自社開発の管理システムで作業を「見える化」、大幅売り上げ増へ
和室の欄間や障子などに使う「組子」という伝統木工技術で高い評価を得ているタニハタ(富山市)は、商業施設やホテル向けに、壁面を飾るアートとしての商品を開発して売り出した。ところが、注文が増えるにつれてIT化が遅れていた社内が混乱。そこで自前のITシステム構築を決断、7年かけて機能を充実させ、表面化した課題を乗り越えていった。
インターネットを活用し業績悪化の窮地を脱出
タニハタは1959年の創業から90年代初頭まで、和室向けの欄間や障子といった組子製品を北陸の建具店向けに卸販売していた。技術力の高さに定評があり、77年には「第11回全国建具展示会」で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞した。
ところが、バブルが崩壊すると様相が一変する。住宅着工件数の減少、若い層の洋室志向といった悪条件が重なり、同社の業績は悪化。社長の谷端信夫さんは、「洋風のインテリア商材を考えて、大手家具店、カタログ通販会社に売り込みに行きました」。
B to B市場からB to C市場へ軸足を移すことで、一時的に売り上げは戻った。96年にはホームページを開設し、自社製品のPRや販売も行ったが、すぐに強敵が現れた。10分の1の価格で販売する中国製品だ。
再び窮地に立たされた2000年、谷端さんはテレビでインターネット・ショッピングモール「楽天市場」の存在を知り、「これからはインターネットでモノを販売する時代だ」と直感し、すぐに申し込みをした。
インターネットの爆発的な普及とネットインフラの整備が窮地を救った。04、05年頃から光ファイバー回線の普及により、インターネットで大容量のデータが扱えるようになると、ホームページに解像度の高い組子製品の画像や作業風景の動画を載せた。すると業者から、壁面を飾る「アート」として組子を駅、空港、ホテルの内装などに使いたいという大口の引き合いが来るようになった。個人住宅とは別の新たな組子市場が生まれていたのである。
「そこで、B to C向け商品を楽天で販売しつつ、B to B向けのホームページを新たにつくりました。難易度が高い組子の注文は職人のやる気を引き出し、付加価値の高い仕事は利益率が良く経営にも余裕が生まれました」
だが、良いことばかりは続かない。B to B向けの案件が増えたことが社内に混乱をもたらした。
組子業界は組子の会社→問屋→オーナーや建設会社というピラミッド構造になっていて、かつては底辺の組子の会社と頂点のオーナーや建設会社との直接のやり取りはご法度だったのだが、時代が変わり、ネットが普及したことによって、直接のやり取りが当たり前になった。
「一つの案件でも設計事務所、デザイナー、オーナー、建設会社、施工店というようにあらゆるお客さまとやり取りをしなければなりません。しかも、大口案件では納期が1年後、2年後になることも珍しくありません。履歴の管理や業務の進捗(しんちょく)管理が不可欠なのですが、当社の従来のシステムでは、やり取りを記した過去のメールを探すことすら難しく、情報の伝達や共有ができず、業務に支障が出るようになりました」
業務の混乱を教訓に独自のクラウドシステムを構築
そこで13年から富山のITコーディネーター・アイティ経営コンサルタント(当時アクセスネット情報技研)代表の長棟隆さんの支援を受けて、独自のクラウド版の総合的な受注管理システムの開発に着手した。顧客である業者を登録制にして、顧客情報、受注履歴、プロジェクト管理を一元化し、それらに携わる担当者とのやり取りと作業工程、進捗状況などをクラウドで共有化することが目的だ。
顧客とのやりとりはSNSのタイムライン(時系列)形式で行い、複数の担当者で対応できるようにした。過去の履歴を参照すれば、誰が対応したのかも即座に分かる。また、受注管理は、個々の案件管理、案件ごとのデータベース化などが容易になり効率化した。案件の進捗は、それぞれのパートを担当する職人がiPadで随時入力しているため、どこまで作業が進んでいるのかが、一目瞭然で把握できるようになった。
その結果、顧客ごと・案件ごとの情報を業務、製作現場、経理の各担当者がスムーズに確認できるので、社内連絡ミス・連絡遅延ゼロを達成。無駄な時間が削減され、デザイン提案、商品開発などクリエーティブな業務に使えるようになった。
業者に対しては受注の段階で正確な納期を伝えて確実に守ることができるため信用が高まり、先振り込みの現金取引という条件でも登録業者数は増え続け、現在は約8000社を超える。売上高は7、8年前と比べて3倍近くに増えた。
現金取引はキャッシュフローの改善に貢献し、自己資本比率90%、当座比率(当座比率=当座資産÷流動負債×100)は300%、無借金という優良企業に生まれ変わった。
谷端さんは、IT環境を構築するときの心得について、
⑴設計の段階で必要となる全ての項目をリストアップすることはできない。
⑵ある程度つくり上げたら稼働させながら修正や改良を加えていく。
⑶トップダウンで進めていけば、トラブルが発生しても(責任のなすり合いのような)反発や混乱は起こらない。
心得を忘れず、コツコツとIT化を進めていけば(同社は7年かけた)、「社内の業務効率化や生産性向上に役立つだけでなく、市場の拡大にも役立ちます」と谷端さん。ITは中小企業の強い味方であり、即戦力なのである。
会社データ
社名:株式会社タニハタ
所在地:富山県富山市上赤江町1-7-3
電話:076-441-2820
HP:https://www.tanihata.co.jp/
代表者:谷端信夫 代表取締役社長
従業員:21人
【富山商工会議所】
※月刊石垣2021年7月号に掲載された記事です。
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