1949年に広島市で三島商店として創業した三島食品。赤しその「ゆかり®」を筆頭に、ふりかけや混ぜごはんの素などを製造販売してきた同社は、2021年2月に広島菜の「ひろし®」を発売した。すると以前からSNSで注目してきた人たちの目に留まり、1カ月強で年間目標の1万ケースを売り上げる異例のヒットに。ひろし®とは? ゆかり®との関係は……?
意味深なネーミングがSNS上で話題を集める
ひろしって誰だ―? 種明かしをすると、これは三島食品が製造販売する混ぜごはんの素の商品名だ。県産品の広島菜を原料に使っていることが由来だが、発売前からその意味深なネーミングがSNSで話題となり、2021年2月の発売以降、破竹の勢いで売れ続けている。
「実を言うと、社内会議では『ひろこ』で行くと決まっていました。ところが、社長はしっくりこなかったようで、発売直前に急きょ『ひろし®』になったんです」と同社会長の三島豊さんは裏話を打ち明ける。それにしても、なぜ商品名が人名なのだろうか。
同社は創業当初より、ふりかけの製造をメインに扱ってきたメーカーだ。カツオやわかめなどを主に海産物を使った商品をつくっていたが、梅干しの色付けに使う赤しそに着目し、1970年に紫が鮮やかなふりかけ「ゆかり®」を発売する。紫はゆかり色とも呼ばれることや、古今和歌集で縁やゆかりがあるものとして「むらさき草」が詠(うた)われていることから命名されたそうだ。同商品は時間をかけて徐々に市場に受け入れられ、やがて同社の看板商品となる。続いて84年には青じそを使った「かおり®」を、2010年にはカリカリ梅を使った混ぜごはんの素「あかり®」(のちにピリ辛たらこのふりかけに変更)を発売した。名前を3文字の平仮名にしたのは、覚えやすさや親しみを考慮してのことだという。
ところが、思いもよらない展開が待っていた。「3姉妹!?」「かおりはゆかりの恋敵じゃなかったのか」などとSNS上で勝手なうわさが飛び交い、注目を集めたのだ。同社はそれまで商品名が人名のようだという認識はなかったが、ネットのうわさに応えるように3姉妹であることを公式に認定した。その結果、販売店などのPOPに「3姉妹」と書かれるようになり、売り上げにつながったという。
さらに20年には、「あかり®」からカリカリ梅の混ぜごはんの素を引き継いだ「うめこ®」を発売。案の定、「知らない女がいる」とのつぶやきを皮切りに、「うめこは3姉妹のおばあさん?」などの予想合戦が繰り広げられ、話題をさらった。
「SNSだけでなく、当社のお客さま相談窓口にも、『祖母はうめこ、母はゆかり、私はあかりという名前なんです』といったお便りが届くようになったんです。反響の大きさに、この頃ようやく人名のような商品名を意識するようになりました」
謎の男の登場で売れ行き急伸 たちまち出荷調整に
こうした流れを受けて登場したのが「ひろし®」である。原料の広島菜は、葉が大きくて1株2~3㎏もあり、ほぼ広島菜漬として利用される。野沢菜、高菜と並ぶ日本3大漬菜に数えられているが、栽培地が限られていることから、他の二つと比べてあまり知られていない。広島菜に着目したのは、商品を通じて知名度アップにつながればという思いもあった。
「商品は名前だけでなくストーリーも重要です。そこで『ひろし®』は、勝手に広島菜大使を名乗り、広島菜を日本中に広める使命を背負って登場したという設定にしました」
発売に先立って商品リリースを出すと、「謎の男、ひろし」「ゆかりの恋人?」などとたちまち話題になる。その反響を聞きつけたバイヤーから従来以上の注文が舞い込み、同社の年間販売目標の1万ケース(1ケース60袋)を、発売わずか1カ月強で達成した。
「むしろ売れ過ぎて原料の調達が追いつかず、発売と同時に販売をセーブする羽目になってしまいました。広島菜は通常、初秋に種を蒔(ま)いて11~12月に収穫するので、商品在庫が底をついたら年末まで欠品になりかねません。そこで急きょ春蒔きの広島菜を栽培するなど対応しましたが、結局11月頃まで出荷調整を余儀なくされました」
初めての男性名が強いインパクトを与えたことに加え、同じ名前の芸能人が商品を手にした写真を自身のSNSに投稿してくれたことで、幅広い層で認知されたことも売れ行きにつながったといえるだろう。その勢いは今も衰えておらず、売上累計は6億7800万円にも上る。
ふりかけが調味料に 今後は海外展開にも本腰
もともと同社商品の提供先は、学校給食や施設向けなどの業務用が約6割、市販用が4割という比率だった。しかし、コロナ禍で業務用の需要がダウン。代わりに巣ごもり需要の増加で市販用の売れ行きが伸び、全体の売り上げはトントンだったという。とはいえ、消費者の多様な声がすぐ耳に届く今、これまで以上にニーズに沿った商品開発が必要だと三島さんは言う。
「その前提として原料の確保が不可欠ですが、年々難しくなっています。そこで当社は安全で品質の高い原料の調達を目指して、06年から自社農園での栽培と研究に取り組んできました。その成果を踏まえて、今後は海外展開にも本腰を入れたい」
三島さんがそう話す背景には、外国でのふりかけ需要の高まりがある。日本でふりかけは「ごはんにかけるもの」という認識だが、外国では調味料としてサラダやパスタ、肉や魚料理などに使われているそうだ。そうした幅広い活用シーンを想定して、同社が今後どんな新商品をつくり、どんな名前を付けるのかに注目したい。
会社データ
社名 : 三島食品株式会社(みしましょくひん)
所在地 : 広島県広島市中区南吉島2-1-53
電話 : 082-245-3211
HP : https://www.mishima.co.jp/
代表者 : 末貞 操 代表取締役社長
設立 : 2016年
従業員 : 425人
【広島商工会議所】
※月刊石垣2022年11月号に掲載された記事です。
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