Q わが社は副業を認めています。複数の会社に雇用されている就業者が他社での仕事中にケガをして休業することになりましたが、この場合の労災保険はどのようになりますか?
A 複数の会社などに雇用されている就業者に支給される休業中の労災保険は、これまでは、事故が起きた勤務先の賃金額のみを基礎として給付額などが決定されていました。しかし、雇用保険法などの一部を改正する法律(令和2年法律第14号)により、2020年9月1日以降にケガや病気になって休業した場合やお亡くなりになった場合は、全ての勤務先の賃金額を合算した額を基礎として給付額が決定されることになりました。
労災保険の制度改正
近年は、副業を認める会社が増加傾向にあり、複数の会社で働く人が増えています。労災保険の制度改正によって、複数の会社などに雇用されている就労者を対象とした新たな制度があるので、雇用主は把握しておく必要があります。
具体的には、2020年9月1日以降にケガや病気になったときに、二つ以上の会社などに雇用されている人が対象になります。ただし、ケガをしたときや病気になったときなどに一つの会社などでのみ雇用されている場合(または、全ての会社などを退職している場合)であっても、そのケガや病気などの原因や要因となるもの(例:長時間労働、強いストレスなど)が、二つ以上の会社などで雇用されている際に存在していたと認められた場合には、対象者となります。また、就業者だけではなく、特別加入者であっても対象となります。
保険給付額などの決定方法
会社を休んだときに給付される休業(補償)給付は、働いている会社などから支払われる賃金額を基に保険給付額が決まります。これまでは、ケガや病気などの原因となる事故や災害が発生した会社の賃金額を基に保険給付額が決定され、複数の会社などに雇用されていたとしても、それら全ての会社などの賃金額を基に労災保険給付を受けることはできませんでした。
今回の制度改正では、複数の会社などで雇用されている労働者やその遺族への保険給付については、雇用されている全ての会社などの賃金額の合計額を基に保険給付額が決まるようになりました。
対象となる給付は、休業(補償)給付、遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)、障害(補償)給付や傷病(補償)給付などです。
仕事での負荷を総合的に評価
これまでは、複数の会社などで雇用されている場合でも、それぞれの会社などの負荷(労働時間やストレスなど)について、個別に評価し、労災認定できるか否かを判断していました。
今回の制度改正では、雇用されている会社などのうち、一つの会社などにおける仕事の負荷(労働時間やストレスなど)を個別に評価しても労災認定できない場合は、雇用されている全ての会社などにおける仕事での負荷(労働時間やストレスなど)を総合的に評価して労災認定できるか否かを判断するようになります。よって、A社およびB社の負荷を個別に評価した結果、いずれの会社についても労災認定できない場合であっても、改めてA社とB社の負荷を総合的に評価して判断されるため、労災認定されうることも考えられます。
なお、今回の制度改正は、労災保険のメリット性には影響しません。労災保険率は、災害のリスクに応じて、事業の種類ごとに定められていますが、事業の種類が同じでも、作業工程、機械設備、作業環境などの違いにより、個々の事業場の災害率には差が生じます。そこで、事業主の労働災害防止努力の促進を目的として、個々の事業場の労働災害の多寡に応じて保険料率を一定の範囲内で増減しています。これを労災保険のメリット制といい、今回の制度改正は、この労災保険のメリット制には影響しないとされています。
(特定社会保険労務士・佐川 真守)
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