若手経営者が描く10年後の東北ビジョン vol.2

東日本大震災からの復興の担い手となる東北各地の若手経営者の取り組みと思い描く10年後のビジョンを12回連載で紹介する

「伝統的な製法で、現代人に合う日本酒を」と語る佐藤祐輔社長

豊かな自然に囲まれ、米どころでもある東北は、各地で美酒がつくられている。中でも「日本酒新時代の牽引(けんいん)役」と称されているのが、秋田市にある新政酒造社長の佐藤祐輔さん。手間と時間のかかる伝統的な製法で仕込まれた、シンプルで美しい四合瓶に入った同社の日本酒は、入手困難なほど人気を集めている。「酒づくりはアート」という佐藤さんに、その理由と今後について伺った。

「酒づくりはアート」ボトルは人にとっての洋服

新政酒造は幕末動乱期の1852(嘉永5)年に創業。八代目にあたる佐藤祐輔さんは、2012年に社長就任。現在は同社の五代目佐藤卯兵衛さんが発見した「6号酵母」と秋田県産の素材のみを用い、伝統的で高度な技術を要する「生酛(きもと)づくり」という製法で純米酒をつくっている。

同社は業界では中規模程度。近代化された従来の製法なら15人程度でできる生産量だが、同社ではそれぞれの工程に人手がかかるため、35人で酒づくりを行う。

従来の製法は合理的だが、佐藤さんは「酒づくりはアート」という。「われわれがつくる酒はクラシカルアート、人を増やし手間を掛けるなど非合理的なことを含んでいます」

代表的なものには、酵母名が由来の生酒シリーズ「No.6(ナンバーシックス)」や秋田の酒米の個性を味わうシリーズ「Colors(カラーズ)」、一般的な日本酒の製法によらずに革新的な手法を用いたシリーズ「PRIVATE LAB(プライベートラボ)」などがある。

同社の酒は冷蔵保管がしやすいようすべて四合瓶入り。シンプルで美しいラベルもボトルも自社のデザイナーと共につくる。「ボトルは人にとっての洋服。僕は洋服も好きなのでボトルにも徹底的にこだわりますが、それはあくまで外面の話です」。こうしたデザインはブランド戦略なのかと尋ねると「日本酒自体に価値があるので、戦略ではないです。ダイヤモンドが存在するだけで人を魅了するのと同じです」。

蔵を継ぎ、改革断行 若手集団「NEXT 5」結成

佐藤さんは30歳を過ぎるまで蔵を継ぐ気は全くなかった。中高生の頃は音楽に夢中になり、大学生の頃は米国のヒッピー文化が好きになった。東大文学部英語英米文学科を卒業し、ジャーナリストとして活動。

それまでは日本酒に見向きもしなかったが、静岡の酒「磯自慢」と愛知の酒「醸し人九平次」に出合って日本酒に開眼。猛勉強の後に07年、秋田へ帰郷した。

当時、同社の主力商品は普通酒の「新政」だったが、大量の余剰在庫と赤字に苦しんでいた。佐藤さんは、酒づくりについても組織についても数々の改革を断行。新しい取り組みに「バッシングの嵐だった」という。

この頃、佐藤さんのように蔵を継いで悩んでいる若手経営者は少なくなかった。そこで10年、秋田の若手蔵元5人が集まって「NEXT 5」が結成された。もともとは酒づくりの技術交流会で、共同醸造酒をつくるなどしていた。

しかし、結成の翌年に東日本大震災が起きた。秋田には地震による直接的な被害は少なかったものの、停電が続いて酒づくりができない、自粛ムードで酒が売れないなど影響は大きかった。それでもNEXT 5のメンバーたちは、被災した宮城・岩手・福島の酒蔵を支援するため、東京でチャリティーイベントなどを行った。

その後もNEXT 5は、世界的に有名なアーティストやパティシエとコラボレーションするなど、日本酒の価値向上と啓蒙活動を行っている。

自社圃場で無農薬栽培 秋田杉の木桶工房も

佐藤さんの改革とアイデアで、同社は13年に黒字化。今年はコロナの影響で生産量を10%減らした。「蔵元である前に一人の日本酒ファンで、日本文化全体が好き。自分の蔵を立て直すのも大事ですが、業界全体を立て直さないと」

蔵のポリシーは「伝統文化を再創造する」。佐藤さんは帰郷した時から、自社圃場(ほじょう)で無農薬栽培の米、生酛、木桶仕込みの酒をつくりたいと思っていた。現在、米は秋田市の山間部にある鵜養(うやしない)地区(「わがまちの10年後展望」の写真)で無農薬栽培している。

木桶仕込み(従来はホーロータンク)も進めているが、木桶職人の廃業が決まり、自社でつくらざるを得なくなった。「酒づくりだけをやっていては酒づくりが保持できないくらい、関連産業が衰退しています」。秋田杉を活用する木桶工房は22年春に着工予定だ。

日本酒の10年後については、フランスのワイン名産地を例に「日本酒を国際的に価値あるものにするには、酒蔵の努力だけでなく、原産地呼称制度や伝統的なつくり方などを制度化した方が、名産地としての名が上がります」と提言し、さらなる日本酒の価値向上を目指す。

会社データ

社名:新政酒造株式会社(あらまさしゅぞう)

所在地:秋田県秋田市大町6丁目2番35号

電話:018-823-6407

HP:http://www.aramasa.jp/

代表者:佐藤祐輔 代表取締役社長

従業員:40人

※月刊石垣2021年6月号に掲載された記事です。

わがまちの10年後展望

東北は日本酒の重要な産地 酒とともに蔵も価値向上

日本酒は今よりもっとかけがえのない飲みものになっているはずです。東北は重要な産地なので、日本酒の価値が上がると同時に、酒蔵の価値も上がっていくと思います。 (写真:秋田市鵜養地区 撮影:松田高明)
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