Q 当社では、在宅勤務を積極的に取り入れており、社員は、1週間のうち数日は自宅で勤務しています。在宅勤務していたある社員が、勤務時間中にトイレに行き、机に戻って椅子に座ろうとしたとき誤って転倒し、足首を捻挫してしまいました。これは労災として扱うことになるのでしょうか。
A ご照会の事例は、勤務時間中にトイレから戻り、作業を再開するために椅子に座ろうとした際に起こった事故です。事業主の支配、管理が継続している中で発生した事故ですので、業務を遂行する過程で生じた負傷といえます。
したがって、業務上の負傷に該当しますので、労災の手続きをとるべきでしょう。
テレワークの一環として、多くの企業で在宅勤務制度が採用されています。在宅勤務は、通勤時間が節約でき、就業時間の柔軟化、育児や介護との両立などを図る新しい働き方として積極的に位置付けられています。
在宅勤務における安全衛生の確保
事業者は、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければなりません(労働安全衛生法3条1項)。在宅勤務においても、事業者は、労働安全衛生法などの諸法令に従って、労働者の安全と健康確保のための措置を講ずる必要があります。
①作業環境整備
事業者は、労働者が自宅で勤務するときも、安全衛生が確保された環境で労働できるか確認する義務があります。
労働者の自宅は私生活の場ですので、作業環境の確認は、労働者がチェックしてこれを事業者に報告する形となります。例えば、自宅でパソコンを使用して在宅勤務するときは、次のような項目がチェックの対象となります。
・ 部屋は、作業を行うのに十分な広さがあるか、転倒することがないように整理整頓されているか。
・ 照明は、作業に支障がない十分な明るさがあるか。机上の照度は、300ルクス以上とする。
・ 机・椅子・パソコンは、目、肩、腕、腰に負担がかからないように配置し、無理のない姿勢で作業が行えるか。
②メンタルヘルス対策
在宅勤務では、周りに上司や同僚がいないため、孤独感を感じることもあります。上司は、在宅勤務している社員に対し適度な頻度でコミュニケーションを取り、社員の心身に変調が生じていないか把握する必要があります。
業務起因性の存否
労働災害は、労働者が業務上負傷し、または疾病に罹患(りかん)することです。「業務上」とは、業務と負傷、疾病との間に相当因果関係があることで、これを業務起因性があるといいます。業務起因性の存否については、労働者の負傷、疾病などが業務を遂行する過程で生じたと認められれば、業務起因性も推定されます。業務を遂行する過程で生じたか否かの判断においては、必ずしも現実に業務を行っている必要はなく、業務遂行のために事業主の支配下にあると認められるかで判断します。
在宅勤務においても、労働者は、一定の労働時間の中で労働しており、その間は事業主の支配下にあると認められます。労働時間中に、小休憩を取ったり、トイレに行ったり、体操・ストレッチを行ったりして作業を中断しても、それが労働時間の中で行われている限り、事業主の支配、管理下にあると認められます。
ご照会の事例は、在宅勤務中の社員が勤務時間中トイレに行き、作業場所に戻り、椅子に座ろうとしたときに誤って転倒し、足首を捻挫したというものです。勤務時間中に通常伴う用便から戻り、作業を再開しようとした際に起こった事故であり、事業主の支配、管理が継続している中で発生した事故ですので、業務を遂行する過程で生じた負傷といえます。業務と関係のない私的な行為から生じたものでもなく、業務起因性も認められますので、労災の手続きを取るべきでしょう。 (弁護士・山川 隆久)
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