瀬戸内の臨海工業都市として発展してきた呉市で創業し、70年以上の歴史を刻む三宅水産。同社が当初からつくってきた揚げかまぼこ「三宅のがんす®」が、急速に注目を集めている。もともと限られた地域で消費されてきた同商品が、「うまいでがんす®」の名で販路を広げた裏には、同社のリアル・マスコットキャラクターを自認する広報担当者の活躍がある。
捨てる魚のすり身を再利用した〝SDGs〟商品
「~でがんす」は、「~でございます」という意味の広島の古い方言である。それをもじって商品名にしたのが、魚肉練製品製造の三宅水産が販売する「三宅のがんす®」だ。同社が創業当時からつくってきた揚げかまぼこの一種で、魚のすり身にたっぷりのタマネギと唐辛子、調味料を入れて成形し、パン粉をまぶして揚げた食品である。タマネギの甘みと唐辛子のうま辛さが絶妙にブレンドされ、ご飯のおかずにも酒のさかなにもなる。長年、呉市近隣地域で愛され続け、今や広島のご当地グルメの一つだ。
「三宅のがんす®は、再利用から生まれた商品なんです。当初うちでは、魚のすり身の6割をかまぼこ、2割を揚げかまぼこ、1割をちくわに割り当てていたそうですが、余った1割を捨てるのはもったいないと考案したものです。今でいえばSDGsですね」と三宅清登社長の長女で、企画・広報を担当する結花さんは説明する。
魚のすり身と混ぜる食材として、あえて選んだのはタマネギだった。しかし、甘みがある分焦げやすく、それを隠すためにパン粉をまぶしたところ、おいしくてボリューム満点の食品が出来上がる。
「しかし、それだけで満足せずに試作を続け、唐辛子に目を付けました。味もそうですが、タマネギは水分が多くて日持ちしないので、殺菌作用のある唐辛子で保存効果を高めようとしたようです。その結果、最初はほんのり甘く、あとからピリッと辛さがくる、一度食べたら癖になる味が完成しました」
「がんす娘。®」の対面販売で販路を拡大していく
発売後ほどなく、日常的な食べ物として地域に定着したが、販路は限られていた。同社の主力はあくまでもかまぼこで、がんすはおまけのような位置付けだったのだ。
しかし、魚肉練製品の消費量はバブル期以降減少傾向にあり、同社の業績は徐々に悪化していく。2007年に家業に戻った結花さんは、大好物であるがんすの販路を広げられたら、売り上げに貢献できるのではと考えた。
「私は〝いけいけどんどん〟なタイプなので、『営業して売ってくる!』と清登社長に提案しました。業績を上げるには、看板になるキャッチーな商品が必要です。こんなに面白くておいしいのに、呉市外の人にはほとんど知られていない。がんすを三宅水産を代表する商品に育てようと決めました」
結花さんは自ら「がんす娘。®」と名乗り、まずは広島県全域への販路拡大を目指して行動を開始した。パッケージの商品名も「うまいでがんす®」と新たに、まだ売り場のない地元や広島市内のスーパー・駅・空港などに営業をかけ、可能な売り場では対面販売の機会を獲得していく。実際に試食しておいしさを認識されなければ、気に入ってはもらえないと考えたからだ。家族から「がんすばかり売ってどうするんだ」と言われても、結花さんはめげなかった。
「試食販売には私なりのやり方があります。まずはそのまま食べてもらい、次にトースターで焼いて食べてもらいます。そのままでもおいしいけれど、焼くと表面がサクサクになって格段に風味が増します。試食された人はほぼ皆さん買っていってくれますね」
当初はエプロンに三角巾といういでたちで対面販売をしていたが、身長150㎝の結花さんは人混みだと目立たない。そこで一計を案じ、「がんす娘。®」と描いた円盤を貼り付けた大きなコック帽をかぶることにした。リアルなマスコットキャラクターになりきり、県内の対面販売から県外の実演イベント、東京銀座の広島アンテナショップと日本全国に広げていった。
そのかいもあり11年ごろから売り上げが伸び始め、メディアにも取り上げられるようになる。オンラインショップでの販売も開始し、SNSでも発信するようになって知名度が上がり、以前は年間約35万袋だった販売数は、19年には72万袋と倍増。かまぼことの販売比率も4・5:5・5と逆転し、堂々の主力商品に成長した。
さらに知名度を上げてずっと残る商品が目標
20年以降はコロナ禍の影響で対面販売が思うように実施できず、店舗での売り上げは減少した。しかし、家で過ごす時間の増えた人をターゲットに、SNSで「がんすレシピ」を紹介したことなどが功を奏し、オンラインショップでの売り上げは好調をキープ。全体では底堅い売れ行きを維持しているという。
結花さんは今後、スーパーなどでの無人販売に力を入れたいと話す。無人販売とは、朝つくった商品を結花さんが店舗に運び、品出しをして売り場をつくるというもの。対面販売を行わない代わりに1日2カ所の売り場を回ることができ、客も運が良ければ「がんす娘。®」に会うことができる。この企画はスーパーからオファーが来るほど好評で、今や「がんす娘。®」は追っかけ隊がいるほどの、ちょっとしたアイドルになっている。
「〝いけいけどんどん〟の営業方針を止めるつもりはありません。『三宅のがんす®』を知らない人はたくさんいますし、販路を拡大できると考えています。そのためにも原材料の安定確保や製造ラインの調整などの課題をクリアして、『三宅のがんす®』をずっと残る商品にするのが目標です」と結花さんは前のめりに抱負を語った。
会社データ
社名:株式会社三宅水産(みやけすいさん)
所在地:広島県呉市広古新開6-16-2
電話:0823-71-7816
代表者:三宅清登 代表取締役
設立:1950年
従業員:23人
【呉商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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