2年半ぶりの海外はベトナムだった。コロナ禍前には年間20回近く海外に出ていただけに待ちに待った瞬間だった。9月初旬、降り立ったハノイ・ノイバイ空港には活気が戻っていた。入国手続きの列はビジネスマンが目立つが、欧州や日本、中国からの観光客もいる。タクシーで市内に入るとベトナムの変化を感じた。新築ビルが明らかに増え、幹線道路の整備は進んでいた。路上ではバイクが心なしか減って、乗用車に置き換わり、長らく工事が続いていた高架の都市鉄道2A号線が開通していた。ハノイというまちだけでなく、ベトナムという国全体がアップグレードされた印象だ。思い出したのは2000年頃から05年頃までの中国の変化だ。「世界の工場」の道を疾走しつつ、「世界の市場」に転換していった頃だ。
ベトナムはコロナ感染を機に一気にアジアの成長センターにのし上がった。アジア開発銀行(ADB)の成長率予測(22年7月改訂)ではベトナムはフィリピンと並ぶ東南アジアトップクラスの6・5%で、中国の4・0%を大きく上回った。インドは7・2%の成長予測だが、食料不足など減速懸念がある。世界銀行が8月に発表した予測でもベトナムは7・5%成長とアジアで頭抜けている。サムスン、アップルなどのスマホやネットワーク機器など電子産業がけん引車となっているが、その多くは中国からの生産拠点の移転。米中対立による中国生産のリスクがベトナム産業に着実な追い風となっている。
今回、衝撃を受けたのは「VinFast(ビンファスト)」ブランドの車をあちこちで見掛けたことだった。ベトナムの不動産など複合企業が17年に設立した民族系自動車メーカー。ガソリンエンジン車、電気自動車(EV)を生産している。かつて中国でも多数の自動車メーカーが勃興したが、先進国メーカーとは技術、デザイン両面で圧倒的な格差があった。だが、ビンファストはドイツのBMWの技術とイタリアのピニンファリーナのデザインを導入しただけに、いきなりグローバルレベルを達成していた。
ベトナムには日本だけでなく、韓国、米欧、中国など外資が怒濤(どとう)の勢いで進出しているが、地元企業もさまざまな分野で独自の成長を遂げていることに注目したい。そこには日本の中小企業と技術、生産両面で協力できるパートナー候補がいるはずだ。ここから10~15年はアジアの成長国のトップ集団に位置するベトナムでのビジネス開拓は必須となるだろう。
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