コロナ禍という未曽有の逆境に必死に耐えている中小企業は多い。しかし、このピンチに対して耐えるだけではなく、チャンスに変えようと奮闘している中小企業もある。自社の培ってきた技術を基にコロナ禍だからこそ求められているものに着目し、逆境に負けず業績を上げている。
事例1 コロナ対策製品をきっかけに地域の埋もれた技術を世に出したい
TGテクニカ(新潟県燕市)
〝金物のまち〟として知られ、小規模な金属加工企業が多く集まる新潟県燕市で、TGテクニカは金属部品の加工だけでなく、医療用培養器も製造している。2018年には、マイナスイオンとオゾンを発生させて空気をきれいにする「j.air」をフォレストウェル社と共同開発し、海上自衛隊にも導入された。この空間清浄器がコロナ禍の中、大きな注目を集めており、同社はこれをきっかけにさらなる発展を目指している。
インフルエンザ対策の製品がコロナ禍で注目を集める
TGテクニカがフォレストウェル社と共同で開発した「j.air」は、大量のマイナスイオンと微量のオゾンを発生させることで室内に除塵・除菌・脱臭の効果をもたらす空間清浄器である。室内のどこにでも置けるほど小型ながら、花粉やPM2・5を除塵するほか、ウイルスや病原性大腸菌(O‒157)などを短時間で除菌し、悪臭の素を分子レベルで分解して消臭するといった多くの機能を持っている。特に殺菌機能は、マイナスイオンとオゾンの併用により、それぞれ単体で使用した場合と比べて効果が10倍になることが分かったという。それにより、昨年からのコロナ禍の中、新型コロナウイルスの除去が期待できるとして、大きく売り上げを伸ばしている。
「j.airはもともと、家庭内のインフルエンザウイルスやO‒157を除去する機械として開発されました。17年に電子機器製品の企画・販売をするフォレストウェル社からお話をいただき、開発を始めたんです。製品のコンセプトや設計、デザインはフォレストウェル社が担当し、それを私たちが形にしました。家庭用ということで大きさに制限があったので、内部の機械をコンパクトにまとめるのに苦労しました」と、TGテクニカ社長の富樫智行さんは言う。
j.airは半年ほどの開発期間を経て翌年に発売されたが、当初はそれほどの反響はなかった。空気清浄機はほかにも数多くあり、どれほど数字の上では性能が良くても、まだ実績がない会社の製品では、他社製品との違いをアピールするのが難しかった。
「そこで、まずはレンタルで使っていただき、実際に効果があるかどうかを見てもらうようにしたら、それから少しずつ口コミで広がっていきました。また、販売代理店経由で海上自衛隊にも潜水艦内部の脱臭用に試用していただき、その後、納品につながりました。それが昨年の初め、コロナ禍が始まるちょっと前のことでした」
口コミで評判が広がり販売台数が増加
状況が大きく変わったのは、コロナ禍の問題が大きくなってからである。「新型コロナウイルスに効果があるのか?」という問い合わせが来るようになり、製品の受注も目に見えて増えていった。
「私たちは販売ではなく製造を担当しているのですが、こちらにも問い合わせが数多く来ました。去年4月から売れ行きがぐんと伸びていき、一番売れたのは昨年12月で、現在までに累計で3万台が出ています。広告は出していませんので、ほとんど口コミだと思います」と富樫さんは明かす。購入者の多くが消費者で、それ以外には企業や病院が導入しているという。
j.airの空気清浄機能の有効範囲は25畳で、価格は14万円。他社の製品に比べて有効畳数の広さの割に価格が安いということも、売れるようになった理由の一つだと富樫さんは分析する。
また、展示会に出展した際には、j.airもブースに展示し、来場した企業関係者にもアピールしていった。企業の場合、家庭内とは違って空気清浄機の設置場所が固定されることが多いため、取り付け方に対する質問や意見が多かったという。
一般的な空気清浄機は、吸い込んだ室内の空気から菌やウイルス、臭いを除去するが、j.airはオゾンとマイナスイオンを発生させ、空気中で除菌やウイルスを不活化(死滅させる)する仕組みだ。オゾンの新型コロナウイルスに対する効果としては、昨年5月に奈良県立医科大学が世界で初めて、「オゾンによる新型コロナウイルスの不活化」を確認したことを発表している。
「これにより『オゾンが新型コロナウイルスを不活化』できることが分かりましたが、j.airが発生させるオゾンで室内の新型コロナウイルスを不活化できるかどうかについては、まだ立証されていません。今はその検証に向けて準備を進めているところです」
部品加工で受注を減らすも空間清浄器で業績は2倍に
TGテクニカでは、コロナ禍により部品加工では受注がわずかに減ったものの、j.airの増産が続いたため、全体的な売り上げとしては前年に比べて2倍以上増えたという。
j.airは昨年5月の発売以降、そのシリーズとして新製品の開発も進めており、4月にはより小型化された「mukuri(ムクリ)」が発売されている。
「j.airは、今後も新たな製品を出していく予定でいます。それを世に出して受注量の拡大を図るのと、製品の良さを自分たちでアピールしていき、販売数を増やしていきたいと考えています。自分たちで製品をつくり、自分たちでも使っているので、説明をするにも気持ちが入ります」と富樫さんは力を込める。
またj.airだけでなく、自社製品の開発にも取り組んでおり、18年には自社オリジナルブランド「j.tsubame」を立ち上げ、金属加工の技術を生かして、チタンやステンレスを使った2層式タンブラーを発売した。
TGテクニカは、富樫さんの父であり現在は会長を務める克二さんが、燕市の加工技術を全国にアピールすることを目的に06年に創業した会社である。燕市には加工業者が数多くあり、会社から車で30分ほどの範囲だけで、たいがいのものはつくれると富樫さんは断言する。
「燕市の加工業者は、板金なら板金だけ、磨きなら磨きだけしかできないところがほとんどです。それぞれの技術は高いのですが、それをまとめて一つの製品にするところが、市内にはこれまでありませんでした。父も私も製造からのたたき上げで、加工については多くのことを知っています。それを生かして、部品の製造だけでなく、燕市の加工業者のまとめ役であるアッセンブリー・メーカーをメインにこれまでやってきました」
j.airを起爆剤に新たな製品づくりにも挑む
TGテクニカが医療機器メーカー向けに開発・製造している医療用培養器も、電気関係の製品づくりが得意だった先代の技術と知識を生かし、燕の技術を結集してつくったものだった。だが、消費者向けとしてはj.airが初めての製品となる。
「もともとはインフルエンザウイルス除去のためにつくった製品でしたが、コロナの発生でj.airは弊社にとって一つの起爆剤になりました。これをテコにして、新たな製品づくりに取り組んでいきたい。新たな製品のアイデアも、まだはっきりとした形にはなっていませんが、頭の中で常に考えています。そして、燕市だけでなく隣の三条市など周囲の地域の加工業者にも埋もれた技術は数多くあるので、それを世に出したいと考えています」
富樫さんは、自社の仕事を「まとめ屋」と呼んでいる。まとめ屋とは、周囲の加工業者と協力しながら金属の部品をまとめ上げ、最終的に自社で加工して、一つの製品として完成させて顧客に納品する業態である。TGテクニカは、コロナ禍をきっかけにして、自社の技術力や燕の加工技術をさらにアピールすることで、またこれから新たなことにチャレンジしようとしている。
燕市の技術と職人魂は、江戸時代初期に農民の副業として金属加工が盛んになって以来、400年に及ぶ歴史の風雪を乗り越えてきた。いまだ収束が見えないコロナ禍の逆風下においても、さらなる先を見据えて挑戦を続けている。
会社データ
社名:有限会社TGテクニカ
所在地:新潟県燕市小関字江東1414-1
電話:0256-61-6215
代表者:富樫智行 代表取締役社長
従業員:11人
【燕商工会議所】
※月刊石垣2021年7月号に掲載された記事です。
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