっていきそうだ。

会社データ

社名:田嶋株式会社(たしま)

所在地:兵庫県神戸市中央区磯辺通4丁目2番8号 田嶋ビル

電話:078-251-2231

代表者:伊藤紀美子 代表取締役社長

従業員:7人

HP:http://www.tashima.co.jp/

※月刊石垣2019年6月号に掲載された記事です。

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