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テーマ別企業事例 ココが違う 女性経営者の会社操縦術

業績を伸ばしている企業を率いる女性経営者は、人材育成や顧客開拓にも女性ならではの視点と強い信念を持っている。規模が小さくてもしっかり輝いている、ひと味違う女性経営者の操縦術を聞いた。

事例1 徹底した地元密着と細やかな気配りで取引企業との信頼関係を築く

マルコン警備保障(千葉県木更津市)

「女性だからと特に意識したことはありません。ただ、いろいろな人とご縁がつながったおかげで、これまでやってこられたと感じています」と語る近藤洋子会長

交通誘導から施設やイベントの警備まで幅広く手掛けている、マルコン警備保障。1993年の創業時も、そして二代目に代替わりした現在も、経営者は女性だ。一般的に“男の仕事”と見られがちな警備会社を立ち上げ、地元密着で事業を拡大してきた道のりには、女性ならではの気配りが生かされている。

食べていくために漁師から警備業へ転業

マルコン警備保障の成り立ちは一風変わっている。創業前、現会長の近藤洋子さんは漁師の夫と2人で、水産物の加工、仲買や海の家、遊漁船の運営などを行っていた。木更津市の海岸線は遠浅の砂泥干潟が形成され、浅海漁場として海苔やあさりの養殖が盛んだったのだ。そんな漁師の家が警備会社を立ち上げたのは、神奈川県川崎市と千葉県木更津市をつなぐ東京湾アクアラインの建設がきっかけだ。

「アクアラインができれば、潮の流れが変わってしまいます。いずれ漁業では食べていけなくなって、家族一緒に暮らせなくなるんじゃないかと不安を抱くようになりました。食べていくために、新しい仕事を考える必要があったんです」と洋子さんは当時を振り返る。

警備業に着目したのは夫だった。アクアラインの建設に当たり、必ず需要があると踏んだのだ。ところが夫は漁師を続ける意向だったため、「お前がやれ」と妻に起業を促した。

「警備のことなど何も知らなかったので、どうすれば警備会社をつくれるのかを聞きに、警備業協会を訪ねました。すると『漁師のあなたには無理だよ』とけんもほろろ。気を取り直して『それでも絶対にやります!』と言って、何とか説明してもらいました」

洋子さんは警備に必要な免許取得に向けて猛勉強し、無事試験に合格して、1993年に起業を果たす。社名の由来は、かつて所有していた遊漁船に掲げていた名前で、名字の近藤の「コン」にマルを付けたものだ。

地元の強みを生かして関係業者のニーズに対応

起業後、洋子さんはアクアライン建設に携わる工事業者に片っ端から営業をかけた。本来なら実績のない会社が仕事を取るのは容易ではないが、夫が仲買の組合長を務めていた関係で顔が広かったことや、懇意にしていたお客さまの中にゼネコンに勤める人がいたなどの幸運もあり、木更津側の橋の工事で交通誘導の仕事を得る。

「よく取れたねって言われましたよ。『地元の仕事だから一生懸命やります』という気持ちが相手に伝わったんじゃないでしょうか」(洋子さん)

同社は、当初から経営方針として地元密着を掲げていた。地元の仕事に携わることは、地域が活気づき、地域貢献につながるという考えが根底にあった。そして業務におけるメリットとして“対応力”を挙げる。

「現場では予期せぬトラブルが起こります。その場合、県外の会社だと『明日見に行きます』となることが多いですが、うちなら30分以内に駆け付けることができます。いざというとき、この違いは大きい」(洋子さん)

ほかにもある。他県から来る工事業者は土地勘がないため、トラックや資材置き場の確保に苦労するのだという。同社は地元だけに、「○○さんのところの土地が空いているから借りたらどうか」といった情報提供や、借りる交渉を代行することもある。また、配達可能な弁当屋を紹介したり、手配したりもする。それらを無償で行っているうちに、業者から「マルコンに聞けば、紹介や手配までしてもらえる」と重宝がられ、地元の商業者からも感謝されるようになった。仕事を誠実にこなすのはもちろんのこと、利他の気持ちで行動してきたことで信頼関係が築かれ、接待をせずとも受注は増えていった。

こうした女性ならではの配慮は、社員の育成にも生かされている。例えば、同社ではスキルアップのために定期的に勉強会を開いて、洋子さん自ら指導に当たってきたが、実は社員の声を聞くという目的もある。警備の仕事は体が資本であり、勉強会などの場で顔を見て、話を聞くことで、社員の心身の状態をチェックしているのだ。また、社員が日報や伝票を事務所に持ってくる際には必ず声掛けをして、体調以外にも何か困りごとはないかなどにも気を配っている。

「うちでは飲み会の習慣はないけれど、普段から社員とのコミュニケーションを心掛けています。男女を問わずこちらから声を掛ければ、

『実は……』と心を開いてくれるものです。そういうこともあってか、うちが嫌で辞めていった人はほとんどいないですね」

建設中から完成後まで一貫した警備を提案

そんな洋子さんの姿をそばで見てきたのが、2016年に社長を継いだ次女の川村優子さんだ。創業当時から母親と二人三脚で、工事現場の交通誘導に始まり、雑踏警備、巡回警備、列車見張り、施設警備、大手警備保障会社との業務提携による機械警備など、着実に事業を拡大してきた。

「特にきっかけがあったわけではなく、そろそろ社長を継ぐ時期かなと思ったタイミングで事業を引き継ぎました。母とは経営に対する考え方が似ているのでスムーズでしたね」(優子さん) 経営の基本路線は従来通りだが、優子さんの代になって力を入れているのは、建物の建設中から完成後まで一貫して請け負う継続的な警備の提案だ。これまでは工事現場の交通誘導がメインだったが、今後は工事完了後も引き続きその施設の警備ができることをアピールしていこうというものだ。

「何年か前に言われた言葉がずっと心に残っていたんです。『あなたの会社は建物が建つまではいるけど、建った後はいないよね』と。当社は、この辺りにできた大型専門店やアウトレットモールなどの建設工事の全てに携わったのに、その後はほかの会社が施設警備を担当しています。言われるまでは考えもしなかったけれど、建った後もその場に残ることが大事なんだと、今、重点的に営業をかけています」と優子さんは説明する。

同社は今年で創業26年目を迎え、丁寧な仕事と細やかな気配りで業績を伸ばしてきた。その実績が評価されて、今年開催されるG20大阪サミットや、来年の東京オリンピック・パラリンピックの警備など、今まで経験したことのないオファーが舞い込んでいるという。それに向けて、顔認証システムなど新しい警備の形を勉強中だ。

また、母娘二代で警備会社を切り盛りしてきた手腕に注目が集まり、商工会議所主催のセミナーなどで講演する機会も増えている。

「最初こそ警備は食べていくための手段でしたが、この仕事は人とつながり、地域の安全や財産を守る大切な役割だと自負しています。これからも地元密着で、地域の発展に貢献していきたい」と、二代目を継いだ優子さんは、柔和な笑顔の奥に強い意志をのぞかせた。

会社データ

社名:株式会社マルコン警備保障(まるこんけいびほしょう)

所在地:千葉県木更津市万石356-3

電話:0438-41-2233

代表者:川村優子 代表取締役社長

従業員:160人

HP:http://www.marukon.co.jp/

※月刊石垣2019年6月号に掲載された記事です。

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