わが国の農林水産物・食品の輸出額は2021年に1兆円を超え、25年に2兆円とすることを目指す。今や食品の輸出に力を入れている企業は、日本産というだけではなく、輸出先となる各国の事情に合わせて独自の製法を生かし、細かな戦略で新たな需要を開拓している。そんな地域企業の取り組みを追った。
新潟ならではの「雪室熟成」食肉 雪国の知恵がブランドになる
新潟県新潟市にあるウオショクは、同県の山間部で昔から使用されている雪を使った天然冷蔵庫「雪室」を活用して国産牛を保存熟成させ、オリジナルブランドとして海外に輸出している。海外でも和牛といえば産地ブランドが知られているが、同社の商品は雪室を使った熟成方法がブランド化され、そのストーリーが独自性となって新たな販路を獲得している。
「熟成肉ブーム」と地域資源活用が結び付く
新潟県新潟市に本社があるウオショクは食肉専門店やホテル、飲食店などを主な取引先として食肉製造と販売を行っている。1967年設立の同社がオリジナルブランド商品開発を始めたのは98年からである。
「当時は、新潟県産の豚肉や輸入牛肉を中心に扱っていたのですが、他社との競争が激しくなり、差別化が必要でした」と語るのは現社長の宇尾野隆さんである。同社は、新潟県内の畜産農家とブランド豚「越乃黄金豚」を共同開発し、2004年から本格的に販売を開始。東京の展示会などで発表したところ来場者の反応がよく、販路が県外へ広がっていった。宇尾野さんは独自ブランドの重要性を再認識する。
その後、国内で「熟成(エイジング)肉ブーム」の兆しがあった。エイジングは、冷蔵庫で肉を熟成させると肉がやわらかくなりうまみも出るもので、欧米ではよく知られている。同社でも熟成させた肉が売れるようになったころ、宇尾野さんは新潟県の山間部で昔から使用されている雪を使った天然冷蔵庫「雪室」に出合った。
「雪室が冷蔵庫と同じ役割なら、そこで肉を熟成させればいいのではないかと。世の中の動きとして地域資源の活用というのもあり、雪室なら新潟らしさも出ると考えました」。そこで宇尾野さんは11年から雪室で熟成させた商品を開発し「雪室熟成和牛」「雪室熟成交雑牛」としてブランド化し、商標を取得した。産地ブランドとは違い、熟成方法により高付加価値を付けて独自性を出した。
輸出規制やコロナ禍などさまざまな困難に直面
その後、新潟県や新潟市から食肉輸出についての後押しがあり、同社は15年に香港へ「越乃黄金豚」の輸出を開始した。ブランド化した雪室熟成肉も輸出したかったが、輸出可能な屠場から雪室へ蔵移しをすることは当時の厚生労働省規定で許可されていなかった。2年後の17年、輸出牛肉における同省の規定が緩和され、香港へ雪室熟成牛の本格輸出を開始し、タイやシンガポールへも輸出を拡大した。
「規制が緩和されるまで、粘り強く待つことが必要でした。その間、豚肉を輸出しながら和牛もPRしました」と宇尾野さんは振り返る。さらに19年末から米国向け輸出を始めると、売り切れが続出するほど好評だった。
ところが、20年には新型コロナウイルス感染症の影響による打撃を受けた。当時、同社の売り上げ比率は輸出が3%、国内が97%で、主要な取引先はホテルや飲食店のためコロナの影響は大きく、売り上げは前年比40%減となった。また、22年夏からの急激な円安の影響で国産肉も輸入肉も仕入れ価格が高騰した。22年には同社の輸出の売り上げ比率が10%になり、円安によって利益率は上がった。国内の比重が高いため大事には至っていないものの、仕入れ価格はカバーできていないという。
農水省「輸出に取り組む優良事業者表彰」で受賞
現在、同社はシンガポールやベトナムなどのアジア圏と米国やカナダ、合計七つの国や地域に輸出を拡大している。こうしたことが評価され、農林水産省の「令和2年度輸出に取り組む優良事業者表彰」で食料産業局長賞を受賞した。同社の成功の秘訣は、商品のストーリー性と販売方法にあるようだ。
「雪室で熟成したというストーリーを(レストランの)お客さまに伝えられるので売りやすいと喜んでもらえます。海外の人がストーリーを喜んでくれるとは思わなかったので、意外でした」と言う宇尾野さんは商社やバイヤーを通さず、現地パートナー企業と直接やりとりをしている。
「私たちも現地に入り込んで一緒に商品を売りたい。その方がパートナー企業との信頼関係が築けるんです」と実感を込める宇尾野さん。現地企業には食肉以外も扱っているところが多く、今後は新潟県産の水産物や農産物の輸出も進めていきたいとしている。
独自ブランド商品開発や輸出事業開始など、新たな取り組みにチャレンジする宇尾野さんに、その原点について聞いた。
「商工会議所をはじめとする経済団体に所属しているおかげで、頑張っている人やパワーがある人に会って『自分もこういう人になりたい』と思うことが原点になっています。会社の中だけにいたのでは、そういう思いにはならなかった。目標となる人に出会えたことは幸せだと思います」と出会いの重要性を語った。
会社データ
社名 : 株式会社ウオショク
所在地 : 新潟県新潟市中央区鳥屋野450-1
電話 : 025-283-7288
HP : https://www.uoshoku.co.jp/
代表者 : 宇尾野 隆 代表取締役社長
従業員 : 約40人
【新潟商工会議所】
※月刊石垣2023年1月号に掲載された記事です。
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