地域に必要な人材の育成が地域や地元企業にとって深刻な問題となっている。そこで、地域を活性化し中小企業を成長させるため、若い人材の地域定着を目指して各地の商工会議所が取り組む、各世代に向けた新たなキャリア教育を紹介していく。
小学生向けITスクールを開講し未来のデジタル社会に先手を打つ
未来の人材育成事業に取り組む彦根商工会議所は、とりわけプログラミング教育に熱心だ。全国的にも先駆的な取り組みで、2019年には同所主催で小学生対象の常設ITスクールを、20年にはコンテストを開催した。民間、地域へ、プログラミング教育を盛り上げるモデルケースとして注目されている。
夏休みの短期集中学習から常設のITスクールへ発展
世界規模でIT活用が急速に進み、あらゆる産業でロボットやAIの普及が進んでいる。将来的にプログラミングを得意とするエンジニアの不足が懸念される中、日本では2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化された。それに先んじてプログラミング教育に着目してきたのが彦根商工会議所だ。
「17年の夏休みに3日間の『Tech Kids CAMP in彦根』という短期集中型のプログラミング入門ワークショップを主催しました。小学校3年から6年生約40人を対象にしたもので、大変好評だったので春休みも開催するようになり、これまで計5回、延べ195人の子どもたちが参加しています。リピート受講の多い人気イベントに成長し、これを受けて19年10月、常設のジュニアITスクールを開く運びになりました」
そう語るのは彦根商工会議所の副会頭、橋本健一さん。同所のIT推進研究会委員長を務め、株式会社橋本建設の経営者として建設業におけるIoTやIT活用を推進する一人だ。
そもそも同所が子ども対象の人材育成事業に本腰を入れたのは13年、小出英樹会頭の就任時に、未来人材育成のプロジェクトを重点項目の一つに掲げたことから始まる。前述のキャンプやスクールも、こうした中から生まれた具体策だ。
「キャンプは、小学生向けプログラミング教育を展開している『CA Tech Kids』というサイバーエージェントの子会社と協力して行い、講師役も地元の大学生とともに務めていただきました」と橋本さん。
大学生は同所と事業連携している滋賀大学のデータサイエンス学部の生徒。同学部は17年に日本で初めて誕生した、ビッグデータを処理・分析して新たな価値を創造する人材育成を目的とした学部だ。学生といってもスキルや知識は相当高いことがうかがえる。
PR告知や授業の質、サービスにも工夫あり
「キャンプもそうですが、常設のスクールも滋賀大学のデータサイエンス学部の生徒にアルバイトで講師をお願いしました。予想以上の希望者でしたが、小学生対象ですからコミュニケーション力に長けた学生が適任と考えました。15人を採用し、学習教材の使い方や授業のシミュレーションなど約5時間の研修を受けてもらいました」(橋本さん)。
ジュニアITスクールは、市内の小学2〜6年生を対象に、週1回1時間、彦根商工会議所内を会場に開催されている。プログラミングというと、難解なプログラミング言語がモニターに羅列されるイメージがあるかもしれないが、それをかなりビジュアル化した小学生向けオンラインプログラミング学習サービス「QUREO(キュレオ)」を使い、ゲーム感覚で学ぶことができる。
「スクール開催時に市内17の小学校にチラシを5000部配布しました。校内の掲示板に張られるのではなく、生徒一人一人に行き渡る枚数を用意して、保護者まで情報が届くように工夫しました。民間の学習塾ではなく公的機関の教室という安心感、低価格の受講料、欠席した回は振替受講ができることなどが功を奏してか、会員企業のお子さんやお孫さんを含め、多数の応募をいただきました」
当初20人だった定員を21年6月から40人に増やし、授業のコマ数を増やして対応するほどの盛況ぶりだ。
やる気と向上心をいかに高めるかが鍵
子どもたちがスクールに飽きない〝仕掛け〟もある。会員企業の協力を得て、先端技術を学ぶ工場見学をカリキュラムに取り入れ、20年には「ひこねKidsプログラミングコンテスト」を主催した。これは18年からCA Tech Kidsが主催する、全国No・1小学生プログラマーを決める「Tech Kids Grand Prix」と連携したもので、各地で開催されている地方大会の一つという位置付けだ。テーマやプログラミング言語は自由で、38作品のエントリーがあり、6人を表彰した。
「学校は生徒全員が平等に学べる場ですが、商工会議所なら地域と連携してもっと学びたいという子どもたちをサポートできます。IT分野では日本は世界に遅れをとっているといわれますが、ここ彦根はテレワークに適した環境が整う都市ランキング国内第1位です。これは日本経済新聞が人口10万人以上、285市区を対象にした調査ですが、滋賀大学のデータサイエンス学部をはじめ、教育機関や市民を巻き込んだIT人材の育成ができる土壌ができつつあると感じています」と橋本さん。
コンテストは今年も開催され、滋賀大学のデータサイエンス学部とは中学生対象のプログラミング教材の開発が進んでいる。教材も講師もカリキュラムも地産地消ができれば、ITが地域ブランドとなって市外からも優秀な若手人材が集う。そんなまちの未来像を帯びつつある。
会社データ
彦根商工会議所
所在地:滋賀県彦根市中央町3-8
電話:0749-22-4551
HP:https://www.hikone-cci.or.jp/m-home/
※月刊石垣2021年11月号に掲載された記事です。
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