都市にも「逆転」は起こり得る。パリの中央部をゆったりと流れるセーヌ川。今でこそ観光客でにぎわう名所だが、19世紀半ば頃は、異臭が立ち込めるコレラ菌の発生源であった。当時のパリは、下水道が整備されておらず、狭い街路の溝にはごみや汚物が捨てられていた。汚水は大量に河に流れ込み、コレラは飲み水に混ざって人々に伝染した。「パリはフランスの心臓だ」と宣言した当時の皇帝は大改造を断行し、見事、パリは「菌の温床」から「花の都」への大逆転を果たした。
▼効率化を追求したメガシティー東京も、疫病リスクと隣り合わせだ。満員電車での通勤や繁華街の人混みは、ウイルスの増殖には好都合。都市部では病床が不足し、適切な治療を受けられずに自宅で亡くなった人もいる。東京という過密都市が、台湾やシンガポールと比べて、感染に対して脆弱(ぜいじゃく)なことが露呈した。
▼パリが大逆転を遂げたように、東京を感染リスクに対して強い都市に転換させる必要がある。財政的にそんな余裕はないというかもしれない。当時のパリ県知事も、債務を抱えていることを理由に大改造を拒み失職した。彼の考えが間違っていたことは、150年余りが経過した今でも明らかだ。そして、パリは再び、都市改造に取り組んでいる。2024年予定のオリパラでセーヌ川を水泳の競技場とするために、水質改善を行っている。
▼この夏、東京のオリパラを成功させようと思うのであれば、今からでも遅くはない。過密都市ならではの感染症リスクに対応した衛生都市に生まれ変わる取り組みを始めるべきだ。それが東京発の「おもてなし」である。メガシティー東京の大逆転こそが、私たちの願いである。
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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