テーマ別企業事例 逆境に強くなる! 着眼点と技術力で業績を伸ばす

事例3 日本酒を飲まない人をファンにする伝統と革新のハイブリッド戦略

富士高砂酒造(静岡県富士宮市)

富士山の伏流水を仕込み水に、銘酒をつくり続ける富士宮市の老舗酒造メーカー、富士高砂酒造。優れた酒質は海外でも高く評価され、リキュールやスピリッツなどの〝変わり種〟も次々にヒット。コロナ禍でも業績は好調だ。ローカルとグローバルの両輪のビジネス展開で、コロナ禍でも手堅く果敢に前進している。

創業者、山中正吉が酒蔵を構えて約200年、能登杜氏(とうじ)の伝統の山廃仕込みの酒づくりを続けている

伝統の技を生かしてトップ主導で商品開発

富士山信仰の総本山、富士山本宮浅間大社の西側に位置する富士高砂酒造は、1830年の創業から現在の地で酒づくりを続けている。仕込み水は富士山の伏流水で、山頂に積もった雪が解け、敷地内に流れつくまでに約100年を要するという。その水で醸造される酒の評判を聞きつけ、コロナ禍前は酒蔵見学に団体客や訪日外国人観光客が多く訪れ、年2回の蔵開きには1日約1万2000人とすれ違うのも大変なほどのにぎわいをみせていた。

「とはいえ、コロナ禍以前から日本酒の国内需要は減っていて、良い酒をつくる酒蔵も淘汰(とうた)されるような状況です。10年ほど前はうちもその一つでした」

酒蔵を案内しながら、取締役副社長の山本晃雅さんはそう語る。富士高砂酒造は創業当初から、蔵に自生する乳酸菌や硝酸還元菌を活用する手法「山廃仕込」(以下、山廃)を究め、山廃の中でも口当たりが優しく少し甘みのある独自の〝高砂山廃造り〟を確立してきた。

「経営が傾きつつある中、自分たちの売りは何かを見直したときに、この山廃に行きつきました。新しい試みは何かと反対されるものですが、社長自らが動いて改革を進めていきました」

トップが掲げたのが山廃本醸造のリキュールづくり。杜氏(とうじ)の協力があって進展したというが、杜氏もまた元百貨店のバイヤーという〝変わり種〟で山廃のリキュールに市場のニーズありと読んだのだ。そして2011年、リキュールの開発が本格的に始まった。

「つくる技」に加えて「届ける技」も磨く

リキュールは地産地消をコンセプトとし、手始めに梅酒の商品化が進んだ。梅酒に緑茶エキスをブレンドするなど、茶処(ちゃどころ)・静岡らしさも取り入れ、第2弾は関東一の味と評される地元、富士宮市の「井出種畜牧場」(通称いでぼく)のヨーグルトを使った「高砂ヨーグルト酒」が企画された。だが、これにはさすがの杜氏もたじろぐ。

「酒蔵にとって外部の乳酸菌を蔵に入れるのはタブー中のタブー。主力商品である伝統酒に菌が混ざっては一大事です」

仕込む日と場所を分け、酒造期である10〜3月は、杜氏はヨーグルト酒に触れないなど、徹底した隔離で開発を進めた。そこまでしてヨーグルト酒にこだわったのはなぜか。「社長の勘」と笑いつつ、山本さんは続けた。

「リスクは大きいですが、『面白そう』という雰囲気が勝って、発売して人気が出ると、社内に自分たちならできるという自信と商品開発の機運が一気に高まりました」

ボトムアップで「高砂 酒レモンハイの素」が生まれた。その後も、珈琲スピリッツや紅茶スピリッツ、日本酒チョコ(期間限定)など、話題性のある商品が誕生した。

「他社との差別化と、日本酒を知ってもらうきっかけづくりになっています。今はお酒は酒屋だけではなく、コンビニやスーパー、ドラッグストアで買う時代です。購買行動が変わったのなら、お客さまの目に触れる所に、その場に置いてもらえる商品をつくる努力が必要です」と山本さん。自社ECサイトでの販売、海外20カ国への輸出も展開し、地元キャンプ場で土日限定の出張販売をするなど、客のいそうな所へ届ける技を磨いた。

コロナ禍は地域還元型のビジネスモデルが鍵

だからこそ、富士高砂酒造はコロナ禍でも業績が落ち込まない。

「海外輸出は減りましたが、需要が落ちたわけではなく、コンテナ不足の影響です。国内は飲食店の受注が減った分、家飲みが増えています。コロナ禍で多くの人の目が〝地元〟に向いている今、かつて富士市の支店で醸造していた酒を復刻し、富士市限定酒として開発した清酒『山中山屋』の販売にも力を入れています。地酒文化を支える商品になれば」

こうした地元を重んじる企業風土は、昨春の消毒用アルコール液が品薄になった際も発揮された。スピリッツの製造免許を取得していることから、いち早く各関係省庁に申請し、4月中には高濃度エタノール「高砂 アルコール77」を製造、採算度外視で発売した。

「ラベルやビン、段ボールなど、関連する地元の資材メーカーさんの協力あっての実現です」

地元で愛されてきたからこそ地元に貢献したい。特にコロナ禍には地域企業と連携し、地域に還元するビジネスモデルを展開できるかが鍵だという。

「コロナ禍は事業全般、関連企業や社員、お客さまとの関係性を見つめ直すいい機会と捉えています。ローカルとグローバル、伝統と革新の両軸で、文化としての日本酒を広めていきたいですね」

会社データ

社名:富士高砂酒造株式会社(ふじたかさごしゅぞう)

所在地:静岡県富士宮市宝町9-25

電話:0544-27-2008

HP:http://www.fuji-takasago.com/

代表者:山岸逸人 代表取締役社長

従業員:17人

【富士宮商工会議所】

※月刊石垣2021年7月号に掲載された記事です。

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