マイクロモビリティーの開発から製造までを行う、乗り物ベンチャー企業のglafit(グラフィット)。同社が第一弾製品として世に送り出したのが、ハイブリッドバイクだ。自転車と電動バイクという二つの機能を併せ持ち、原付として登録する100%電動、モーター駆動の乗り物だ。日本ではなじみが薄いが、30~40代を中心に売れ行きを伸ばしている。
夢は和歌山から次世代乗り物メーカーになること
「ハイブリッドバイク」は、自転車と電動バイクの機能を備えた乗り物だ。ペダルをこいで走る自転車モード、スロットルを軽く回して電動モーターで走る電動バイクモード、自分の足と電動モーターの両方を使うハイブリッドモードがある。動力にリチウムイオン電池を使用し、乗る人の体重や走行状況にもよるが、最高速度30㎞/時、走行距離約34㎞と燃費性能にも優れている。
同製品と電動アシスト自転車との違いは、第一種原動機付自転車(原付)である点だ。そのため、ナンバー登録、運転免許証の携帯、ヘルメットの着用などが必須で、自転車モードでも走行は車道に限られる。
「海外には日本の原付に相当するカテゴリーがなく、時速25㎞程度のハイブリッドバイクは、手軽で快適な移動手段として普及しています。日本では法律によってさまざまな規制があり、海外製品を輸入してもそのままでは走れないため、あまり広がっていませんでした」と同製品を開発したglafit社長の鳴海禎造さんは、開発のきっかけを説明する。
鳴海さんは子どものころから機械の修理や組み立てが好きで、パソコンの組立販売などからビジネスに関心を強め、2008年にファイントレーディングジャパンを設立。自動車関連用品の企画や販売を行っていた。「和歌山から次世代乗り物メーカーになる」という目標があり、12年に社内プロジェクトとしてスタートしたのがglafitだ。英語の「glad」と「fit」を組み合わせた造語で、「人々の生活にフィットする楽しい乗り物を届ける」という思いを込めたという。
「こうして車の開発に乗り出したものの、乗り物づくりが未経験では難しいことも多く、大手自動車メーカーも最初は自転車にエンジンを搭載した乗り物をつくっていたので、まずは当社もそれにならうことにしました」
クラウドファンディングで資金調達額の最高記録を樹立
すでに海外では自転車バイクがポピュラーになっていたことに着目し、15年ごろから開発に乗り出した。当初から想定していたのは、軽自動車のトランクに入るサイズ感だ。そこで折り畳みができることを前提に、全体のデザインを決めていった。
次に、〝やること〟と〝やらないこと〟を明確にした。必ずやらなければならないのは、日本の道路を走るために法律で定められた保安基準をクリアすることだ。
「安全に関わるだけに最重要課題ですが、これが何十項目もあるんです。海外製品はもちろん、国産製品でも全てを満たしているとは限りません。当社は、それら全てを実直にクリアすることにしました」
保安基準以外にも、やるべき作業はたくさんあった。それらを一つひとつこなしていくのに多くの時間を要し、デザイン性に十分なパワーを掛けることができなかったという。しかし、デザインを突き詰めていたらきりがないため、自分が欲しいと思うラインを設けて、17年にようやく完成にこぎ着けた。
「この製品はクラウドファンディングで開発資金を募ったんです。目標金額は300万円でしたが、終了時に1億2000万円くらい集まり、資金調達額の国内最高新記録を樹立しました。応援購入という形で出資してもらったので、製品の初回ロット1000台が完成と同時に売れた計算です」
「GFR-01」と名付けたハイブリッドバイクは、日本ではなかなか手に入らないと不満を抱く人たちの潜在ニーズをつかんで注目を浴び、メディアにも多数取り上げられた。鳴海さんは話題性があるうちに販路を確保しようと、自動車関連用品の販売で取り引きのあったオートバックスに話を持ち掛け、1年間は同店舗の専売で先行販売した。それ以降は他社店舗にも販路を広げ、現在、全国の約300カ所で一般販売されている。
コロナ禍がパーソナルモビリティー需要の追い風となる
同社は20年に再びクラウドファンディングを活用して、電動立ち乗りスクーターを開発した。見た目はキックボードのようだが、れっきとした原付一種区分のバイクで、クラウドファンディングで約1300台が売れている。その間にも、ユーザーの声を受けてハイブリッドバイクのブラッシュアップを続け、21年にフルモデルチェンジした「GFR-02」を発売する。新たに取り付けた「モビリティーカテゴリーチェンジャー(モビチェン)」機構により、それまでは原付の基準に則って走行しなければならなかったが、電動バイクと自転車の二つの車両区分での走行が国内で初めて仕組み上可能となり、ハイブリッドバイクの将来性を高めた。
「新型コロナウイルスの感染拡大で、世界的にバイクや原付などパーソナルモビリティーの需要が高まっています。ハイブリッドバイクの注文も急増していて、現在の累計販売数は5000台を突破しました。しかし、コロナ禍で半導体をはじめ部品の調達が思うようにいかず、生産が追い付いていません。今は我慢の時期と捉え、次なる目標の実現のために力を蓄えておきたいです」
鳴海さんの言う目標とは、これからの時代を見据えた電気自動車の開発だ。そのテーマに向かって、日々新しい乗り物の未来図を描いている。
会社データ
社名:glafit株式会社
所在地:和歌山県和歌山市出島36-1
連絡先:pr@glafit.com
代表者:鳴海禎造 代表取締役
設立:2017年
従業員:16人
【和歌山商工会議所】
※月刊石垣2022年7月号に掲載された記事です。
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