コラム石垣 2021年1月1日号 2021年展望 コラム「石垣」執筆者に聞く

コロナ禍の中迎えた2021年。コラム「石垣」執筆者5人に、今年の展望や日本、そして世界の行方について聞いた。

ユーラシアから始まる世界史のうねり

宇津井 輝史/コラムニスト

宇津井 輝史 コラムニスト

地政学の祖マッキンダーはユーラシア大陸を世界島と呼んだ。歴史の大きなうねりはこの大陸から始まる。大陸の東と西の文明圏は、分裂と統合を繰り返しながら世界史を牽引した。西の塊を「欧州」、東の塊を「中華」と呼ぶ。それぞれの文明圏の沖合には西に英国、東に日本という海洋国家がある。

欧州文明圏では17世紀の三十年戦争で神聖ローマ帝国が解体し、ウェストファリア条約により国民国家というシステムが誕生した。

その後に続いた国家の対立と抗争に終止符を打ったのがEUである。だが新帝国主義時代のいま、この統合システムがほころび始めた。

ブレグジットは、大陸欧州のいずれか一国が覇権を握るのを阻止してきた英国の伝統的な外交戦略である。歴史上、仏独露いずれも地域大国にとどまった。今年は英国のEU離脱が現実になるが、一帯一路という中国の外交攻勢も欧州統合の力を弱める方向に働くだろう。

東の中華文明圏はEUサイズの一国が支配する。中華とは世界の中心という意味である。漢語世界で、天下は中華と外夷から成る。天命を失ったら王朝が交代する易姓革命の中国史で、繁栄を誇った漢、唐、明という漢帝国が実現できなかった多元国家を実現したのは、もともと満州族という外夷だった清朝である。新疆、チベット、モンゴルを平定して成立した多元国家(清朝独自の中華)は、中華人民共和国という現「王朝」が引き継ぐ。

中国共産党を駆動するのは統合への強い意志。かつて存在したことのない「一体の中華民族」を実現する過程にある。だが強権的なデジタル統治は危うさも孕む。帝国主義で国民統治と世界秩序とが両立するのか、西と東の文明圏で試される。世界史のうねりは再びユーラシアから始まるだろう。

強い国への基礎づくり

神田 玲子/NIRA総合研究開発機構 理事・研究調査部長

神田 玲子 NIRA総合研究開発機構 理事・研究調査部長

世界は、戦後四半世紀における「経済」中心の時代から、「政治」中心の時代へ移行しつつある。地球温暖化、高齢化による負担増大、そして所得格差の拡大などの問題は、経済発展によっては解決できず、政治的決断が必要とされる難題ばかりだ。のらりくらりと解決を避けてきた日本の姿は、依然として、「経済」中心の時代から抜け出せていないように映る。日本が「政治」中心の時代に活躍する国となるには、どうすればよいのだろうか。

まず、自らのビジョンを示し、困難な問題に取り組む政治的なリーダーを育成することだ。問題の解決を先送りしたり、誤った判断に固執したりするようなことがあれば、将来世代に過度な負担を強い、国の体力を奪う。しかし、リーダーの存在だけでは十分とはいえない。さまざまな人々の意見を政治に反映させる仕組みを構築することが重要だ。政治エリートではない一般の人々の声をくみ上げ、政治に届けることである。

米国の政治経済学者であるアセモグルらは『自由の命運』の中で、国が繁栄するためには、「国家と社会がともに強くならなければならない」と指摘する。国民に必要な行政サービスを提供するには強い国家が必要だが、社会の絶えざる警戒がなければ、行き過ぎた国家になり、国が弱体化する。ここでいう強い国家とは、政治的なリーダーがいることであり、強い社会とは、人々の政治参加であると読み替えることもできる。

昨年からの新型コロナウイルス感染症への対応は、政治に対する人々の意識を覚醒させた。今回の危機は、日本が強い国を目指す機会と捉えるべきだ。「政治」中心の時代に輝ける国であるために、本年をその基礎づくりの年としたい。

新たな産業文化創造の年に

丁野 朗/東洋大学大学院国際観光学部 客員教授

丁野 朗 東洋大学大学院国際観光学部 客員教授

2020年の観光は、まさにコロナ禍一色の一年となった。インバウンドは依然、改善の兆しは見られない。政府のGO TOキャンペーン効果で、国内観光は少し薄日がさしたといった程度である。年末になって、英国の製薬会社のコロナワクチン投与が明るい話題にはなったが、その本格的な普及にはまだまだ時間がかかるだろう。

そんな中、私たちに今できることは何か。それは来るべき次の未来に向けて、しっかりと力を蓄え、また諦めずに対外発信の努力を続けていくことではないか。

昨年末、インドの富裕層向け旅行雑誌が実施した読者投票で、東京(日本)がMICE部門で世界1位に選ばれたという明るいニュースを目にした(JNTO発表)。しっかりとした対策の下、こうした情報を発信し続けることが未来の活動につながる。

2020年春には「文化観光推進法」という新たな法律が施行された。珍しく文化庁・観光庁共管の法律である。同年11月までに全国25地域で、博物館など拠点施設を核とする「拠点計画」と地域全体を視野に入れた文化観光「地域計画」が認定された。

文化財をはじめとする文化資源は、歴史の古い日本の大きな武器になる。その資源をしっかりと後世まで伝えるためにも観光や新たな産業創出など、しっかりとした活用計画が必要である。

そのためには、文化に熟知し、かつこれらを活用できるマネジメント人財の発掘・育成が不可欠である。文化と観光、文化と産業。従来はともすれば相反する関係にあった分野の協働が、間違いなく次の時代の新しい文化を創造する。

2021年は、こうした異分野の協働による新しい産業と文化の創造の年としたい。

働く高齢者が一般化へ

中村 恒夫/時事総合研究所 客員研究員

中村 恒夫 時事総合研究所 客員研究員

コロナ禍では「持病を持つ高齢者」の対応策がポイントの一つになった。一方で、世界的に高齢化の波が広がる中で、労働力としての期待も高まっている。若返りと老化防止の研究をしているハーバード大学のデビッド・シンクレア教授は著書『老いなき世界』の中で、120歳まで生きる人が珍しくない時代が近づいていると論じている。そこまで行くには時間がかかるとしても、医療制度の行き届いた国なら「老人特有の病気」に苦しむ人が徐々に減ってくる可能性は大きい。

企業にとって、これまで高齢者は「消費者」に位置付けることが多かったように思う。1人の孫に対する四つの財布と見られたり、リタイアして余暇を楽しむための消費をしたりするケースだ。政府は年金財政の厳しさと労働力不足を補うために、65歳が多い定年の延長期限を、働き方の工夫を加えて70歳に引き上げる方策を検討している。実際には国の指導がなくても70歳を超えて働く意欲のある人はたくさんいる。医学の進歩で、そんな動きは今後ますます加速するだろう。

普通に働く高齢者の消費は、従来とは全く異なるに違いない。コロナ禍にめどが付いても「老夫婦でバス旅行をする」「平日に演劇や映画を鑑賞する」といったものではなく、仕事用スーツのオーダーや、働く女性としての美容ケア、ビジネススクールへの入学など、今の中高年と大差なくなるだろう。企業はその時代に向けて「高齢消費者」を意識した商品やサービスをそろえておきたい。デジタルトランスフォーメーション(DX)の動きを事業に取り入れる際には、これからの高齢者も念頭に、機能をできるだけ単純化した製品群をそろえるべきだろう。

ウィズコロナの日常

中山 文麿/政治経済社会研究所 代表

中山 文麿 政治経済社会研究所 代表

この冬、欧米を中心として新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が猛威を奮っている。集団免疫を目指していたあのスウェーデンまでもが、昨年11月、9人以上の集会は禁止するとの規制を導入した。米国では医療体制の崩壊から、感染している看護師でも発症していなければ現場に復帰しろとの指示が出された。

このウイルスの厄介な点は、無症状の感染者がクラスターの震源となり、市中感染を起こすことにある。また、一般の細菌やウイルスと同様、このウイルスも冷凍・冷蔵下でも強く、冬にとても活動的だ。

このパンデミックを世界的に終息させるには、発展途上国の人々にもワクチンを接種してウイルスを根絶しなければならない。そのためには、WHOが主導しているCOVAXなどが低廉な価格で発展途上国にワクチンを供給してほしい。

ところで、グローバル化の進展とともに、多くの国で富める者と貧しい者の貧富の格差が開いた。それが、今回のパンデミックで一層拡大し、貧しい人々の不満が鬱積(うっせき)している。世界の為政者はこの怒りに対して適切に対応しないと、当該国の政治・経済・社会の安定を損ない、民主主義や資本主義の根幹を揺るがしかねない。

また、今回のパンデミックを通して、日本では多くの人が遠隔オンライン勤務のメリットやワーク・ライフ・バランスの意義を理解した。そのため、これまでの都市集中の生活から脱都市化が促されるなど、生活パターンが変わる可能性もある。従って、経営者もその変化の方向を見誤らないよう、経営のかじ取りが必要だ。一方、各国とも、大幅な財政出動を強いられているが、その使い方はそれぞれの国の産業構造の高度化に資するような使い方も求められる。

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