別子飴本舗
愛媛県新居浜市
満州で手掛けたあめが原点に
愛媛県新居浜市の山間部にあった別子銅山は、江戸時代から昭和48(1973)年の閉山に至るまで約280年にわたり銅を産出し、日本の産業に大きく貢献した。その名に由来する別子飴をつくっている別子飴本舗は、明治元(1868)年に初代の越智房吉が「板屋」の屋号で菓子を製造したのが始まりである。現在は七代目当主の越智秀司さんが店を守っている。
「初代がどのような経緯で菓子屋を始めたかは分かっていませんが、水あめやようかんなどをつくっていたようです。その後、私の祖父にあたる四代目の慎一が大陸で一旗揚げようと、大正13(1924)年に満州に渡って前身の正ちゃん飴本舗を設立し、関東軍に菓子やあめを納めるようになりました」
四代目は現地で乳菓製品を手掛けるようになり、それが現在の別子飴の原型となっている。現在の別子飴は、水あめと乳製品、上白糖を主原料にして、そこにミカン、お茶、イチゴ、ココア、ピーナッツ入りミルクの5種類の味を一粒ずつ包んでいる。
「四代目は波乱万丈の人生を送った人でした。向こうで商売に失敗して昭和12(1937)年に新居浜に引き揚げてきてからも、菓子屋を再開するだけでなく、百貨店まで始めました。資金が足りなくなり百貨店の方は閉店しましたが、一つ間違えていたら菓子屋もつぶれていたところでした」
その一方で四代目は販路拡大にも力を入れており、それが現在の別子飴本舗の基礎となっている。
販路拡大で東京進出も狙う
昭和13(1938)年には「別子飴」を商標登録して、店の屋号も「別子飴本舗」に変更。あめは一粒ずつオブラートに包んでひねり包装にするという、当時としてはハイカラな包み方をして、箱入りの高級あめとして売り出した。また広告にも力を入れるようになり、それを契機に、それまでの市内の土産店だけでなく、鉄道弘済会の駅売店にまで販路を拡大していった。
「当時は県内の主な交通の要所に商品を置いていきました。さらには、『銀座飴』という名前の新商品を開発して、東京に進出することも考えていました。『銀座飴』は商標の関係でその名称を使うことができず、商品そのものは完成していたものの、東京進出は断念せざるを得ませんでした」と越智さんは言うが、四代目のその遺志は越智さんが継いでいる。新型コロナウイルスの感染拡大が始まる直前に新製品を開発して、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、東京で売り出すことを計画していたのだ。
「四代目の後を長男が継いだのですが早くに亡くなったため、次男である私の父が六代目を継ぎました。ところが父も病に倒れたので母が店を守り、そろそろ限界というときに私が戻ってきました。バブルがはじけ、経営はどん底の時期でした。当時は別子飴しかなく、それだけで売り上げを伸ばすのは難しかった。すると、近くに別子銅山のテーマパークができて、観光バスによる工場見学を受け入れるようになりました。それでお客さんが大勢来るようになったので、いろいろな商品をつくって試食していただき、評判が良かったものを商品化していきました」
知恵を絞った新商品が人気に
1996年に越智さんが社長に就任すると、拡張した敷地に手打ちうどんの店をオープンした。また、展示会や商談会にも出展するようになり、食品関連業者とのネットワークをつくっていった。
「これにより全国からOEMのお話をいただくようになりました。うちはほとんど手づくりで小ロット生産にも対応できるので、この原料でこういうものをこれだけつくってほしいというご依頼が入るようになったのです」
2013年には地元産サトイモを使った甘くないかりんとう「ポリポーリ」を開発。19年末にはそこに「もんじゃ焼味」を新たに加え、翌年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて東京で売り出すため、新たな生産機械を導入した。「それで、さあいくぞ! というときにコロナ問題が起こり、全部だめになってしまいました」
そこで今度は地元で売り出すための商品開発に知恵を絞った。そうして誕生したのが、うどん店の具材を活用した揚げたてのカレーパンだ。製造にはポリポーリのために導入した機械を使った。これを昨年5月に発売したところ、地元の人たちの間で評判となり、連日売り切れの状態が続いている。
「ポリポーリも新しいパッケージにしたところ、引き合いが多く来るようになりました。ピンチの後には必ずチャンスが来るはず。そのために今からいろいろと知恵を絞っていきます」
四代目から挑戦してきた東京進出も、コロナ禍収束後には、再び新商品で挑戦するだろう。
プロフィール
社名:株式会社別子飴本舗(べっしあめほんぽ)
所在地:愛媛県新居浜市郷2-6-5
電話:0897-45-1080
代表者:越智 秀司 代表取締役
創業:明治元(1868)年
従業員:26人
※月刊石垣2021年5月号に掲載された記事です。
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