大企業や大手チェーン店とは一線を画し、独自の戦略やサービスで地元の人たちから絶大な人気を集めている企業がある。今号は、誰もが楽しめるお店づくりや、ここでしか味わえないメニューの提供といった、さまざまな工夫を凝らすことで、地域から愛されている企業の秘密に迫る。
事例1 感動を呼ぶ店づくりで地域の人々に幸せをもたらす
ラッキーピエロ(北海道函館市)
函館市とその周辺に16店舗を展開し、年間150万人が来店するハンバーガーチェーンのラッキーピエロは、函館市民に愛され、多くの観光客にも知られている。店舗ごとに異なる内装や、温かいサービス、地元の食材を使い鮮度・質にこだわった味……店内には驚きと感動を呼ぶ仕掛けが満載だ。
驚きを提供することで口コミが広がる
昭和62年に函館市のベイエリアに1号店をオープンしたラッキーピエロ。函館市内と近郊の店舗数は大手ファストフードチェーンを大きく上回り、シェアは約6割を誇る地域ナンバーワンブランドだ。
16店のデザインは全て異なる。例えば、ベイエリア本店のテーマは「森の中のメリーゴーランド」。店内には木馬やブランコがある。「エンジェルたちのおしゃべり」がテーマの五稜郭公園前店は、天使の絵で壁が埋め尽くされ、金色に輝くエンジェルのオブジェが天井から吊り下がり、「世界ナンバーワン サンタクロースコレクション。5000人のサンタがお出迎え」がテーマの十字街銀座店はサンタクロースの人形が店内に並ぶ。「サンタクロースが大好きなので海外に行ったときに買い集めていますが、本当に好きなことでなければ、お客さまに楽しんでいただけるお店はつくれません」(王一郎代表)。
こうした店舗づくりは「今の時代、おいしいだけでは来てもらえない。楽しいだけでも心に響かない。〝びっくりするほどの驚き〟をいかに提供できるかが大事」という考えがあるからだと王代表は話す。
「誰かに話したくなるような感動と驚きが口コミとして広まり、お店のPRにつながるのです」
常連客のアイデアを生かしたメニューは100種類以上
メニューにも驚く。年間30万個を販売する人気ナンバーワンの「チャイニーズチキンバーガー」は、甘辛味の鶏の空揚げが3個も入り、レタス、マヨネーズと一緒に挟む。他にもエビチリバーガーや函館スノーバーガーといった個性的なハンバーガーが20種類以上。パティはチェーン店が60gほどなのに対し、ラッキーピエロは120gもある。それだけでなく、カレーやオムライス、ラーメン、スパゲティなどのメニューも豊富で、ボリューム満点なのに価格はリーズナブルだ。
「お客さまの要望やアイデアを積極的に採り入れ、メニューは100種類以上あります。一方で、システム化された大手チェーンに効率性で勝負しても勝てません。店舗では注文を受けてから一つ一つ手づくりしています」と、つくりたてのおいしさにもこだわる。また、冷凍ものは使わず、地元で生産された質の良い食材をその地で食する「地産地食」という考えから、新鮮で高品質な素材を厳選している。
「レタスやトマトは近郊の農家が育てたものを使い、お米は道南地域限定の『ふっくりんこ』を使用しています。一生懸命つくった生産者の思いをお客さまに伝えたいので、名前と写真を入れたポスターを店内に掲示しています。地元の食材を使うことで輸送コストや燃料の削減にもつながります」
地元客に「自分たちの店」と思ってもらう
店内ではスタッフが明るい笑顔で対応してくれる。アットホームなもてなしも特徴だ。ラッキーピエロは55歳以上のスタッフを積極的に採用しているが、王代表はその理由を「コックさんの次に料理がうまいのはお母さんだから」と話す。
「募集を始めた当初は『55歳以上を積極採用』と打ち出しても応募はほとんどありませんでした。それでも諦めずに続けていたら徐々に応募が増えました。家族だけでなく、たくさんのお客さまに料理を味わってもらえることにやりがいを感じてもらえますし、お店も温かい雰囲気になります」
携帯電話・パソコンを使ったメンバーシステム「ラッキーピエロサーカス」は、誰でも「団員」になることができ、食事をするとポイントが付く。利用金額に応じて「準団員」「正団員」「スター団員」「スーパースター団員」と階級が上がり、ポイント率もアップ。「スーパースター団員」にはさまざまな活動に参加してもらったり、新メニューの開発時に意見をもらったりしている。
「お客さまにもラッキーピエロの一員になってもらいたいと思っていますし、スーパースター団員にもなればほとんど身内です。実際に『トイレが汚れているよ』とか『あの店員さんは研修を受けた方が良いんじゃない?』と教えてくださるのです。私たちは、こうしたご意見を何よりも大切にしています」
情報発信やコミュニケーションツールとして積極的に活用しているのがメールマガジンだ。「カレーライス大好き祭」「シェイク50%オフ」といったお得な情報だけでなく、函館市内のイベントや観光情報なども紹介している。さらに、うれしいニュースにも対応。ソチオリンピックでフィギュアスケートの羽生結弦選手が金メダルを獲得した翌日は、「同苗字(羽生)または名前(結弦)のお客さまはお好きなカレー50%オフ、同姓同名の方はお好きなカレー100%オフ」というサービスも実施した。
「こうした特典は、受けられる方だけでなく、周りで見ているお客さまも楽しめるし、職場や学校でもその話題で盛り上がるそうです。メルマガは地域の皆さんと喜びを共有することにもつながっています」
地域貢献活動にも積極的
「環境に優しい経営」を掲げるラッキーピエロは、環境対策にも積極的に取り組んでいる。
「できるだけゴミを少なくしようと紙コップをグラスに替えると、ゴミの量が半分になりました。生ごみは堆肥化し、農家で野菜づくりに使ってもらっています」
マイ箸やマイ容器、マイバッグを持参したお客にコインを渡す『MYMY運動』も展開。会計時に渡したコインをレジ横に設置した『ブナの木植えようボックス』に入れてもらい、1枚につき5円をブナの木植樹活動に寄付する。「お客さまにコインをボックスに入れていただくことで『参加している』と思ってもらえるのです」。
平成10年から取り組んでいる海岸や公園の清掃は、取引先や常連客も参加しているそうだ。
「海岸の掃除を始めた最初の年は100箱くらいのごみを拾いましたが、全然きれいになりませんでした。それが5年目くらいから少しずつきれいになると近隣の方も参加してくださるようになり、2〜3年後にはゴミのないきれいな海岸に生まれ変わりました」(王未来副社長)
函館を盛り上げる活動にも力を入れている。ハンバーガーの包み紙には函館の観光案内を掲載。また、函館の夜景の美しさを象徴するキャッチフレーズ「100万ドルの夜景」の商標権を未来副社長が取得し、自ら代表を務める愛好会を設立。毎年12月には、函館山山頂のホールで「日本一美しい函館100万ドルの夜景愛好会サミット」を開催している。
一方、王代表は依頼を受けて講演する機会も多いそうだが、講演料は全額、盲導犬の育成支援に寄付している。
「地域貢献とは、身近にある当たり前のことを当たり前にすることだと思います」(王代表)
誰もが楽しめるお店に
平成24年9月にオープンした峠下総本店は、「バードウォッチング館」がテーマ。森の中のような落ち着いた雰囲気の店内は、壁に野鳥の絵が飾られ、バードウォッチング台から双眼鏡で観察できる。
お店に入るとすぐ目の前にあるのは、座ると財運を招くという真っ赤な巨大椅子「ビッグレッドチェア」。左手には、子どもが座るとすくすく健康に育ち、出世するという黄色い椅子もある。約3000坪の敷地には、お店のある七飯町が産地のリンゴの木、天然水の水飲み、メリーゴーランド、渡ると寿命が3日伸びるという言い伝えがある長寿橋が架かる池もある。さらにヤギやアヒルを飼育するなど誰もが楽しめる仕掛けが満載で、スキップしながらお店に入ってくる子どももいるそうだ。
峠下総本店には、お好み焼き店「幸福堂」も併設している。神戸生まれで大のお好み焼き好きの王代表が「みんなでつくりながら楽しく食事してほしい」という願いを込めてつくったのだ。
「より多くの方に喜んでもらえるお店を目指します」と王代表。ラッキーピエロは、これからも地域に幸せをもたらし続けるに違いない。
最新号を紙面で読める!