水産業にIt、Iotを導入し、漁場や漁獲高のデータ化を進め生産の現場と流通の一体化を図る「スマート水産業」への取り組みが各地で進んでいる。生産者と加工・流通が連携し、マーケットと直結することで、生産現場と消費者、さらに地域全体への経済的な波及効果が大きく見込めると語る「スマート水産業」の提唱者・和田雅昭さんと、スマート化に取り組む各地の事例を紹介する。
世界最先端の制御技術で海洋土木と水産業のニッチ分野の改革を促進
Iotを導入したスマート水産業が発展する中、注目されているのがソフトウエアとハードウエアを融合した制御技術だ。その分野で世界最先端の技術力を持つのが高知県高知市にあるパシフィックソフトウエア開発(以下、PSD)である。国内トップシェアを誇る超音波測深装置や、自動給餌システムなどニッチ分野で頭角を現す。
システム開発の経験を買われ海洋土木分野へ進出
驚異的なスピードで進化し続けるコンピューターやテクノロジー分野で、PSDは常に先頭を走り続けている。それも1972年の設立当初、まだコンピューターはおろかワープロも普及していない時代から、マイクロコンピューターを使ってさまざまなソフトウエアを開発してきた。
「高知初のソフトウエア会社として、ソフトウエアの中でも制御システムに特化して技術を磨いてきました。現在はソフトウエア開発の受託、システム開発、製品開発・販売の三つの事業を展開しています」
そう語るのは代表取締役社長の中城一明(なかじょうかずあき)さんだ。工場や物流センターの自動化システム、レーダーや通信などの電子機器システム、クレジットカードや電子決済システムなどさまざまな分野に携わり、世界最先端技術力を誇る。
ソフトウエアやシステムの開発は特性上、出向形式での業務や県外受注が多いため、地元高知に根差した事業を展開しようと自社製品の開発・販売事業を立ち上げたそうで、その前から高知県で盛んな一次産業の支援システム開発を受託してきた経緯がある。
海洋土木分野と深く関わるきっかけは90年代初め。海底の形状を測量する制御システムを開発できないかと話を持ちかけられ、そこから5年の月日をかけて97年に超音波測深装置「SeaVision SV500」を自社開発し、リリースする。超音波は濁った水に弱いといわれる中、独自の高度な制御技術と信号処理技術で常識を覆した。
未知の領域に挑戦し販売シェアトップを達成
「当時は超音波も電子回路もわが社にとっては未知の領域。電子工作レベルからのスタートでした。しかし、得意とする制御システムの延長線上の開発です。諦めずに挑戦し続ける社風ですから、やめなければ失敗になりません」と中城さん。
追い風も吹いた。中小企業にとっては開発費の捻出はネックだが、高知商工会議所に相談したことを機に、95年に中小企業創造活動促進法の高知県初の認定企業に選ばれ、2000万円の補助金を開発費に充てることができた。
当初は、超音波測深装置は鳴かず飛ばず。海洋土木の作業船オーナーは興味を持つが、現場スタッフからは「機械に頼らなくてもできる」と猛反発を受けてしまう。しかし、使えばその良さは分かる。サイズや価格など大幅改良して2002年に販売した「SV‒501」は口コミで評判となり、海洋土木工事分野で販売シェアトップに躍り出た。その後もシリーズ化してハードウエア、ソフトウエアともにアップグレードを続けた。今では国土交通省推奨の生産性革命プロジェクトの一つ「アイ・コンストラクション」に対応し、ICTを活用した国内海洋土木事業のスタンダードシステムとして販売シェアは国内トップだ。
「国土交通省が、民間事業者の新技術を積極的に活用することを目的としたデータベース『NEtIS(ネティス)』に申請登録できたことで風向きが変わりました。海洋土木の作業船は高機能化、大型化が進む時流に乗り、小型船舶のデジタル化はこれからと、海洋土木は伸び代のある分野です」(中城さん)
一次産業をデジタル化し地域の課題解決に貢献
そして〝水産革命〟をスローガンに、海洋土木分野で培った超音波技術を生かして19年に製品化したのがIot自動給餌システム「餌ロボ」だ。高知県はカツオ漁だけではなく、海面養殖業も盛んで、マダイの養殖業者との出会いから開発が進んだ。設定時刻に一定量の餌を供給する今までの装置とは一線を画し、魚の空腹状況を超音波センサーで検知してIotやAIを駆使した制御技術で給餌の効率化が図れる。また複数の生簀(いけす)をスマートフォンで一元管理でき、餌代や人手不足の悩みを解消し、魚の健康促進や魚が食べ残した餌で海に負荷をかけることもない。
さらには慢性的な人手不足で悩む魚市場にもPSDの技術が生きる。漁業協同組合の統合や魚市場の集約も進む中、「自動計量システム」を開発。水揚げされた魚の計量や入札の自動化から、入港する船の状況把握までタブレット端末一つでできるようにし、すでに県内のいくつかの魚市場で導入されている。
「そもそも水産業は課題だらけ。挑戦しがいがあります」(中城さん)
こうしたPSDのソリューション技術は林業にも貢献している。丸太計測システムや林業安否システムを開発するなど、林業が抱える収益性や人材不足の課題にも果敢に取り組み、地域産業を支える。
「開発には時間もお金もかかりますが、補助金などをうまく活用したり、産学官で共同研究したりと、中小企業でも自社開発は可能です。ものづくり企業として、水産業をはじめ、一次産業のデジタル化で社会貢献していきます」と中城さん。PSDの行動理念「我々は永遠に開拓者」のままに産業の課題に挑み続ける。
会社データ
社名 : パシフィックソフトウエア開発株式会社
所在地 : 高知県高知市本宮町105-22
電話 : 088-850-0501
HP : https://pacificsoftware.co.jp/
代表者 : 中城一明 代表取締役社長
従業員 : 76人
【高知商工会議所】
※月刊石垣2022年11月号に掲載された記事です。
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