東日本大震災からの復興の担い手となる東北各地の若手経営者の取り組みと思い描く10年後のビジョンを12回連載で紹介する
岩手・大船渡でガソリンスタンドなどを営む水野石油代表の水野伸昭さんは、東日本大震災で自社の施設に多大な被害を受けた。しかし、諦めずに大きく事業を転換した。地域全体のことも考えながら、化石燃料からの脱却という世界的な流れや、人口減少などに対応して事業を続けている水野さん。同社の現在と今後について伺った。
復興道路が全線開通へ 遠方から客を呼び込む
水野石油は、ガソリンスタンド運営やプロ整備士による車の手入れ、灯油や軽油、プロパンガスなどの配送を行う会社だ。創業は1957年で、現在は三代目となる水野伸昭さんが代表を務める。全国の地方都市と同様に大船渡も車社会のため、地域になくてはならない存在となっている。
同社の事業のうち、車を長持ちさせるためボディコーティングなどを行う「車、キレイの専門店キラット!」には、車で1時間以上の遠方からも来店者がある。
「この店の設備は特殊で、塩害に強いコーティングを用意するなどニッチでも遠くからもお客さまが来ることをやりたい。大船渡だけの商圏では、縮小するだけです」
大船渡も甚大な被害を受けたが、国が整備を進める復興道路は全線開通が目前。このうち宮城・仙台~青森・八戸をつなぐ三陸沿岸道路を通れば、以前は2時間かかっていた大船渡~宮古が1時間で行ける。復興道路の通行は無料(一部を除く)ということも復興を後押ししている。
「以前は沿岸部から買い物に行くには、盛岡や北上など内陸へ行っていた。今はタテ(沿岸部南北)の人の流れが増えています」
水野さんは道路開通による人の流れの変化を先読みし、2019年にこの新事業を立ち上げた。人口減少が進む地域で生き残るため、高付加価値サービスを提供する。
高付加価値サービスへ事業を転換
水野さんは高校卒業後、北海道の大学へ進学し、現地の大型雑貨店へ就職。28歳のときに地元へ戻った。慣れない自動車関連の仕事を覚え、2年後から経営に関する数字も見るようになった。
当時、先代の父は給油所2店舗とガスや軽油の配送、コンビニと100円ショップも経営していたが、水野さんは数字を見てがく然とした。「とにかく何とかしなければ」という綱渡り状態だった。会社の施設や備品を見直し、従業員の生産性向上など、次々と社内の改革を行った。
少しずつ状況が改善し、手応えを感じた37歳のとき、東日本大震災が起こった。給油所2店舗のうち、海に近い地区にある大船渡給油所は津波の被害を受けた。
「給油所全体が壊滅状態。地上にある建物も石油貯蔵タンクも何もなくなって。でも、うちの地下貯蔵タンクだけは残ったんです」
地下タンク内に海水が入り込んでいたが、何度も洗浄して使えるよう修理した。そこへ業務用暖房などに使うA重油を入れ、他社にも分けて各地へ配送した。
同社のコンビニなどは高台にあり、市内に残る数少ない店となって、震災直後には地域へ物資を提供した。震災から2年後の13年、被災した給油所を、産業用燃料などの配送を行う「大船渡デリバリーセンター」として再開。同年、水野さんは代表取締役に就任した。
その後も水野さんは、若手経営者対象の経営塾などで積極的に学び、高付加価値サービスの事業を新設することを決意。コンビニを改装し、19年に車のコーティング施設をオープンする。
「被災した給油所の周辺には顧客の個人や法人がたくさんいましたが、復旧したのは一部。失われた需要は戻ってきません。売り上げは震災前が100なら、震災後の復興需要ピーク時は150以上、現在は震災前の約50。特需が終わり、人口減少だけが残りました」
今後は社名が「石油」でもサービス業のイメージに
さらに、昨年から続く新型コロナウイルスの影響も大きい。人々は移動を控え、車に乗らないからガソリンは減らない。洗車やオイル交換も頻度が減り、車関連事業の売り上げは例年の2~3割減と厳しい状況が続く。
ガスや灯油は、巣ごもり需要で一般家庭向けは微増だったものの、飲食店などが休業を余儀なくされたため、産業用の外販部門は売り上げが減少した。
今は逆風でも、水野さんは10年後を見据えて動き続ける。今後は一般家庭向けにホームクリーニング事業も始める予定だ。
「サービスという技術を持つ従業員の強みを生かして、会社の中身を変えていこうと。10年後、社名は『水野石油』でも、お客さまには車のコーティングやホームクリーニングなどサービス業のイメージを強く持ってもらいたいですね」
会社データ
社名:水野石油株式会社(みずのせきゆ)
所在地:岩手県大船渡市盛町字木町6番地19
電話:0192-27-7166
HP:https://mizuno-sekiyu.com/smarts/index/0/
代表者:水野伸昭 代表取締役
従業員:14人
【大船渡商工会議所】
※月刊石垣2021年9月号に掲載された記事です。
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