商業統計によると、日本の小売業事業所数のピークは1982年の172万。最新となる2014年調査では78万に減少、なんと32年間で94万の事業所が消えたことになる。その内情は、チェーンストアを主役とする産業化が進む傍ら、中小零細規模の業種店が衰退していく過程でもあった。例えば家具業界を例にとると、全国に350店超チェーン展開し、売上高4100億円の規模を持つニトリが28期連続増収増益を続けている一方で、地域店は苦戦を余儀なくされている。
私見だが、このまま寡占化が進むことは、必ずしも生活者の暮らしを豊かにすることにはつながらない。それぞれの土地に、その風土や暮らしに根付いた小売業が存在することこそ、生活者の暮らしを彩り、豊かにする。
行きたくなる店づくり
そうした思いを強くさせる店を取材した。
日本最長の川、信濃川が流れ、水のまちとしても知られる新潟市。その観光スポットの一つ、鳥屋野潟は公園や図書館、自然科学館、野球場などがある市民の憩いの場だ。こうした従来の小売業立地の定石ではありえない場所に、地域に根ざす家具店、SHS(スウィート・ホーム・ストア)はある。
SHSは1983年、大手スーパーの家電売場で配送員として働いていた創業者が、新しい商品が発売されるたびに買い替えられることに違和感を覚え、市内の商店街に開いたリサイクル家具・家電店が起こりだ。その後、業績は順調に推移するものの、店を構える商店街は衰退をたどる。変わりゆく商店街の姿を見て「行きたくなるようなまちで、行きたくなるような店づくりが必要だ」と考えた。
転機は2001年。在庫保管のために借りていた倉庫のある鳥屋野潟の環境を見つめ直すと、たくさんの価値が眠っていることに気が付いた。「自然環境に恵まれたこの場所は、他にはない価値があると思いました。まちの魅力は店の魅力につながる。街と店の関係性を強く感じたのです」と、店舗の移転を決意。誰もが反対したが、創業者は「だからこそ、わざわざ行きたくなるような独自の店をつくる」と覚悟を固めた。
そこで店づくりの基本軸を「まち、みせ、ひと」と据えた。そのまちにふさわしい店を、その店にふさわしい人を育てることが、まちづくりにつながる。まちが元気になると、店も人もさらに元気になるという好循環のサイクルを生み出すことが同店の信念だ。その背景には、「百年続いてこそ、まちに欠かせない店となり、なくてはならない存在になれると思うのです」という創業者の夢がある。
地域に根付く百年企業に
百年企業を目指すには家族三世代との付き合いが欠かせない。そこで同店では、暮らしの基本の「衣・食・住」に加えて、豊かな暮らしに求められる「知・健・美・遊」の7つのキーワードを組み合わせ、地域に根付いたライフスタイルを提案。品ぞろえは、売れているもの、いま流行っているものという視点ではなく、「鳥屋野のまちの暮らしに必要なもの」を軸に目利きし、生活空間を演出していった。
また、家具というモノを販売する店ではなく、新潟の暮らしを楽しむ提案をする店であるため、レストランやアパレルショップ、生花店、書店など他業種を誘致。商品と空間全体の組み合わせが「わざわざ行きたくなる」ような独自の価値をつくりだし、SHSを複合施設へと進化させていった。
店づくりの根底に流れる「まち、みせ、ひと」を軸に誠実に、地域に暮らすお客に向き合い、変化し続けることを恐れない。そして、商品・空間を組み合わせた生活提案をすることで、まちも、店も、人も元気になるよう、今日も新しい価値の組み合わせに挑戦している。
私のまちには、こんな素敵な店がある──生活者に、そう思ってもらえる店づくりこそ地域に生きる商人の役割である。
(笹井清範・『商業界』編集長)
最新号を紙面で読める!