人材なくしては、企業も地域の発展も望めない。とはいえ、ここ数年来のコロナ禍により業績も落ち込み、優秀な人材の確保が一層難しいという声も聞く。しかし、苦境だからこそ人材を雇用し育成することが、業績の向上だけではなく地域の未来も担うことにつながる。100年後の会社も地域も任せられる〝人財開発〟の育成に取り組む企業に迫った。
人に寄り添う教育で個性を生かし「会社の財産」を育てる
山形県米沢市にあるウフウフカンパニー(山田鶏卵)は、鶏卵の生産、製造、販売、卵を使った飲食店を展開している。同社は以前、欠員が出ると募集する不定期採用だったが、現在は定期採用を実施し、中堅社員の教育にも力を入れている。「人材は会社の財産」という山田浩樹社長には、人材を重要視する熱い思いがあった。
安定供給するも価格競争に従業員は疲弊
山田鶏卵は1956年にひよこの販売で創業し、60年に鶏卵事業を開始した。当時は農家が鶏卵を生産しても販売ルートが整っていなかったため、同社は協力農家から卵を仕入れ、流通システムをつくり、75年に法人を設立した。
現社長の山田浩樹さんは二代目で、90年ごろ家業の同社に入社した。当時は直販を行っておらず、大手スーパーなど量販店への出荷がほとんどだった。特に週末の特売日前になると、夜遅くまで残業した。「安定供給は当社の生命線だ。欠品させてはいけない」と必死だったが、従業員の中には激務に疲弊して辞める人もいた。
この頃、従業員の年齢層は高く、平均で40代後半だった。同社では欠員が出るとハローワークで募集するという不定期採用で、ほとんどが中途入社だった。また、人材教育は教育というよりも「見て覚えろ」という方法だったため、離職者も多かった。
2005年、同社は生産農場「山田ガーデンファーム」を新設した。さらに07年には本社工場を全面改装し、衛生的に洗卵選別できるようHACCPの管理手法に基づいて設備を整えるなど、商品の品質向上を図っていった。
しかし、量販店の売り場では価格競争が激しく、自社の卵の価値を理解してもらいにくかった。同社の鶏は約10万羽だが、大手鶏卵業者はその10倍~20倍の規模である。山田さんは「価格競争では大手に勝てない」と経営方針を見直した。
飲食店開業きっかけに定期採用と中堅教育を開始
同社は10年に自社サイトで卵の通信販売を開始した。卵は全国で生産されているため、当初は通信販売への参入を疑問視する人もいたが、同社の卵は好評で全国にリピーターができた。そこで、地元の人にも自社の卵の価値を分かってもらおうと、直売所を計画した。その計画が飲食店にも広がり、卵とスイーツの直売と卵料理のカフェ「ufuuhugarden(ウフウフガーデン)」を12年にオープンした。
同社では飲食店の開業をきっかけに、定期採用を導入する。また、先代の時代から長年勤務してきた人たちが定年を迎えるようになったことも定期採用開始のきっかけとなった。毎年、新卒を5~6人採用する計画で、今年は新卒4人と中途2人を採用した。新卒者は地元の高校や短大、食品や飲食関連の専門学校出身が多いという。
配属先は、高卒が農場と製造、短大卒が通販などの事務系、専門学校卒が飲食店とスイーツ製造が多い。新入社員研修の約1カ月間で社内の全ての部署を回り仕事を経験し、なじんでもらう。
新人研修で社長の山田さんが話すことは「卵の良さと価値」であり、詳しい仕事内容は各部署のリーダーが講師となる。教える内容を自ら考えて資料をつくることで、リーダー自身が成長することにつながっている。また、同社では人材コンサルタントのアドバイスも受けており、自己診断による意識改革などで中堅社員の教育にも力を注ぐ。
こうして人材育成に力を入れるようになってから10年がたった。従業員の年齢層は平均32歳と若返り、離職率は以前の半分以下になった。
「若手の育成には個々人の感性やバランス感覚が重要です。中堅社員が寄り添いながら新人を教育してくれるので、社員が定着するようになりました。良い人材がいなかったら商品のクオリティーは上がりませんし、手間を掛けなければ価値は生まれません」と、山田さんは人材育成の重要性を語っている。
優秀な社員が結婚し隣県へ リモートワークで在職可能に
現在、同社全体の売り上げ割合は量販店への出荷が70%、通販が20%、飲食店が10%。10年前と比べて出荷数量は減っているが、単価を上げているため売り上げは変わらない。中でも、飲食店は地元だけではなく、県内外から多くのお客さんが訪れる人気店になった。
「飲食店で手応えを感じてから、通販にもさらに力を入れようと思いました」という山田さん。同社の通販では新規客を合わせると毎月約9000件の発注があるが、電話やメールに対応するオペレーターは通常4人と、少数精鋭である。
ところが、このうち1人の中堅社員が結婚して隣県に引っ越すことになった。19年にこの報告を受けた山田さんは、仕事を続けたいという優秀な人材の思いを尊重し、20年からリモートワークを導入した。偶然にもコロナ禍の影響でリモートワークが一般化し、この社員の希望と一致した。
「人は財産です。必要な人材を確保したら、家庭の事情があっても働き続けてもらうにはどうすべきか。会社と社員のお互いのバランスが大事ですね」と山田さんは柔軟な対応の必要性を強調した。
会社データ
社名:株式会社山田鶏卵(やまだけいらん)
所在地:山形県米沢市成島町1-5-18
電話:0238-22-1000
HP:https://www.yamada-egg.com/
代表者:山田浩樹 代表取締役
従業員:85人
【米沢商工会議所】
※月刊石垣2022年6月号に掲載された記事です。
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