粘着製品など機能性フィルムの開発・製造販売などを行っているコスモテック。BtoBをメインに事業を展開してきた同社が、2022年7月に発売した「wemo paper flip board(以下ペーパーフリップボード)」が時代のニーズを掘り起こして売れている。ホワイトボードは市場に幾多とあるが、この商品が消費者の心をつかんだ秘訣(ひけつ)とは。
口頭伝達だけでは伝わらないことを補足するツール
コロナ禍で急速に導入が進んだWEB会議。ツールの使い方に慣れてくると、どこか物足りなさを感じたことはないだろうか。
「従来の会議をWEB上で行う際、口頭伝達だけでは参加者に伝わらないことが結構あります。そんなシーンから着想したのが、『ペーパーフリップボード』です」とコスモテック社長の高見澤友伸さんは発端を説明する。
同商品のキャッチコピーは「WEB会議用ビジュアル筆談ツール」だ。文字通り、書くことで議論を見える化し、コミュニケーションを円滑にするためのアナログホワイトボードだ。ダンボール紙に特殊コーティングされたフィルムを貼ったシンプルな構造で、専用のペンとイレイザー(消しゴム)が付属している。画面映りに配慮したカラー、96gの軽量薄型、インクの消し跡が残らないことが大きな特徴だ。
同商品をつくった同社は、PCの液晶部材や半導体・電子部品の製造工程用テープなどの開発・製造を主事業とする会社だ。1989年の設立から順調に成長を遂げてきたが、高見澤さんが先代の父親から会社を引き継いだ直後、リーマンショックが起こった。
「受注がストップして、売り上げはピーク時の6分の1まで急減しました。会社を存続させるために、新たな事業をつくる活動をする中、立ち上がったのが『wemo』という商品です」
独自の技術で機能性とデザイン性をとことん追求
「wemo」とは、同社が初めて扱ったコンシューマー(一般消費者)向け商品シリーズで、「wearable memo(身に付けるメモ)」の最初と最後の各2文字を付けた造語だ。油性ボールペンで書いても消しゴムで簡単に消せて何度でも使えるサスティナブルな商品で、手首に巻くバンドタイプ、何かに貼り付けるパッドタイプ、中身を知らせる#tagシリーズなどバリエーションがある。ありそうでなかったアイデアが注目を集め、販売開始から4年でシリーズ累計85万個を売り上げるヒットを飛ばした。
「wemoには、当社の高分子材料を使った表面処理技術や再剝離できるシール加工技術などが応用されています。実用的なことに加え、オレンジをイメージカラーにデザイン性を高めたことで、多くの人に注目してもらえました」
wemoシリーズから新たに誕生したのが、ペーパーフリップボードである。注力したポイントは主に二つ。従来のホワイトボードの課題であるインクの消え残りの改善とデザイン性だ。前者については、サッとひと拭きで消せることにこだわった。同社の表面加工技術をもってすれば難しいことではないが、「きれいに消せる=インクをはじく」ため、書きづらくなってしまう。そこで既存のさまざまなホワイトボード用マーカーでテストし、書きやすさと消えやすさのバランスを探った。さらに、他社製品と筆記除去比較テストを行ったところ、同社の特殊コーティングフィルムにより、96時間経過しても消し跡が残らないことが確認された。
デザインに関していえば、シンプルな見た目ながら細部まで計算されている。例えば、色。WEB会議ではボードに書いた文字が白より見やすいという理由から薄いグレーを採用し、ガイド線にもなるオレンジの細かいドットがプリントされている。ダンボールの中芯もオレンジの紙を使い、断面から配色が見えるように工夫した。また、WEB画面上で人の顔が隠れないような形とサイズになっている。
「実は、ダンボールもグレーの紙も特殊なものを使っていて原価が高いんですが、既存の商品との差別化のためにも、機能性とともにデザイン性も兼ね備えたものにしようとデザイナーにこだわってもらい、wemoシリーズの世界観を守っています」
その結果、商品価格は3850円と従来品に比べて高価だ。しかし、昨年7月の文具・紙製品展で「第31回日本文具大賞2022」デザイン部門グランプリを受賞すると、一気に注目が集まり、あっという間に初期ロット分を完売した。
思いもよらない人との出会いからアイデアは生まれる
もともとBtoBで事業展開をしてきた同社だが、BtoC事業の立ち上げも寄与し、ピーク時の6割強程度まで売り上げの回復を果たしたという。とはいっても割合は9:1と、工業用粘着製品の開発・製造が主事業であることに変わりはない。しかし、外部環境の変化によって主事業の受注がいつまであるかは分からない。だからこそ、事業が一つダメになっても、ほかの柱がある状態にしておきたいと言う。
「ペーパーフリップボードを含むwemoシリーズのおかげで、世間に当社を知ってもらう機会が増えました。ただ、新たな柱はコンシューマー向けにこだわっていません。相手がBでもCでも、当社の技術が新しい何かに使えて、役に立てたらいいと。それには思いもよらない人との出会いから生まれるアイデアが必要なので、今後もオープンイノベーションを進めていきたい」と、高見澤さんは胸の内を冷静に語った。
会社データ
社名 : 株式会社コスモテック
所在地 : 東京都立川市錦町5-5-35
電話 : 042-526-1411
HP : https://www.cosmotec.ne.jp/
代表者 : 高見澤友伸 代表取締役社長
設立 : 1989年
従業員 : 40人
【立川商工会議所】
※月刊石垣2023年1月号に掲載された記事です。
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