東日本大震災からの復興の担い手となる東北各地の若手経営者の取り組みと思い描く10年後のビジョンを紹介する
東日本大震災と原発事故の風評被害を受け、一時は出荷量が激減した福島県の農産物。現在、出荷量は震災前に戻りつつあるが、価格は戻っていない。そんな中、「農家を元気にしたい」と奮闘しているのが福島市にある食品加工会社、ももがある代表の齋藤由芙子さんだ。「もったいない」をキーワードに、ふるさと福島で自ら開発したオリジナル商品を手掛ける齋藤さんの思いを聞いた。
規格外で廃棄される桃を「もったいない」と商品化
「全ては『もったいない』から始まりました。廃棄される桃ももったいない、受け継がれてきた漬物の技術がなくなるのももったいないと思ったんです」
ももがある代表の齋藤由芙子さんは、2016年に起業した理由をこう語る。同社は完熟桃を瞬間冷凍させたデザート「ももふる」や、福島の郷土料理「いかにんじん」などの漬物を製造販売している。主力商品のももふるは、規格外とされ「傷果」といわれる完熟桃が原料であり、その加工所は廃業予定だった漬物会社から引き継いだものだ。現在は加工所の隣にコーポレートカラーのピンクを基調とする店舗を構えている。
完熟桃は傷つきやすく、現地でしか食べることができないが、瞬間冷凍されたももふるはそのおいしさが味わえる。ピューレでもジャムでもない桃そのものという点が注目され、メディアでも多数取り上げられた。
同社には「①もったいない②福島の農業をもっと元気に③無添加・無着色④女性が活躍する会社」という四つのこだわりがある。同社が仕入れる規格外の桃は、通常加工用として格安となるが、同社では前述の②を実行するため、加工用価格の約30倍で農家から買い取っている。仕入れた桃は地元の女性たちが手作業で加工する。食品を手づくりする仕事には家庭料理のスキルが必要で、同社はシフト制を採用し、その結果家庭を大事にしながら仕事をする女性たちに支えられている。
齋藤さんは前職で県内の女性が活躍する姿を多く見てきた。社名の「ももがある」にはその体験を元に「桃ガール」と「福島には桃がある」をかけている。
欧州旅行がきっかけで震災後に福島へ帰る
「福島に帰ってくるつもりはなかったんです」という齋藤さん。震災前は、宮城県仙台市でゴスペルを歌ったり、指導したりするなど音楽関係の仕事をしていた。震災後、3カ月間で欧州15カ国を巡ったときに、原発事故があった福島を世界中の人が応援してくれていると感じた。「福島のことを発信するには良いタイミングなのではないか」と思った。
その後に福島へ帰郷し、縁あってNPO法人のまちづくり事務局で働くことになった。NPOで3年間働くうちに、農家の高齢化や完熟桃の廃棄問題に直面した。「もったいない」と齋藤さんは規格外の桃を使った加工品を開発したいと考えた。
しかし、加工する場所がなく困っていたところ、震災の影響で売り上げが落ちて廃業寸前だった漬物会社の社長と出会った。たまたまその加工所に瞬間冷凍機があり、試作途中の桃を入れてみると、細胞が壊れずに凍っておいしかった。齋藤さんは商売の経験はなかったが「これは売れる」と直感し、起業を決意した。
同社の社名や商品名がひらがななのには理由がある。海外市場を視野に入れ、日本のものとわかるようにしたのである。
「日本の果物は手間を掛けてつくるから、海外のものより味も香りも格段に上。福島の桃は世界一です。でも他県の桃に比べてブランディングが足りないので、海外で先に認めてもらう方がいいのではないかと思いました」
アフターコロナには世界から人を迎えたい
コロナ禍前にはフランスなどでプレゼンテーションする機会もあり、好評だった。齋藤さんは、日本人がフランスで本場のフランス料理を食べるように、海外の人が福島に来たら福島の郷土料理を食べたいのではないかと考え、「福島の食文化を伝える」ことをミッションにしていたという。
「コロナ後には、福島に世界のお客さまを呼び込みたい。そのために、生産者と料理人がつながって福島の食文化を伝える、体験型の旅を楽しんでもらう仕組みを考えています」
福島の食を世界へ。世界の人を福島へ。齋藤さんのビジョンは広がっている。
会社データ
社名:株式会社ももがある
所在地:福島県福島市田沢字木曽内前6-8
電話:024-547-3888
代表者:齋藤由芙子 代表取締役
従業員:8人
【福島商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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